第329話 味噌・醤油、普及作戦
私が見つけた彼は広場で開かれている市に居た、会ったのは1度しか無いけど彼なら…。
「こんにちは、『自由隊会』の商隊長さん」
私が声を掛けたのは、エドの元同僚であるこの人…、やばい、この人の名前が出て来ない!!
商隊の名前は自由に移動してるからってそのままの名前だなぁ、とか思ったから覚えてたけど、本人の名前なんだっけ!?
「おや、賢者様ではありませんか、教会本部へと向かわれたと聞いておりましたが、お戻りになられたのですね」
「商隊長をしているだけあって情報通だね」
それにしてもこの人全く驚いてない、私が声を掛ける前から気付いていたのだろう。
「お褒め頂き光栄です」
こういう笑顔は出会った当初のエドを思い出す、外面用の愛想笑いというやつだろうか。
まぁ良い、悪どい事をせず真っ当に商売してるのなら問題は無いからね。
「アイル、その御仁は?」
おじいちゃんが少し警戒しつつ聞いてきた。
「この人は旅をしながら商売している『自由隊会』の商隊長さんだよ、私達の知り合いの昔馴染みなんだって」
「初めまして、『自由隊会』の商隊長をしておりますクレメンテと申します」
おおお…!
良かった~、おじいちゃんが話しかけてくれたお陰で名前がわかったよ、おじいちゃんありがとう!!
「旅をしながら…、アイル、もしや…」
「んふふ。そういう事、クレメンテはビルデオ方面にも行ったりする?」
「ビルデオ…ですか、獣人の国ですね。近くまでは行った事がありますが、もしやその方はビルデオの?」
「そうなの、賢者の住んでるウルスカに興味があるって事で護衛してるんだ。で、教会本部に向かう時に新しいレシピを登録する事になった町とか、道中おじいちゃんに料理を食べさせたりしたから、おじいちゃんが帰る頃に調味料が向こうにあるといいな~と思って。特に醤油は立ち寄った町で譲った分しか無いから需要があると思うんだよね」
「ほほぅ」
クレメンテの目がキラリと光った、むしろギラリと表現すべきかもしれない。
「もしかしたら向こうの商会が探してるかもしれないけど、新規で定期的な販路を築こうとするなら時間が掛かるだろうから中々の儲け話だと思うんだよね」
ニヤリと笑みを向けるとクレメンテも同じ様な笑みを浮かべていた。
「よろしいのですか? そんな美味しい話を私などに話してしまって」
「旅をしながら商売をしている『自由隊会』だからこそ出来る話だと思ってるからね。味醂は酒と砂糖で代用出来なくもないけど、味噌や醤油は無理だからおじいちゃんの為にも向こうで手に入る様にしておいて欲しいんだ。私のレシピはおじいちゃんも気に入ってるから商品を使った試食品を出せば間違い無く売れるよ」
「商隊の料理人も絶賛していました、アイル様のレシピはこれまでに無い手法が使われていて素晴らしいと」
「いやぁ、私が考えた訳じゃ無いんだけどね。美味しい物を食べると幸せな気持ちになれるのはどこの世界でも同じだと思うんだ、だから広まると良いなぁと思って」
「確かに…、特に我々の様に旅をしていると食事が楽しみの大部分を占めていますからね、美味しい物が増えるのは大歓迎です。それにエスポナからならコルバドへ仕入れに行くにも都合が良いですからね、喜んでその話に乗らせて頂きます」
「それじゃあ『大山商会』に話を通しておこうか? 専用通信魔導具預かってるから連絡が出来るんだ」
「それはありがたいですね! いつも直前にしか先触れを出せないのであまり数量を確保出来ないのが難点だったのです。大体半月後に到着するとお伝え願えますか?」
「わかった、タイチかアデラという人に話せばわかる様にしておくね」
「ありがとうございます」
クレメンテは初めて見せる愛想笑いでは無い満面の笑みを浮かべてお礼を言った。
やはり商人として儲けるのが大好きなのだろう、この笑顔を見てクレメンテを元暗殺者だと思う者はまず居ないと思う。
クレメンテと別れてから、折角市場に来たのだからと買い物をして行く事にした。
ビルデオに比べるとやはりスパイスの種類は少ないかな、だけど麺類はこっちの方が充実してるもんね。
王都でも買えるだけ買った中華麺をここでも買えるだけ買った、なぜならウルスカに帰ったら改良されているであろうバレリオの豚骨ラーメンを食べる気満々だもんね。
既に手元にあった分は消費してしまったのでウルスカに帰るまで食べられない、食べられないと思うと余計に食べたくなるのが人というものだ。
よし、今夜は美味しいものを食べよう、ここは秘蔵の大猪か…、赤鎧は一時期食べ過ぎたせいで特別感が減ってるしな。
秋刀魚…、だけど麺が食べたい…、あっ、アレにしよう!
友達が飲んだ時の〆に時々作ってくれたソーメンチャンプルーみたいなやつ。
豚肉と玉葱とニンジンを薄めの塩胡椒で炒めて、サラダ油を馴染ませておいた素麺…今回はひやむぎだけど…を投入したら味醂と顆粒出汁と薄口醤油で簡単に出来るやつ、作り方聞いておいて本当に良かった!
ふふふ、味醂多めにしてほんのり甘いのが好きなんだよね、今日はコレに決定。
リニエルス伯爵邸で下拵えまでしてもらったやつを完成させようと思って、貴族用の簡易キッチンある部屋に泊まりたいって我儘言って正解だったなぁ。
「んふふふ」
「どうしたアイル、いきなり笑い出して」
「おじいさん、多分今はお酒か食べ物の事を考えていると思う。何か考え込んでから笑う時は大抵そうだからな」
「………アイルの仲間がリカルドの様に器が大きくて何よりだな」
折角だから〆に食べたいのでどうお酒を飲む方向へ話を持って行くか考えていた私は、おじいちゃんとリカルドの呆れた眼差しに気付く事は無かった。
尚、『自由商会』や醤油の需要について連絡すると、タイチとアデラが物凄く張り切っていたので、ビルデオ方面に醤油や味噌が広まる日は近いかもしれない。




