第417話 ウィルフレド王子一行 side
「逸れると迷うからしっかりついてきて下さいね」
トルニア王国の3人の道案内をするガブリエルは街中を歩く時と変わらぬ足取りで森の道無き道を歩いて行く。
一方ガブリエルについて行く3人はというと、木の根で凸凹している上に草や石という障害物でよろめきながら何とか追いかけている状態だった。
「ガ、ガブリエル殿と申されましたか、我々はあなた方と遭遇するまで3日間森の中を彷徨っていたのですが、森の外まではどのくらい掛かるのでしょうか」
アイル達と別れて30分程歩いた頃、騎士のライネリオが殿を務めながら尋ねる。
「あはは、それは思い切り幻影魔法に掛かっていた様ですね。ほら、もう森の切れ目が見えていますよ」
ガブリエルが振り返りながら進む先を指差すと、そこには木々に遮られず太陽の光を受ける道が見えていた。
「そんな…、あれ程彷徨ったのにこんな近くに道があるとは…」
侍従のロランドが疲れ切った声を漏らす、老体と言っていい身体はアイルの治癒魔法のお陰で回復はしていたが、体力は既に限界だった。
「ここはエルフの森と言われるだけあってエルフ以外の人が来ても確実に迷いますからね。もしも迷わずにエルフの里に辿り着いたとしても入れませんし。来るなら外に出ているエルフの信頼を得て同行してもらうしかありませんよ」
「なんと…、そうだったのか…では「さて、森の外に到着しましたので私はこれで失礼します」
ウィルフレド王子の言葉を遮り踵を返すガブリエル、そこへロランドが待ったをかけた。
「お待ち下さいガブリエル殿、我らの滞在先を確認する様にとウリエル大司教様に言われていませんでしたか?」
「おっと、そう言えばそうですね、(興味が無いから)忘れていました。ここからあちらへ2日歩くと村がありますが、途中に2ヶ所キャンプ場があります、どこで待機しますか?」
「食料が乏しくなって来たので村を目指したいと思います」
「わかりました、今日から3日後、移動が遅れた場合を考えて4日後には行く者が居れば姿を見せるでしょう」
「あのっ、ガブリエル殿が我が国に来るという選択肢はありませんか!?」
ウィルフレド王子が縋る様な目でガブリエルに訴えた。
「申し訳ありません、私は既にパルテナの貴族なのです。とは言っても宮廷魔導師では無く魔導具の研究員をしているのですが」
「確かパルテナの魔導具研究所所長は人族だった様な…」
ロランドが顎に手を当て考え込む。
「あはは、そうですね、今の王の教育係をしていた時に所長ではなくなりました。今は支所長をしています、お陰でアイルに会えたので今の所長には感謝していますよ」
実質地位を乗っ取られた事をニコニコ笑いながら嬉しそうに話すガブリエル、3人は一瞬ポカンとしたが、ロランドはすぐに立て直して目を光らせた。
「確か賢者様のお名前はアイル様とおっしゃいましたね、ガブリエル殿は賢者様と親しいとお見受けしましたが…」
「え? ま、まぁ…《《友人》》になって1年は経つし、家に食事を作りに来てくれるくらいには《《親しい》》かな」
浮かれてうっかり素が出るガブリエルにロランドは笑みを深めた。
腹の内を見せない貴族の本音すら見抜く今は昔ブラウリオを助けた時より老獪さを増している、そんなロランドからすればガブリエルが求めている言葉を導き出すのは朝飯前だ。
ガブリエルに好印象を抱かせ、エルフの里で積極的に自分達の事を良く言って貰う為にロランドは頭をフル回転させる。
そして見事に最適解を導き出した。
「それならば《《親しい》》お2人を引き離す様な勧誘を先程した事を改めて謝罪致します、家に来て手料理を振る舞って頂くなんて《《余程親しい》》間柄でないとありませんから。今後魔法の指導の為に王自らが賢者様を招待するかもしれません、そうなると数ヶ月…下手をすれば年単位でガブリエル殿と賢者様が会えなくなるかと…。そうならない為にも是非ともどなたかが我が国の宮廷魔導師を引き受けて下さると良いのですが…」
申し訳無さそうな顔で力無く首を振るロランド、そしてそのロランドの言葉でガブリエルの顔つきが変わった。
「そうか…、そういう事もあり得ると。……わかりました、私からも興味のありそうな者を説得してみましょう」
「ありがとうございます! そう言って頂けてとても心強いです!! ここまでありがとうございました、この先の村で吉報をお待ちしております、それでは失礼致します」
「ええ、ここからは滅多に魔物は出ませんがお気をつけ下さい」
「世話になった、感謝する」
「ガブリエル殿、ありがとうございました。ではウィルフレド王子、参りましょう」
ロランドとガブリエルが別れの言葉を口にすると、ウィルフレド王子とライネリオも感謝の言葉を述べて別れ、3人が歩き出すとガブリエルはサッサと踵を返して森の中へと入って行った。
「はぁ…、さすがロランド殿、見事な人心掌握術でしたね。あの短い時間でガブリエル殿を味方にするとは」
今夜の休息地であるキャンプ場へ向かいながらライネリオが感心した様にため息を吐いた。
「この様な時の為に私が同行を命じられた様なものですから…。王子、先程は思い付きで申しましたが宮廷魔導師を迎えられなかった場合はすぐでなくとも賢者アイル様に魔法の講師としてお越し頂ける様に交渉すべきかと。ガブリエル殿の話を聞いた限りお優しいお方の様ですし」
「む…、お優しい…? そうだな、最悪の事態に備えて考えておく事は必要だ」
先程の挨拶で冷たくあしらわれたウィルフレド王子としては素直に頷き難かったが、信頼するロランドが言うのならそうなのだろうと無理矢理自分を納得させ、キャンプ場へと足を進めた。




