第368話 調査員エリアス
「寝かせて来たぞ」
おじいちゃんがホセを寝室に運んでリビングに戻って来た。
ホセが酔い潰れたのでリビングに移動したが、エドが帰らないと私は皆に飲ませて貰えないだろうと思って既に宿に帰した。
帰るのを渋っていたので、朝食を食べに来て良い事を条件に追い出したとも言う。
あれだけホセがカパカパ飲んでるのを見ていたら私も飲みたくなるのが当然というものだろう。
ちなみにビビアナは妊娠中で飲めないのでセシリオと一緒に部屋へ引っ込んでしまった、今頃セシリオの騎士の制服を剥ぎ取ってビビアナが着ているかもしれない。
あちらはあちらで楽しんでいるだろうから、私も心置き無く楽しめるというものだ。
「おツマミは何にしようかな、最近は休養日多めだったから色々作り置きしてある分迷っちゃうな~」
私はいそいそとネックレスを外してストレージに収納し、数種類のおツマミを並べていく。
「アイル、鶏皮は無いの? あのパリパリのやつ、滅多に出さないよね?」
エリアスのリクエストで揚げ焼き鶏皮を出す。
「これでしょ? 乾燥させてからパリパリになるまでじっくり揚げ焼きするから時間がある時しか作れないんだよね」
「これこれ! ずっと食べたかったんだよ!」
エリアスはグッと拳を押しつけて割ると、一欠片口に放り込んだ。
以前は鶏皮をキッチンペーパーに挟んで電子レンジを使って水分を飛ばしていたが、今は魔法で乾燥させられる。
それでも私が求めるパリパリレベルにするには時間が掛かるのだ。
「これは食べた事が無いやつだな」
おじいちゃんも興味津々で口に入れ、パリポリと音を立てて咀嚼した。
「んん! これはビールに合う味だな!」
「おじいちゃん分かってるぅ~!」
おじいちゃんは小樽からジョッキにビールを注ぐとゴクゴクと喉を鳴らして飲んだ。
もう今日はビール祭りだね、小樽を飲み干すつもりでのんじゃおう。
私もビールを飲みつつ、いくつかのおツマミを口に入れてはグビグビとビールを喉に流し込んだ。
「おいおい、そんなペースで飲んで大丈夫なのか? アイルは一気に飲むと早く酔いが回るだろう?」
既に私の酔うパターンを理解しているリカルドが心配そうに声を掛けてきた、まだ1杯目だからよっぽど大丈夫なのに。
「まぁまぁリカルド、今日はホセが先に寝ちゃってるからアイルが酔っ払っても怒る人は居ないからいいじゃない? さ、アイルおかわり注いであげるね」
ニコニコとビールを注いでくれるエリアスを訝しげに見る、こうやってお酒を飲ませようとするなんて怪しいんだけど。
とりあえず警戒した方が良さそうだから今夜は3杯でやめておかなきゃ。
そう思った時もあったはずなのに…。
「れね、わらしにこいびとができたときのおとーとのたいどとよくにてたからかぞくとしてのやきもちらとおもったわけよ(でね、私に恋人が出来た時の弟の態度とよく似てたから家族としてのヤキモチだと思ったわけよ)」
「アイルもちゃんと考えて言ってたんだねぇ」
「えんりけもわかってくれるのれ~、らってしゃあ、おんなとしてしゅきでしっとしたらおこるれしょ? ほしぇのはどっちかってゆーとしゅねてるかんじらったもん(エンリケもわかってくれるのね、だって女として好きで嫉妬したら怒るでしょ? ホセのはどっちかって言うと拗ねてる感じだったもん)」
「やけにアイルに酒を勧めていると思ったらこういう事を聞き出す為だったのか」
「しょうらよおじいちゃん、えりあしゅはこういうひとなんらよ。うちのぱーてーでいちばんのはらぐろしゃんなんらか…ら…。(そうだよおじいちゃん、エリアスはこういう人なんだよ。ウチのパーティで1番の腹黒さんなんだから)すぅすぅ」
「寝た…」
私はエリアスの呆れた声も届かない程深い眠りに落ちていた。
[リビング side]
「あはは、酔ったアイルはいつもいきなり寝るよねぇ」
「本当だよ、こういうところはまだまだ子供だと思っちゃうよね。とりあえず飲ませた責任取って部屋まで運んで来るよっ…と、うわ軽いなぁ」
隣のエリアスに頭を預けて眠ってしまったアイルの寝顔を覗き込んでエンリケが笑った、エリアスは苦笑いしながらヒョイとアイルを抱き上げるとリビングを出て行った。
「しかし…、ホセはアイルが異性として好きだと思っていたんだが、まさか母親の姿を重ねていたとは思わなかったな」
ブラウリオはそう呟いて、アルコールでいつもより熱くなった息を吐いた。
「確かに。言っては何だが普段の言動を見ていると、嫉妬の種類に気付ける程アイルが繊細だとは思わなかった」
「リカルド、それは酷いよ~! アイルは自分の恋愛に興味が無いだけで心の機微には結構敏感だよ。自分が恋愛対象にならない様に態と鈍感なフリしてるとは思った事あるけど、どうも無意識みたいなんだよね」
「今はかなりマシになったが、出会った頃のアイルは恋愛に関する話を振られると表情が無くなっていたからな。今までの話を総合して考えると恋人が浮気をして別れた様だな、しかも1人では無くこれまでに何度も」
「僕が居ない間に面白そうな話してる~」
リカルドが話していると、アイルを部屋に運んだエリアスが戻って来た。
リカルドは浮気されたアイルの話を面白そうな話と言うエリアスに苦笑いを浮かべる。
「アイルは大人しく寝たか?」
「うん、運んでて思ったけど、アイルって本当に小さいよね。ホセってば何度もアイルを運んでいたせいで庇護欲をそそられて恋愛感情と勘違いしたんじゃないかって思っちゃったくらいだよ」
「「確かに…」」
今までエリアスがアイルを抱き上げるという事は無かったが、何度も経験のあるリカルドとブラウリオが頷いた。
「あとね~、運んでる時に聞いた事の無い男の名前…だと思う寝言言ってたんだよねぇ。僕の勘だと以前求婚して来たっていう奴の事だと思うんだ、『ナントカのバカ』ってあの言い方は絶対男だよ!」
そんなエリアスの言葉に3人はアイルにとって本当にホセが恋愛の対象外だったのだと改めて思うのだった。




