第93話 ラファエル、お前もか
屋敷に戻ると買い物や酒屋巡りで試飲や試食をして来た私達の事を考えて、昼食の代わりにサンドイッチなどの軽食が準備されていた。
ちょっとフワフワしてるし、しっかり食べるのはキツイかなぁと思っていたのでとてもありがたい。
「おかえり、いい買い物はできたかな?」
「アデラが色々教えてくれたお陰で色々買えたよ、ウルスカに帰ったら色々研究するんだ~」
タイチが屋敷の住人の如くリラックスしながら迎えてくれた、ラファエルと一緒に昼食は済ませた様で、今は食後のお茶を飲んでいるところらしい。
しかし何故かラファエルの落ち着きが無い気がする、首を傾げていたらアデラに話しかけられた。
「私はアイルの持ってるマジックバッグの研究したいけどな…、容量とかどのくらいなの? 形見だから売って貰う訳にはいかないよね?」
「えっ!? そ、そうだね、形見はコレしか無いから…」
まさかまだ気にしてるとは思わなかった、思わずショルダーストラップをギュッと握る。
「商人なのに研究するの? アデラは商品開発もしてるのかい?」
「そうよ、魔導具作成出来る人材はタイチの家を頼れば何とか見つかるからね。新商品を出して客に飽きられ無い様にしないといけないし」
今度こそエリアスが助け舟を出してくれた、いい感じに鞄から話を逸らしてくれたのでこっそり安堵の息を吐く。
「アイル、サンドイッチ美味しいわよ、早く食べないと無くなっても知らないんだから」
ちゃっかり先にテーブルに着いて食べ始めていたビビアナに呼ばれて私も席に着く。
ふた口で食べられる小さなサンドイッチを頬張りながら上手に話題を変えてくれたエリアスに感謝しつつビビアナ達と手に入れた中華麺での新メニューの話をした。
「それにしてもまさかアイルが御先祖様と同郷だなんてねぇ」
「…ぅグッ、ゲホゲホゲホッ、ケホケホッ……な、何を…ゴホッ」
アデラ達と話していたはずのタイチがいきなりブッ込んで来た、驚きのあまり飲みかけの紅茶が気管に入って咽せる。
ニコニコしているタイチとは対照的にラファエルは気まずそうに目を逸らしている、お前か!!
「な、何を言ってるのよ、タイチったら」
「ははは、君達も知ってるんだろう? ラファエルから聞いたんだ、この部屋に居た人は皆聞いちゃったよ? それにしてもそれだけ動揺するなんて本当なんだね、今やっと確信したよ」
ビビアナが咄嗟に誤魔化そうとしてくれたが、無駄な様だ。
「す、済まない…。食事の話をしていたんだが…気が付いた時には流れでポロッと…」
こ…っ、このクソエルフその2!!
アデラと『希望』の皆はあまりの事に言葉を失って固まっている、部屋に控えていた執事とメイドも心なしからソワソワと落ち着きが無い。
「コホン、それが周りに知られるのは本意じゃないから秘密にしてね。情報漏洩を防ぐ為に王都を焼け野原になんてしたくないし」
喉に引っかかっていた紅茶を咳払いで取ると動揺を抑えつつ余裕気にニッコリ微笑んで警告した、内心今すぐ頭を抱えて床を転げ回りたいくらいだけどね!
タイチの仕事したく無いスタイルは油断させる為の罠だったんだろうか。
「じゃあ…本当なの!? て事は新しい商品のアイデアを他にも知ってるとか!? タイチってば普段は役に立たないクセに偶にこうやっていい仕事してくれるのよね! わかってると思うけど絶対他に漏らしちゃダメよ!?」
アデラが興奮しつつにじり寄って来たかと思ったら、タイチにビシッと指を突き付けて口止めした。
「一応執事やメイド達にも口止めはしておいたから…」
申し訳なさそうに私の顔色を伺いながらラファエルが呟く様に言った。
あの時馬車で私がうっかり言わなかったらラファエルも知らないままだったのに、ある意味この状況も私のせいか…。
「……タイチ達も含めて勝手にバラしたら私から報復を受けると思ってね」
幸いというか何というか、賢者サブローの恩恵でタイチ達は裕福だからお金の為に私の秘密を売ったりしないだろう。
執事やメイドも安定した伯爵家の仕事を捨ててお金の為に私に狙われる事は避けるだろうし。
それにしてもジワジワと私の秘密を知る人が増えてきちゃってる!!
いつか権力者にバレたらどうしよう、ガブリエルが「陛下を味方につけておいた方が良いと思って」とか言ってバラしそうで怖い!
ハッ、ダメダメ、こんな事考えたらフラグになりかねない。
両手で顔を覆って俯いていたら横から威圧というか、なにやら圧が掛かったので顔を上げると、満面の笑みのアデラが真横に立っていた。
「な、何…?」
「うふふふふ、新商品の為に賢者アイルの知恵を拝借したくって…、コレが口止め料だと思ってくれていいわ。むしろ噂が流れたりした場合、撹乱して真実を隠すお手伝いをするからね!」
あ、情報独り占めというか他所に私の存在を知られたら自分達が損をするって考えてるのがわかる。
まぁ、ある意味わかりやすくて助かるんだけど…新商品の為の知恵と言われても何を言えば良いのやら。
他の人に聞かれるのを警戒してか、サロンのテラス席に連れ出されて紙とペンを準備したアデラが張り付く様にスタンバっている。
「えーと、食品関係の物の方が良いんだよね?」
「売れそうな物ならとりあえず何でも教えてもらえると嬉しいわ! 醤油とかの消耗品だと美味しければ利益は確実だけどね」
折角だから無くてガッカリしたものを研究して貰おうかな、作り方は知らないけどたれみそとかのノウハウがあれば出来るのも早いかもしれない。
「欲しい調味料があるんだけど、たれみそとはちょっと違って白だしって言うんだけど…」
バレてしまったのなら利用させて貰おうと、win-winの関係を築くべく欲しい物の名前と概要をいくつかアデラに説明する。
ラーメンスープもその中に入っている、利益の一部を渡す代わりに今後もアイデア提供するという事で、私とアデラは固く手を握り合った。




