第59話 王都へ向けて出発
「寒いよ~、身体はいいけど顔が痛いくらい寒いよ~」
すっかり真冬の気候になったウルスカを貸し馬屋でいつもの馬達を借りて街道を走ると、新調したコートと背後のホセの体温で身体は温かいが顔の体感温度がヤバい。
「魔法で防風すればいいじゃないか、アイルならできるでしょう? 私はやってるよ?」
「あ…っ」
ガブリエルが不思議そうに言った言葉にハッとなる、元々魔法が無い世界から来たからそういう発想が出にくかったというか…。
例の魔導具とガブリエルを王都へ連れて行く為に出発した私達は寒風吹き荒ぶ中馬を走らせているというのに1人だけちゃっかり防風していたガブリエルにジトリとした視線を向けた。
「てっきり風を楽しんでるのかと思ってたよ、よく寒いと言ってくっついてくる人とかいたし」
「あっそ」
見た目に騙されて寄ってくる人はいくらでもいそうな美形だもんね、見た目さえ良ければ中身はどうでも良い人もいたかもしれないし。
性格を知ってしまった事に加えて1時間も無駄に寒風を耐えていたせいで今の私は少々心がささくれている。
えーと、皆にも防風を施すなら馬も込みで付与魔法みたいにしないとダメだよね、ドーム型の障壁でいけるかな?
「『風障壁』」
「お、風が止んだ」
「風が無いだけで全然違うね、ありがとうアイル」
「本当だな、助かる」
「髪もボサボサにならずに済むし、アイルったら凄いわ!」
「えへへ、良かった」
馬の鞍を中心に障壁を展開してみたけど成功した様だ、風《《の》》障壁ではないので周りの風が荒れる事も無い。
寒さの問題が解決したら今度はお尻の痛みが気になってきた。
「はぁ、空飛ぶ雲や魔法の絨毯ならお尻が痛くなる事もないんだろうけど…、馬車でも結局お尻が痛くなるしなぁ…」
「ははっ、なんだそれ」
「私が住んでた世界のお話に出てきたアイテムなの、あったら便利だと思わない?」
「いやぁ~、あまり評判は良くなかったよ」
ホセと話していたらガブリエルが割り込んできた。
「てことはそんな魔導具があったって事か?」
「雲は無いけど絨毯はあったんだ、だけど評判がすこぶる悪くてすぐに廃れちゃったんだよね」
「何で? 風圧は魔法で防げるでしょ?」
他の皆も興味があるのかガブリエルに視線が集中している。
「絨毯って柔らかいでしょ? だから重さによって沈み方が違うせいで安定しなかったり、特に女性が複数乗ると沈み度合いのチェックが水面下でされてギスギスしたり…」
「「あ~…」」
ホセは首を傾げたけど、私とビビアナの納得の声が被った。
同じくらいの身長なのに自分のところが深く沈んだら屈辱だもんね、陰口のネタにされそうだし。
「それじゃあ硬い物をと言って馬車の本体を浮かせようと思ったらかなりの魔力が必要になるから実用的じゃなかったのさ、だったら自分1人に浮遊魔法掛けるとか転移魔法陣を設置した方が早かったからね。転移魔法陣もそれなりに魔力が必要だから今ではエルフの里同士でしか使えないけど」
「そっかぁ、アラジンのは絨毯に意識があるからこそなんだねぇ…。1人用だったら絨毯じゃなく座布団とか…、あ、それより自分への浮遊魔法か…」
「周りから見てバレねぇ程度の浮遊魔法を試してみたらいいんじゃねぇ?」
ブツブツと呟きながら考察していたらホセが提案してくれた。
「ん~、だけど自分だけ楽するのは皆に申し訳ないし…」
「あたし達は慣れてるから大丈夫よ、1度試してみたらいいじゃない」
風を切る音が無いせいか後方を走るビビアナとも楽に会話出来ている、私はありがたい申し出に乗る事にした。
「じゃあ試してみるね、浮遊だけするからホセに押してもらう形で進むって事でよろしくね」
「ちゃんと捕まえといてやるよ」
「『浮遊』」
「あ、アイル、それダメだよ。1発でバレるやつだ」
浮いた瞬間エリアスからダメ出しが入った、うん、私も自分で気付けたよ。
何故なら乗馬中の上下運動が無くなるからホセとの動きが全然違う上に、捕まえてもらって無理矢理馬に合わせて動かして貰うと私がシェイクされてしまう。
「く…っ、こうなったらお尻に優しいクッションを探すか作るしかない…!」
諦めて魔法解除し、決意を新たに拳を握った。
「なぁんだ、こういうの探してるって事? 氷魔法で捕獲したスライムの核に固定剤の薬品を注入すればこういう透明なゼリー状になるんだよ。あ、そういえば5年くらいで固定剤が劣化するから今はもう人族では使われて無いんだっけ、コレは先週作ったばかりだから言ってくれればついでに作ったのに~」
ガブリエルの鞍をよく見ると2階から卵を落としても衝撃を吸収しそうな透明ジェルに覆われていた、言ってくれればと言われても存在自体知らなかったんだから頼める訳が無い。
「………ホセ、ちょっとくらいガブリエルに石弾ぶつけても許されると思わない?」
「気持ちはわかるがやめとけ、それより固定剤とやらが手に入る町に着いたらスライム探して作らせた方がいいだろ」
職人街のある町であれば固定剤は手に入るらしいので、ガブリエルに人数分のスライムシートを作る事を約束させて道中スライムを探しながら馬を走らせた。




