第335話 ダイエットと天敵と
「なぁ…、アイルの奴朝っぱらから何やってんだ?」
「鍛錬の一種よ、深く聞いちゃダメ」
ホセとビビアナの会話が聞こえたが、私は呼吸を意識しながらある動作を繰り返すのに忙しい。
シートを敷いた地面に座り、膝を曲げた状態で足がつかない様に浮かせ、自分の左右の地面を交互に触る事100回。
「98、99、100…っ! 終わったぁ…」
ゴロリとシートの上に大の字に転がる私、今はウルスカまであと3日程という場所にあるキャンプ場に居る。
昨夜はここで過ごして今は朝ごはんの前だ、何故こんな事をしているのかというと、女性の皆様はお気付きだろう。
そう、太ったのである。
教会本部へ向かう最後の船旅辺りから薄々気付いていたけど気付かないフリをしていたが、今朝ふと服に着替えていた時にズボンの紐をリボン縛りに結んでいてハッキリと自覚させられた。
リボン縛りの余る部分の長さが3分の2くらいになっているくらい太ったという事を。
正確には太ったというより緩んだという方が正しい、大氾濫の帰り道なんかは馬に乗って移動したお陰で見事なくびれが出来ていたのに、それが馬車や船旅でゆるやかになってしまったのだ。
ビビアナは変わって無い様に見えるのに、狡い。
「100回程度じゃ変わんねぇだろ? 意味あんのか?」
「あれだけじゃないわよ、さっきから色々頑張ってたんだから余計な事言わないの! 全く…いつまでも乙女心のわからない子供なんだから」
寝転がって息を整えながらホセに苦言を呈すビビアナに心の中でエールを送る。
私は起き上がってシートの上にテーブルを出し、朝食を並べた。
「朝食の準備が出来たよ~!」
私の声に全員集合して食事を始める、行く先々でパンを買うが、その村や町で微妙に味が違う。
日本の食パン専門店でも支店によって微妙に味が違うもんね、もっちり感強めだとか甘みが強めだとか。
そういえばスイーツパンやおかずパンって無いかも、ドーナツはあるのになぁ。
パンというベースはあるから商業ギルドに登録しなくても良いかなぁ、もし必要だった場合私がパン屋さんに教えたやつを他の人が勝手に高値で登録したら嫌だし、1度相談に行ってみるべきか。
「アイル、今度は何を考えているんだ?」
咀嚼しながら考えていたらリカルドが話しかけてきた。
「え? よく考え事してるってわかったね」
「ククッ、アイルは考え事してる時は1人で頷いているからすぐにわかるぞ」
「えっ!? 私にそんな癖あるの!?」
私の言葉に皆が頷いた、しかもおじいちゃんまで!?
知らなかった、無くて七癖って本当なんだね。
そしてエリアスがニヤニヤしながら口を開く。
「今回は食べ物の事でしょ、しかもパンが関係してる」
エリアスってばエスパー!?
「ど、どうしてそう思ったの?」
「ふふふ、今からさっきのアイルの真似してあげるよ」
そう言ってエリアスは手に持ったパンを数秒ジッと見つめ、パクリとひと口齧ると目を瞑って咀嚼しながらウンウンと頷き、再びジッとパンを見た。
うん、これなら誰でもわかるね。
「で、パンの何考えてたんだ?」
ホセはそう聞いてホットカフェオレに口をつける。
「えっとね、サンドイッチは皆食べてるじゃない? だけど他の…普通のおかずをパンに挟んだものが無いなぁっと思って」
「照り焼きチキンサンドがあるじゃないか」
リカルドは手に持っている照り焼きチキンサンドを顔の横に掲げ持った。
「サンドイッチじゃなくて…、えっと、こうやって…こんな風に…っと、完成!」
私は大きめのロールパンを1つ手に取り、バターナイフで無理矢理上部に縦の切れ目を入れ、ストレージから出した焼きそばを詰め込んだ。
「その麺料理は普通の食事として食べた物だろう?」
「まぁまぁ、食べたらわかるって!」
おじいちゃんが首を傾げた、炭水化物on炭水化物の魅力を知らないから仕方ない事だろう。
私は笑顔でおじいちゃんに焼きそばパンを差し出すと、結果的に三口で焼きそばパンは消えた。
「これは美味いな! 商業ギルドに登録した方がいいのではないか!?」
「それなんだよ! 元々あるもの同士だし、サンドイッチという具を挟む料理が既にあるんだから登録すべきかどうか商業ギルドで聞こうと考えてたの」
「サンドイッチとは形状もこれまで使っていた具とも違うから別物として登録した方が良いと思うよ。主食に主食を合わせるなんて今まで無かったと思うし」
長く生きてきたエンリケが言うのなら間違い無いだろう。
「わかった、ウルスカに戻ったら登録してくるね。さて、もう皆食べ終わった? そろそろ片付けて良い?」
「ちょっと待て」
「ん?」
立ちあがろうとしたらホセから待ったが掛かった。
「じいさんだけか?」
ジトリとした視線を私に向けるホセ、どうやら焼きそばパンを自分も食べたいと言う事らしい。
他の皆も期待した目を私に向けていた、だがしかし、先程出したお皿で焼きそばは最後なのだ。
「焼きそばが残り少ないから全員分作れないよ? 3個分かなぁ、具を少なくして5個作るか、その場合焼きそばとパンとのバランスが…。またはジャンケンか、3つ作ってから切って分け「じゃーんけーんぽん! あーいこーでしょ! あいこでしょッ!」
エリアスの掛け声で始まったジャンケン大会を、何が始まったのかわからず呆然と見守るおじいちゃん、12回に渡る勝負の末、エリアスとリカルドが涙を飲んだ。




