第316話 ビルデオ王都の冒険者ギルド
「じゃあ伯爵家からの依頼は受けるという事で良いな?」
宿屋の食堂で朝食を食べながら昨日の出来事をひと通り説明してもらい、リカルドが皆の意思を確認した。
当然の様に皆頷いたが、ホセだけは少々複雑そうにはしていた。
身内の護衛か…、うん、微妙だね、親職場見学に来た様なものだもん、しかもひと月以上。
「それにしても公爵ってあまり賢くないのかしら? 自分からのこのこやって来て姿を見せるだなんて」
「たぶん俺達の事をただの平民の冒険者だと思ってるからだと思うよ。ギルドに登録する時に態々身分なんて書かないからリカルドみたいな他国の貴族が居るなんて思って無かっただろうし。平民より貴族の言う事を優先するのはどこの国も同じだから自分が知らぬ存ぜぬで通せると思ってるんでしょ」
「嘘発見機があればいいのに…」
「そんなもんある訳ねぇだろ」
ポツリと呟くとホセが呆れた目を向けて来た。
「確実ではないけど作れると思うんだよね、戻ったらガブリエルに相談してみようかな」
「どうやって嘘を見抜くのさ?」
エリアスの質問に他の皆も興味深そうに私を見た。
「えーと、よくあるのは手の汗とか、瞳孔…目の中心の黒い部分がちょっと小さくなるとか、脈が早くなるとか、あと見てもわからない程度に鼻も伸びるらしいよ」
「手の汗ってのはわかるな、昨日の店の女もオレを引き留めようとした時に手がじっとりしてたしな」
「そういう時にホッとすると、一気に額に汗をかくんだって。だから暑くも無いのに額に汗かいていたらそれまで焦ってたって事になるね」
「確かにそれだけ判断材料があるなら魔導具で嘘が見抜けられるかもしれないわねぇ」
「まぁ…、気持ちをコントロールする事に慣れてる人には通用しないかもしれないけどね」
「だが今無いならどうしようもないな、とりあえずギルドに行って伯爵の依頼を受けてくる」
食事が終わったリカルドが立ち上がる。
「あ、じゃあ私も行く! ここのギルドがどんなのか見てみたいし。皆はどうする? さすがに下町の方まで公爵が出張って来る事は無いと思うけど、一応バラけて行動しない方が良いよね?」
「じゃあ僕達は宿で待機しておこうか、後で皆で食料の買い出しとか行こうよ。だけど行く前にこの噛み跡治し「じゃあ行こうかリカルド、行ってきまーす」
苦笑いするリカルドと私は歩いて冒険者ギルドへと向かった、遅めの時間なせいかギルドに向かう冒険者は疎らだ。
私達が王都へ入った門では無く冒険者専用の門の側にギルドがあるらしい、獣人の国の王都なだけあって血塗れの獲物を持ち込む時に貴族や外から来る人達に血の匂いを撒き散らすのを防止する為の様だ。
ギルドに到着すると、用心の為に身体強化と探索魔法を使ってから建物に入る。
ギルドの中は当然ながら獣人だらけ、色んな種族の獣人達に目を奪われているとリカルドに手を繋がれた。
「リカルド?」
どうしたのかと首を傾げると、リカルドはエリアスを彷彿させる笑顔を見せた。
「経験上周りにこれだけの獣人がいる時はアイルから目も手も離さない方が良いからな。タリファスの時みたいにロープで縛られたくなかったら手を繋いでおくんだぞ?」
「うぐぅ…、はぁい…」
全然信用が無い事に傷付きながらも大人しく手を繋いだままカウンターへと向かう、バカにした様に笑う冒険者達の視線に晒されながら。
カウンターに居た猫にしては迫力がある…鑑定すると山猫獣人のお姉さんが対応してくれた。
「あら、昨日のAランクの人族じゃない。伯爵からの指名依頼は受けるのかしら?」
「ああ、手続きを頼む」
「わかったわ、冒険者証を出してちょうだい。ところで…今は子守の依頼でも受けてるの?」
山猫獣人の受付嬢は冒険者証を受け取りながら、リカルドの繋がれた手と私を見てクスクスと笑った。
「はは、これでもパーティメンバーの1人なんだ、手を繋いでいるのは《《君達の安全の為》》に…というやつだな」
リカルドは繋いだ手を見せつける様に軽く持ち上げて言うと、周りが騒ついた。
「おい聞いたか!? あの嬢ちゃんもAランクだってよ」
「ははっ、あんなのがAランクだなんて人族の冒険者って大丈夫かよ」
「バカ! 手を繋いでるのは嬢ちゃんじゃなく君達の安全の為って言ってただろうが! ああ見えてかなり凶暴なのかもしれないぞ」
……凶暴じゃないもん。
不服の意を込めてリカルドを上目遣いで睨んだが笑顔で受け流されてしまった、これは絶対手を離してくれないやつだ。
諦めて小さくため息を吐いた瞬間、人族の私でもわかる血の匂いと共に見覚えのある5人組が入って来た、王都に来る前に言葉を交わしたゴリラ獣人が血塗れで仲間に担がれている。
「怪我人だ! ポーションを出してくれ!」
「それが…、今朝品切れになって…」
売店のところにいるお姉さんがオロオロと言うと、ゴリラ獣人の仲間は顔色を変えて周りを見回す。
「頼む! 誰かポーションを譲ってくれ! 門の所で喧嘩を始めた馬鹿に巻き込まれたんだ!」
しかし周りの冒険者も持っていないのか、それともいざという時の為に取っておきたいのか誰も声を上げなかった。
「リカルド…」
繋いだクイクイと手を引っ張ると、リカルドは頷いて手を離してくれた。
私は駆け寄ってゴリラ獣人に手を翳す。
「『治癒』『洗浄』…もう大丈夫だよ、ゴリラ獣人さん」
治癒のついでにサービスで血の汚れも綺麗にしてあげると、先程とは比べ物にならないくらいギルド内が騒ついた。
朦朧としていたゴリラ獣人はしっかりと意識を取り戻した目をして私を見た。
「あの時のおチビさん…、エルフじゃねぇな、賢者だったのか…ありがとよ。ただ…」
言い辛そうに言葉を切ったので首を傾げて次の言葉を待つ。
「俺はゴリラ獣人じゃなくて人族だ」
その瞬間、それまでの騒めきを遥かに凌ぐ大爆笑がギルドを包んだ。




