第315話 歯型
「おはよう!」
「うふふ、おはよう、よく眠れたみたいね?」
「うん、あっと…先に治しておかなきゃ『治癒』」
「なぁんだ、消しちゃったの? せっかくのつがぅぶッ」
噛み跡を治癒していたら起きて声を掛けてきたエリアスにホセが枕をぶつけた。
挨拶したのに反応したのがビビアナだけだったのに起きてたのか、皆まだ眠くて反応が鈍いのかな?
「歯型付けてたら恋人だと思われるんでしょ? 私は誰かさんと違って異性を避けなきゃいけない程モテないから必要ないもん。どうせ小さい子と思われてるし」
いじけながらワンピースを頭から被り、中に着ている状態になったパジャマの袖から腕を引っ込めると、裾の下からワンピースの袖に腕を通すとパジャマの上がネックウォーマーの様に首のところに来るので、上から抜き取る様に脱いでワンピースの胸元のボタンをかける。
後はパジャマのズボンを下から脱いで靴下を履いたら着替え終了だ。
「いつもながらアイルの着替えは見事だよね、俺達の前でも躊躇いない上に肌を見せない様に着替えられるんだもん」
エンリケは時々私の着替え方を褒めてくる、男性陣は普通に脱いで着替えているので肌を見せない着替え方が面白いらしい。
ちなみにビビアナはセシリオと婚約してから時間は掛かっているが私の真似をする様になった、以前は仲間に下着姿を見られても平然としていたが。
ビビアナ曰く、「あの3人はあたしの下着姿を見ても欲情しないし手を出そうともしないから問題無いわ」との事。
恥ずかしいとかそういう理由で見せない様にするんじゃないのか。
今はセシリオが妬いちゃうから気を付けているらしい。
「ねぇ、昨夜は私大人しかったの?」
「あら、どうしてそう思うの?」
私の質問にビビアナがクスクス笑いながら聞き返して来た。
「だっていつもならホセのお説教が始まるのに何にも言わないんだもん。私すぐに寝ちゃってたの? それとも仕返しに噛み付いた事反省してるとか?」
「「「「ぶふっ」」」」
あれ? リカルドも起きてたみたい、ホセ以外が全員吹き出した様だ。
「それは昨夜アイルがホセにお説教してたからだろう、ククッ」
「そうそう、ベッドの上でホセにくっついたままお酒片手に時々シクシク泣きながらホセが如何にアイルに意地悪してるか、それでアイルがどれだけ悲しかったり嫌な気持ちになったかを語ってたよ」
「娼館の香の匂いは苦手だから行った日は近付かないでとも言っていたよ、それは僕達に対しても言った事だけどね。まさか匂いでわかってたなんて思わなかったからショック受けちゃったんだよねぇ? そうしたらアイルが冷たい目で獣人なのに匂いに気付かなくなるくらい通ってたんだねってトドメ刺してたし」
リカルド、エンリケ、エリアスが昨夜の出来事を教えてくれた、どうやら説教モードだったらしい。
私に娼館行ったの指摘されたら嫌かなぁと思って何も言わなかったけど、昨夜はきっとホセ達が呼び出されたお店のお姉さん達がつけてた香水の移り香のせいでそんな事言っちゃったんだろうな…。
ホセには洗浄魔法掛けたけど、他の3人には移り香が残ってたし。
「あ~…、別に娼館行くのは《《気にしない》》からね? ただ独特のお香の匂いが苦手だから近付かないで欲しいだけで」
「うわぁ、追い討ち…」
「ん?」
エリアスが小さな声で何かを言ったので聞き返す。
「ううん、何でもない。娼館の香は客が帰らない様に軽い媚薬効果のあるやつだから独特の匂いがするんだよ」
「へぇ~、それより皆起きたんならご飯食べに行こうよ」
私が行く訳じゃ無いから特に興味も無く適当に相槌を打って食事へ誘った。
健康的な私は目覚めと共にお腹が空くのだ。
「あたしもう着替えたから先に行ってましょうよ。皆もすぐ来るでしょ? 席確保して注文だけしておけばいいんじゃない?」
「俺達も着替えたらすぐに行くよ、それでいいよね?」
エンリケの質問に男3人が頷いたので先に食堂へ向かう事にした。
[客室 side]
始終無言だったホセの肩にニヤニヤと笑いながらエリアスが手を置いた。
「良かったねぇ、やっぱりアイル覚えて無かったね」
「周りから見ると完全に恋人同士だったよね、あれだけイチャついてて恋人じゃ無いってあり得ないんじゃない? 竜人の俺でもあれだけイチャつけばその気になりそうなのに、ホセってばオスの本能死んでないよね?」
「死んでねぇよ」
自覚があるので憮然と答えるホセ。
昨夜はシクシクと泣きながらホセを責めるアイルを落ち着かせる為にホセはかなり甘やかしていた。
所謂獣人の甘やかしなので、ベッドの上で胡座をかいてその上に座らせ、優しく抱き締めて頭を撫でたり頬擦りしたりと正気のアイルだったら逃げ出すレベルの甘やかしだった。
実際それでアイルも泣き止み、ホセは生殺し状態の為いっそ早く寝て欲しくて飲みたい様に飲ませていたのだが、アイルがウトウトしてきた時にエリアスが揶揄う為に近付いて来たせいで香水の移り香を嗅いで娼館の匂いの話に繋がってしまったのだ。
ついさっきまで泣きながら自分を責めていたとはいえ、腕の中でアイルが大人しく甘やかされていたので仲間が一緒でなければ押し倒しても不思議じゃないくらい昂っていたのに、エリアスのせいで冷たい視線を向けられて頭が冷えたのである。
「2人共、そのくらいにしておかないとホセに歯型付けられても知らないぞ」
「ははっ、それは困るな」
着替えを済ませたリカルドがエリアスとエンリケを嗜めると、エンリケはあっさりと絡むのをやめて着替えを始めた。
しかしエリアスはニヤニヤしながら首を差し出す。
「僕にホセの歯型付いてたらアイルがヤキモチ焼くか試してみる? なーんていったぁ~!!」
昨夜の事もあり、腹を立てたホセはエリアスの頸に歯を立てた。
リカルドとエンリケは呆れた目を向けてから先に食堂へ行ってしまい、アイルも居ないのでエリアスは頸の痛みを我慢しながら着替える事になった。
ホセと一緒に食堂に向かったエリアスはアイルにホセの所業を言いつけて泣きついたが、日頃の行いによりホセを怒らせたのだろうと見抜かれて傷を治して貰えず食事をする事に。
結果的に《《犬歯の跡のある歯型》》がホセにもエリアスにも最高の女避けになっていた事に『希望』の誰も気付かなかった。




