第334話 自制とお楽しみ
「あれ? アイルはもう飲まないの?」
「うん、今日は2杯でやめておくの、だって…うふふふふふ」
エリアスの問いにホセとおじいちゃんの耳を見て込み上げる笑いが抑えきれなかった、ちょっと酔っ払ってるかもしれない。
完全に酔っ払ったら貴重な幸せのダブルもふもふの夜の記憶が無くなっちゃうもんね。
「そうだねぇ、酔っ払って獣化してないのに撫で回しちゃったら大変だもんね。僕的には面白いけど、あははは」
「そんな事しないもん!」
確かにエリアスなら正座でお説教されてる私の事を笑いながら見てるだろう、普段ならそんな本心言わないのに、もしかして結構酔っ払ってる?
「えぇ~? 酔って身体を撫で回した事何回かあったと思ったのは僕だけかなぁ?」
エリアスはクスクスと笑いながらリカルドとホセを見た。
「俺の服の中に入った事はあったな」
「エンリケにしがみついて筋肉がどうとか言いながら撫で回してたよな?」
お酒のおかわりを注ぎながらポツリとリカルドが言うと、ホセも追従して言った。
「ぐぅ…っ」
こんな時こそお酒を煽りたいところだけど、これ以上は止まらなくなりそうだから我慢だ私!
そんな訳でグラスを引っ掴んで水をグイッと煽った。
「あっ、それオレの酒…」
日本酒を飲んでいたホセが言った時には三口くらい飲んでしまった後だった。
まだ大丈夫、まだ3杯には到達してないから、だけど既にふわふわしてるのは三口だけとはいえ一気に飲んだせいかもしれない、別に美味しかったから止まらなかった訳では無いよ。
「お水と間違えてのんじゃった、わたしのお水はこっちだったね。ふふっ、ホセと間接キスしちゃった。昔はそれだけでも意識してたのに、大人になってから気にしなくなっちゃたよね~。初対面の人でも居酒屋でお酒の味見とか言ってひと口貰ったりしてたもん」
真っ直ぐ座ってるのが辛くなってきたからテーブルに頬杖をついてぼんやりしながら話す。
あれ? 私今何を話していたっけ?
とりあえずお水を飲もう、ホセのグラスは遠ざけられたので今度は間違いなく私のお水。
冷たい水が喉を通って気持ちいい、おかしいな、喉の外側にも水が通ってるぞ。
「あ~あ…」
「あーあじゃねぇよ! ホレ、零した水拭けって」
どうやらグラスを傾け過ぎてしまった様だ、胸元がびっしょり濡れてしまった。
口元はホセがグラスの水滴を拭く為に置いてあった布巾で拭いてくれたが、胸元はさすがに躊躇われた様で布巾を手渡された。
「大丈夫だよぅ、こういう時は魔法少女アイルちゃんにお・ま・か・せ! 『洗浄』」
ちょっとふざけただけなのに4人共ポカーンとしている、横にしたピースサインの間から目を覗かせたポーズに驚いただけかな?
そういえばこの世界で決めポーズと見た事無いかも?
騎士団でビシッと揃った動きは見た事あるけど。
「アイルってば結構酔ってるね、もう寝かせた方が良いかも。話し方はまだ普通だけど、テンションが酔っ払いだもん」
「そうだな、そろそろ部屋に戻るか」
エリアスとリカルドが立ち上がり行ってしまう、もうちょっといいじゃない、そう言おうとしたけど、何だか自分の視界が傾いている事に気付いた。
うむ、これはヤバいと流石に自分でも思う。
「おやすみなさい」
「「おやすみ」」
傾いたままだったけど2人を見送りドアが閉まった。
するとフワリと身体が浮き、ホセが抱き上げてベッドまで運んでくれた、歩けるか怪しかったので助かります。
「えへへ、ありがとうホセ」
「ん」
ホセが頷いてバスローブの紐を解き始めたので慌てて両手で目を覆った。
「ははは、アイルは初心だな」
おじいちゃんに笑われたけど、見る方も恥ずかしいんだもん。
獣化してからなら平気だけどさ。
「おじいちゃんはまだ寝ないの?」
「私はコレを飲み干してからにするさ、それまでホセを撫で回しておけばいい」
「おじいちゃん言い方!」
目を隠していた手がペロリと舐められた、ホセが獣化し終わった事を教えてくれたのでムギュウと抱きつく。
ホセも完全に冬毛に変わっているのでおじいちゃん程じゃないけどもふもふ度アップだ。
「うふふふふ、幸せ~」
ビビアナのマシュマロ乳に埋もれるが如く顔を埋め、ゆっくり頬擦りしながら感触を楽しんだ。
部分的にコショコショしたり、大きく撫でて毛並みを堪能する。
気付くと伏せの状態のホセに跨り、抱きつく様にして腹毛を両サイドからワサワサと撫でていた。
「それを撫で回す以外に何と言えば良いのやら…、ククッ」
おじいちゃん、これは撫で回しているのでは無くモフっていると言うの。
睡魔が襲って来てウトウトしていたが、おじいちゃんが立ち上がったので気合を入れた。
おじいちゃんが服を脱ぎ始めたので目を瞑ると2度と開ける事は出来なかった、ただ、最後にふわっふわの毛に埋もれた感触に満足したのは覚えている。
翌朝、もふもふに挟まれて目が覚めるという幸せな瞬間を迎え、2人がまだ眠っているのを良い事にしばらくモフってから着替えて2人を起こした。
朝食の時間になるとアルトゥロが呼びに来た、てっきり昨日のメイドさんが呼びに来ると思ってたのに。
そのメイドさんは私達が帰る時も姿を見せなかったのでエドに聞いてみた。
「新顔のメイドさんは今日お休みなの?」
「ああ、彼女は今日から職場が変わったんだ、やはり適性のある仕事の方が長続きするからね」
エドは清々しい笑顔を見せた、もしかしたら彼女の職場をどこにするか悩んでいたからスッキリしたのかな?
「あはは、何だかエドから商会長らしい言葉を聞いたの久しぶりな気がする」
「酷いな、これでもアイルに見限られない様に頑張っているんだよ?」
「エドが頑張ってるのは街を見ればわかるよ、貧民街も貧民街って言えないくらい綺麗だし安全だもん。今回もありがとね、また暫くは来ないと思うけど、風邪引かないようにね」
「おや、ビビアナの結婚式には招待してもらえないのかな?」
御者席に座っているビビアナに笑顔を向けるエド。
「あら、商会の仕事は大丈夫なの? 祝ってくれると言うのなら歓迎するわ」
「もちろん、教会本部に向かう時に聞いていたから頑張って休める様にしておいたよ」
満面の笑みで答えるエドに、馬車の窓から見えるホセが苦虫を潰した様な顔をしているが、ビビアナからは見えてない。
「それじゃあ商業ギルドを通して連絡するね」
「個人的には私専用の通信魔導具を受け取って欲しいところだけどね」
そんなもの受け取ったら大変な事になるのは目に見えているので断固拒否させてもらう!
「今2つも通信魔導具持ってるし、これ以上増えて誰のかわからなくなると困るから遠慮しておくよ。それじゃあまたね!」
「え…!? アイル、一体誰の…」
私がそそくさと馬車に乗ると、馬車は動き出した。
ちなみに次にトレラーガに立ち寄った時、花街へと繰り出したエリアスにより4人娘と共に客寄せ窓から睨みつけるミアが目撃されるのは数ヶ月後の事である。




