第60話 2度目のトレラーガ
最初に泊まった宿屋がある町で幸いにして固定剤が見つかり、これまでとは比べ物にならないくらい快適な馬の旅である。
そして順調に旅を続ける事1週間、見覚えがある外壁の街に到着した。
「あれ? 並ばなくていいの?」
長蛇の列にうんざりしつつも並ぼうとしたら、ガブリエルは前回私達が通った住民が使う短い列の方に向かった。
「ふふふ、私は《《王立》》研究所員なんだよ? 公的機関だからこそ特権というものがあるのさ」
ドヤ顔で身分証をヒラヒラと見せてきた、ウザいけれど助かるのは間違いない。
すぐに順番がきてガブリエルは門番に身分証を見せる。
「王都からの呼び出しの為、護衛5名と共に通らせてもらうよ」
「…はっ、ようこそトレラーガへ!」
門番はエルフだと気付いて一瞬呆けたが、すぐにビシッと敬礼して私達を通した。
考えてみたら私もガブリエル以外にエルフなんて見た事無いし珍しいんだろうな、言動のウザさでつい忘れちゃうけど。
「なんてぇか…、マトモな奴のフリも出来るんだな…」
「ふぐぅっ」
ホセの言葉に思わず吹き出しそうになってしまった、確かにさっきの対応はマトモな人っぽかったけど!
「うぅん? 何を言ってるのかな? まぁそれよりもお勧めの宿はあるかい? トレラーガに来たのは大体10年振りだから街並みも多少変わってるだろうねぇ」
「じゃあ今回も月夜の雫亭でいいか?」
「「「「賛成!」」」」
リカルドの提案に賛成した、あの4人部屋が空いてたら泊まりたいし、時間があればミゲルの顔も見に行きたいな。
ガブリエルは1人部屋だろうから空いてさえいれば泊まれるよね!
「え…っ!? 私だけ別の部屋なのかい!?」
月夜の雫亭でチェックインする時にガブリエルが悲壮な顔をした。
「この宿に5人部屋は無いからな、俺達は前回も4人部屋に泊まったんだ」
「えぇ~!? じゃあアイルが一緒に泊まってよ。4人部屋なんだからそっちは4人で泊まればいいじゃないか」
「何で成人女性の私がガブリエルと2人で泊まらなきゃいけないわけ!? 部屋割り的におかしいでしょう!?」
「あ、そういえば成人してたんだっけ、見た目が見た目だからついつい忘れちゃぁうッ」
思わずローキックを繰り出してしまい、ガブリエルは膝をついた。
「ひど「1人部屋で決定ね?」はい…」
有無を言わせぬ笑顔でゴリ押ししたら大人しく従った、折角あの新しくなったベッドの部屋に泊まれるというのに何が悲しくてガブリエルとゴワゴワシーツの部屋に泊まらなきゃいけないのさ。
ふふふ、今夜は久々に獣化したホセをモフりながら寝られる事が決定したね。
部屋へと向かうおうとしたら受付のお姉さんに呼び止められた。
ニコニコしてるから良い話なんだろうけど、なんで私だけ?
「アイルさんにずっとお礼言いたかったんですよ! エドガルドさんに治安を良くする様にって言ってくれたんですよね!? 私財を投じて自警団を設立してくれたり街灯を増やす様に領主様に交渉してくれたり…お陰で以前より安心して出掛けられる様になったんです」
「へぇ…、言った事守ってくれてるんだ」
「ええ! 二言目にはアイルさんが夜でも1人で街を安心して歩いてもらえる様にって…、約束したからと言ってるらしいですよ? でもその分忙しくて疲れているのか気怠げな姿が更に色気を醸し出してるとファンも増えてて…むふふ」
このお姉さんもファンなのだろうか、エドガルドの姿を思い出しているらしく左上に視線を向けたままニヤついている。
私がついて来て無い事に気づいたエリアスが呼びに来てくれたのでお姉さんとの話を切り上げて部屋へ向かった。
現在の時刻は午後3時、明朝には次の町へ出発するからこのままゆっくりするか街を散策するか相談する。
途中でガブリエルが乱入してきて少し休憩したら一緒に買い物に行こうと誘いに来た。
30分程休憩してから買い物に行こうとドアを開けるとノックしようとしていたエドガルドが立っており、目を見開くといきなり抱き締めてきた。
「アイル!! ああ、本当に居た、会いたかったよ! 私は君との約束を守ったよ、褒めてくれるかい?」
「わぷっ、エドガルド…苦しいから…っ」
お姉さんが言っていた通り、少し窶れて更に色気が出ている様に見える、本当の色気は30代からって言うけど本当なんだなぁ。
それにしても凄く良い匂いがする、良い香水使ってるとみた。
「おっと、ごめんよ、あまりにも嬉しくて。(チラッ)………例えどれだけ成長していても私の気持ちは変わらないからね…!」
「エド…!」
そっと私を解放したエドガルドの手をキュッと両手で包み込む、そんな私を見て仲間達は驚いて息を飲んだ様だ。
だけど、だって、今エドガルドったら私の胸が成長した事に気付いてくれたんだもん!!
今まで誰も気付いてくれなかったんだよ!?
多分だけど抱き締めた感触が前と違ったのかもしれない、そして視線が一瞬胸に向けられたから間違いない!!
男がチラ見のつもりで見ていても女からしたらガン見されてるのと同じくらい気付くからね!
「宿のお姉さんから聞いたわ、治安良くする為に頑張ってるんですってね? 約束通りご褒美としてこれからはエドって呼んであげる」
私が満面の笑みでそう言うとエドガルドは感激した様にアメジスト色の美しい瞳を潤ませて跪く、そんな私達を背後に居たガブリエルはポカンと口を開けて見ていた…らしい。




