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よし、なら一肌脱ぎ脱ぎしますか!

 取り敢えず、道で行き倒れていた犬っ子を一昨日お世話になった酒場まで引っ張り、机にダランと体を預けるその子の前にハーブ焼きをそっと差し出す。


「ッわふ!?」


 ハーブ焼きの匂いを嗅いだのか、勢いよく耳を立たせて飛び起きた彼女は一心不乱にハーブ焼きをかっ込み始めた。行儀なんてもっての外、その勢いとその身体に入るの? と言いたくなる食欲に、周りからの視線を一斉に集めていた。


「美味しい!! 美味しいわふ~!!」

「ちょっ、そんなに焦らなくてもハーブ焼きは逃げないニャ。あと葉っぱまで舐めるニャ!!」

「ヤダわふ!! 最後まで味わい切るわふー!!」


 いや美味しいって言ってもらうのは嬉しいけど、節度を弁えて欲しい。ハーブ焼きの器(葉っぱ)までを綺麗に舐め切る姿は正に犬、そして食べる量もだ。


 結局、売りものように用意したハーブ焼き30は全て犬ッ子に食べ尽くされた。彼女の足元に散らばった葉っぱの山を見れば、この子がどれだけ大食漢か分かるだろう。いや、女の子だから大食女か。


 私の頭に居座るイヅナも、目の前で大好物が食べられたことにご立腹のよう。身体に頭や尻尾を埋めて丸くなっている。ただの毛玉にしか見えない。


「いや~美味しかったわふ~!! ごちそうさまわふ!!」

「お粗末さまニャ」


 葉っぱから顔を上げた犬ッ子の口が油とハーブで汚れていたので、昨日毛皮で作ったハンカチ(品質:最悪)を差し出すと、「わふ~」と言って顔を近づけて大人しく拭かれた。


 と言うか、この語尾ダメだろ運営ェ……。何リャフカを量産する気だよ。


「あの、助けてくれてありがとわふ!! ホントに助かったわふ~」


 そんな心配など露知らず、何リャフカは満面の笑みを浮かべながらペコリと頭を下げてきた。まぁ先ずはこの子のこと教えてもらわないと。何故倒れていたのか、何故武器も着けずに下着姿で倒れていたのか。


「と、先ずは名前からかニャ……」

「僕はランカって言うわふ!! オキュは修行僧(モンク)、サイドは盗賊(シーフ)わふぅ~!!」


 ランカと名乗った少女は、尻尾を激しく振りながら抱き付こうと近付いてくるのを鞭をチラつかせて止めさせ、私も自己紹介をしておく。


「ニタにイヅナわふね。よろしくわふー!!」

「だから抱き付くニャっての!!」


 アカンこの子、多分アホの子だ。取り敢えず鞭をチラつかせて何とか黙らせることに成功。忠犬みたいで良かった。とまぁそんなことはどうでもいいのだ。


「取り敢えず何であんなところで倒れていたのニャ? 見た感じ、武器も防具も持ってないよう二ャけど?」

「そ、そうだわふ!! 早く探して返してもらわないといけないわふぅ!!」

「どこ行く気ニャ!?」


 私の質問を無視して酒場を飛び出そうとするライカを引き留め、何とか落ち着かせて机に座らせる。その際、頭と首元を同時に撫でてやったら、「わふ~……」と目をトローンとさせて机に屈伏した。やはりこの子、私同様『〇〇の気持ち』シリーズを取っているみたい。見た目からして犬かな?


 それに、ライカって見た目が子犬みたいで結構可愛いし、アバターの顔の違和感を感じないとなると現実(リアル)そのままなのだろう。そんな子が、下着姿で外に飛び出したら悪い意味で目立ってしまうし、何より大きいお友達が集まりかねない。主に兄貴とか兄貴(へんたい)とか兄貴(シスコン)とか。


「で、取り敢えず何があったのか教えてニャ」

「え~っとわふね~、実は~……」


 目をトローンとさせたまま緊張感のない声でランカは話し始めた。



「変なパーティに装備とお金をぼったくられたわふ」

「ぼったくられ二ャ!?」


 ランカの口から飛び出した予期しない言葉に、思わず叫んでしまった。酒場にいたプレイヤーの視線が集めるが、気にしている暇はない。


「ど、どういうこと二ャ!?」

「ん~……ぼったくられたは言い過ぎわふか? まぁいいわふ。でも、詳しく説明すると長くなるけどいいわふか?」


 ランカの問い掛けに首が千切れんばかりに頷くと、彼女は先程のまったりとした雰囲気から一転、真剣な顔つきで話してくれた。


 ランカがそのパーティに初めて顔を会わせたのは一昨日。彼女も私と同じ日にゲームを始めたらしい。


――ねぇねぇ君。見た感じ初心者だよね? 良かったらパーティ組まない? 丁度君好みの装備があるんだ。それも格安で譲るからさ――


 西広場に降り立ったランカに、中堅プレイヤーらしき男がこう声をかけてきたらしい。と言うか、なんかこの言葉聞き覚えがあるんだけど。気のせいかな?


 まぁ、私のことはどうでもいい。そう声をかけてきた男は、ランカに武器と防具一式を差し出してきてらしい。

 初期装備の性能の悪さは周知の事実。それを開始早々で、しかも格安で譲ってくれるのなら、乗らない話ではないだろう。


 こうして彼らの話に乗ったランカは初期装備と所持金全てを叩いて彼らから装備一式を譲り受け、彼らと一緒にフィールドへと繰り出したらしい。


 彼らは経験値が良いからと言って、ランカを連れて北の洞窟に足を運んだのだと。確か兄貴に聞いた話によると、北の洞窟って次の町に続くダンジョンだっけ? 経験値が良いっていっても、Lv1の初心者を連れていく場所じゃないよね。


「初めは一緒にMOBを倒していたんだけど、だんだん援護がガサツになってきてわふね? 何か変だなっ~、って思いながら戦ってたら、急に装備していたグローブが消えたんだわふ!」

「消えた二ャ? どんな感じ二ャ?」


 私の問い掛けに、ランカは何か思い出すように首を捻り、両手をわきわきさせ始めた。何やってるのこの子。


「何か、白い粒みたいなモノになって消えていったわふ!!」


 白い粒みたいなモノ、と言うことは、多分ポリゴンかな? と言うか、さっきの両手の謎の動きはなんだったのだろう? ……気にしたら敗けだね分かります。


「消えたのが戦闘中だったから、僕テンパっちゃったんたわふ。助けを呼んでも男の人たちは何処かに消えちゃうし、攻撃を喰らったら今度は防具全部が同じように消えちゃうし、そのまま倒されて街まで帰ってきたんだわふ」


 つまり、男達から買った装備一式に攻撃を喰らい続けると消えてしまう細工がしてあって、武器も防具もない素っ裸の状態で高レベルダンジョンに取り残されて、初心者装備一式と所持金を持っていかれた、ってことかな。


「街で倒れていたのは、空腹度が0になったからだわふ。僕のテス、【犬の気持ち】は装備していると空腹度の減りが2倍になって、バットステータスも2倍になるんだわふ」


 街に帰ってきてもお金もないから食料を、況してや普通のプレイヤーよりも空腹度の消耗が激しい彼女では満足に買えず、そのまま道端で倒れていた、と。


「だから、一刻も早くその人たちを見つけて、装備を返してもらわないといけないんだわふ!!」

「だからちょっと待つ二ャ!?」


 そう言ってまた酒場から飛び出していこうとするランカを押し留めながら、兄貴にコールを飛ばした。その理由は、『装備を壊れやすくする細工』が何なのかを知るためだ。


 今のままでもしその男達を見つけて返せと言っても、どうせしらばっくれるのが落ちだ。先ずは、奴等がどんな方法で装備を用意できたかを知らなくては。白を切るやつらを論破するには、相手の腹の内を把握することが大事だからね。


 案の定、コールは一回で繋がった。この速さに恐怖を感じるが、今は我慢しよう。


 ランカの話を兄貴に伝えると、兄貴は何も考えることなく直ぐ様こう答えた。



『それ、耐久値が残り少なかったんじゃないか?』

「耐久値二ャ? 二ャにそれ?」


 突然の謎ワードに思わず聞き返すと、兄貴は懇切丁寧に説明してくれた。


 耐久値とは、装備が持つデータの残量みたいなもので、分かりやすく言えば装備のHPだ。耐久値が0になると、装備はその形を保てなくなり、白いポリゴンとなって消えていくのだとか。

 耐久値は使えば使うほど減っていき、それを確認するには鍛冶師をオキュかサイドに奥か、鍛冶系のテスを取るしかないそうだ。因みに、耐久値の回復は鍛冶師にしか出来ないらしい。


 パーティに鍛冶師が居ればそういう装備を簡単に用意できる、と兄貴は断言したから、多分間違いないと思う。

 答えてくれてことにお礼を言ったら、兄貴の方で注意を呼び掛けてくれるとのこと。兄貴の情報網がどれだけか分からないが、私がするよりは良いかも。


「じゃあお願いして良い二ャ?」

『任せてくれ妹よ!! では、早速掲示板で同志達に報告だ!!』


 そう張り切って言い切った兄貴と通話を切つてランカに向き直ると、彼女は机に屈伏して寝息を立ていた、おい。


「何寝てる二ャ!! 起きろ二ャ!!」

「わふ~……だって話長いんだわふよ~」


 まぁ耐久値について懇切丁寧に教えてもらったから結構時間がかかったけど、これあんたの問題なのよ? 何他人事のように寝息立ててるんだコラ。


 取り敢えず、先ずこの子は下着姿(このすがた)をどうにかしないといけないわね。でも無一文、下着姿のこの子にそんなミッション言い渡しても達成できるわけないよね。となると……―――


「……はぁ、じゃあ今から行く二ャよ?」

「行くわふ? 行くって何処へわふか?」


 机から立ち上がった私を、ランカは不思議そう見上げてくる。いや、行くって言ったら決まってるでしょ。


「ランカの装備を買いに行く二ャよ。だってランカお金二ャんでしょ? それに、その格好でいるのもい二ャでしょ?」


 私の問い掛けに、ランカは小さく頷くも申し訳なさそうに肩を竦めて見上げきた。その表情SSに撮って売れば装備一式買えるんじゃないの?


「お金の心配? どうせ今日はアイテム売ってお金にするつもりだったけど、何に使うかまだ決めてなかったし、ちょうど良い二ャ」


 本当は自分の装備整えるつもりだったけど、こんな格好の女の子を見捨てて平然と居られるほど肝据わってないからね。

 それに、多分私もソイツ等に声をかけられたしね。一歩間違えればランカと同じ目に遭っていたと考えると、他人事とは思えない。


「……あ、ありがとわふ!! 恩に切るわふぅ~!!」


 申し訳なさそうな表情から一転、ランカは表情を太陽みたいに明るくさせて抱き付いてくる。今度は防げなかったから諸に衝撃が来たけど、あの笑顔見せられちゃぐぅの音もでなくなってしまう。


 そうと決まれば善は急げ。いつの間にか酒場が人で溢れかえっていたからその波を掻き分けて、私達は露店へと向かった。

GL展開にはならない筈です……多分。

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