第262話 お好みで
「ふ~、コレで準備万端だね!」
休養日にビビアナ夫婦の寝室にベッドを運び込み、元ビビアナの部屋にエンリケが移動もしたし、いつ結婚しても大丈夫になった。
もちろんベッドには私特製の防音と洗浄の魔石が嵌め込まれている。
「ありがと、アイル」
「どういたしまして!」
「それにしてもかなり頑丈そうなベッドじゃねぇ? 腕熊が10年使っても壊れなさそうだよな」
「職人さん達が張り切ってたもんね、皆の憧れのビビアナの為にって!」
「皆の……憧れ…?」
呆然とした声に振り向くと、苦笑いを浮かべるエリアスと青い顔したセシリオがドアが開いたままの部屋の前に居た。
部屋が整うから今日から泊まれるし、1度見においでよと言って呼んでいたんだけど、ちょっぴりタイミングがよろしくなかった様だ。
「あら、セシリオ来たのね! 見て、立派なベッドでしょう? これなら安心して…楽しめるわね、ふふっ」
セシリオの呟きが聞こえていたはずなのに、ビビアナは聞いて無かったかの様にセシリオの腕を取ると甘える様に肩に頭を預けてベッドまで誘導した。
あ…っ、察し。
「お昼ご飯の時間になったら適当に降りて来てね~」
「ありがと、アイル」
「ん」
ホセ風に言えば発情状態だと判断して自然に2人の寝室からフェードアウトした、私が気を利かせたとわかったのかビビアナからお礼を言われた。
防音魔石もちゃんとビビアナと2人で検証済みなので大丈夫だろう。
私と一緒にホセとエリアスも1階に移動した、そんな私の内心はとても複雑だ。
もう1度言うがとても複雑だ、他の皆は気にして無いみたいだから平静を装ってはいるが、防音されてるとはいえ正に今ビビアナがイチャコラしてるかと思うとお父さんがお母さんのお尻撫でてるところを目撃しちゃった時くらい複雑なのだ。
「さて、お昼は何にしようかな。セシリオも居るしそろそろ決めて作り始めないと…………よし! お好み焼きに決定!!」
いつもは山芋のすり下ろし係はビビアナだが、本日はエンリケを任命した。
キャベツの荒切りはホセ、そ~っと逃げようとしたエリアスはマヨネーズ係だ。
ちなみにリカルドは所用があるとかで出掛けていて居ない。
私はだし汁作りと平行してイカ玉の為にイカを捌く、中の骨を剥離したら全体を優しく掴んでワタを引っ張り出し、てっぺんの三角のところを脚の方向へ毟って皮が縦に剥ける…ところまではテレビで見てスムーズにいくのだが、ここから皮が綺麗に剥けないのでちょっと時間が掛かる。
薄布を使って引っ張るが必ず途中で皮がちぎれてしまう、テレビで見た人達は秒で綺麗に剥いていたのに、私は数分かけて何とか剥き終わった。
次は海老だ、海老フライみたいに尻尾を残さなくて良いから剥くのは簡単、ちなみに海老フライの時は尻尾の真ん中にある棘みたいな部分を根元から毟っておいて、食べる時に尻尾の身がスポンと抜ける様にしておく派だ。
ふふふ、アデラに頼んで色々揃えたから充実している、しかし桜海老が無いのが惜しい。
天かすは天ぷらを作った時に作ってある、お餅もアデラに頼んで手に入ってるし、チーズもある、あとはキムチがあれば「豚キムチ餅チーズ」というダイエッターの天敵みたいなお好み焼きが出来るんだけどなぁ、明太餅チーズも捨てがたいけど。
だし汁を冷ましつつお手伝いをしてくれた3人にトッピングリストを見せての希望を聞いておいた。
ホセは豚チーズ、エリアスはイカチーズで、エンリケは初めて食べるので凄く悩んでいたからミニお好みで豚玉、イカ玉、海老玉を作るという提案をしたら子供の様に喜んだ。
ちなみに私は豚、イカ、海老、餅のミックスだ、3人が決めてから後出しで宣言したらホセとエリアスはすぐに乗り換えた。
何故か2人から卑怯呼ばわりされたけど納得がいかない、出来上がってから言ってやれば良かったかな…。
サブローが関西人だったらあったであろうお好みソースが無いので、昔祖母が代用していたケチャップとソースに砂糖を少し混ぜたものを使う。
こういう時、女神様が日本でお使いしてくれないかなと思ってしまう、だけど覗くだけみたいだから無理だろうなぁ。
昼食には少し早いがどんどん焼いていく、半月後に迫った護衛依頼の為にも作り置きをしておくのだ。
ふんわり焼いて、ひっくり返して蓋をして蒸らし焼きにして数分待つ、焼き上がったらソースとマヨネーズ、そして鰹節をパラパラかけたらストレージへ収納!
「「「あっ!」」」
「ん?」
「何で収納しちまうんだよ!」
「え? まだお昼には早いかなぁって…。もう食べる?」
「当たり前だろうが! こんな匂いさせておいてお預けなんてねぇだろ!!」
ホセの言葉にエリアスとエンリケもコクコクと頷いている、どうやら待ちきれない様なので最初の1枚を3人で食べてる間に各自の分を作る事にした。
……が、当然作るより食べる方が早いので食堂と繋がってるドアからチラチラソワソワとさっきから覗いて来る、そして再びドアのところに気配が…。
「もうっ、ちゃんと焼いてるから大人しく座ってて!」
近付いてきたので振り向き様にフライ返しをビシッと突きつけると、そこには驚いた顔のリカルドが。
「って、リカルド!?」
「あ、いや、すまない…俺もホセ達と同じトッピングを頼もうかと…」
無抵抗を示す様に両手を上げながら言うリカルド、ドアの所にはニヤニヤしながら覗くホセとエリアス、キッと睨むとサッと居なくなった。
「違うの! ホセ達がさっきのから何度も覗いて来たから間違えただけなの! 順番に焼くから座って待っててね」
「ああ、このお好み焼きを食べるのは久しぶりだし、凄く良い匂いしてるから楽しみだ」
そう言ってリカルドは笑顔で食堂へ向かった、ホセやエリアスなら何か要求して来そうなところだが、リカルドは大人なのでそういう事は無い。
私はコンロをフル稼働させて要求されるお代わりを次々に焼いた。
その後、肌艶の良くなったビビアナとセシリオが食事をしに降りて来たのは、皆が3枚目のお代わりを食べ終わった頃だった。




