第252話 豚骨ラーメン試食会
『希望』の家へと帰りながら、いつもの様に市場で色々と食材を買い込む、まだひと月あるがその時一気に買うと品薄で周りに迷惑が掛かるから暫くは日参して買い溜めせねば。
そして肉屋の前でスキンヘッドの大男が大量の骨を買い込んでいるのが見えた。
「ありがとよ」
「いやぁ、棄てるはずものをお金を払って引き取って貰えるんだ、ありがたいのはこっちだよ」
「やっぱりバレリオ!」
「おっ、アイルじゃねぇか! 良いところへ来たな、コレ運んでくれねぇか? もう魔法は解禁だろ?」
声を掛けると大男のバレリオが両手で抱える量の豚らしき大量の骨を差し出してきた。
「ふふふ、約束通り研究頑張ってくれてたみたいだし良いよ」
ストレージに骨を収納し、私も目的のお肉を買う為に店主に声を掛けたが、大量の骨が消えた事に口をあんぐり開いて固まっていた。
「ははは、アイルが賢者だって噂は聞いてただろうに」
「いやぁ…、半信半疑だったから驚いたよ。だってよぅ、いっつも来てくれてたお嬢ちゃんだもんなぁ…はぁ…、本当に賢者だったんだなぁ」
そんな店主をバレリオが笑い、店主は感心した様に呟いた。
「賢者だろうが賢者じゃなかろうが飯は食うんだからこれまで通り買いに来るって! なぁ?」
「もちろんだよ! 特別扱いはいらないけど、常連だから時々はおまけしてね」
ニコッと愛想良く笑顔を振りまくと、店主は胸を叩いて頷いた。
「そうだよな、お嬢ちゃんが賢者でも賢者じゃなくても大事なお得意さんだしな!」
そんな肉屋の店主の言葉を聞いて、よく行く周りのお店の人達も同様に頷いていた。
「買い物が終わったらよ、俺ん家に寄って例のブツを持ってこようぜ、研究の成果を確認してくれよ。んで、合格ラインだったら今日の昼飯にしねぇ?」
「乗った!!」
バレリオの素敵な提案にグッと親指を立てる。
そして買い物を終えた私達はバレリオの家へと赴いた、そしてそこで見たものは…。
「うわっ、どうしたのこの鍋!」
バレリオの家の冷蔵庫には寸胴鍋にしては小型というサイズの鍋がギュウギュウの状態で4つ並んでいた。
「いやぁ、研究してたらハマってよぅ。飲み比べしようと思って同時に作って煮込み時間とか変えたりアイルが言った様に入れる野菜や果物変えたりしてたら増えちまった、ははは。いやぁ~、このスープは奥が深ぇな!」
「うんうん、だよねぇ。如何に雑味を無くすかとか、味に纏まりを出すとか凝り出すとキリが無いんだよねぇ。完成したと思っても改良点を思い付いたら試したくなるだろうから協力が必要ならいつでも言ってね!」
「そう! そうなんだよ! ありがとな!」
実際自分が作った事無いけどテレビでやってた内容を思い出して知ったかぶりをしておいた。
バレリオも我が意を得たりと嬉しそうだし良いよね。
そして鍋と豚骨を入れ替える様にストレージに収納して『希望』の家へと向かった。
そしてコンロをフル稼働させてスープを温めつつ、お湯を沸かして麺の準備をする。
今回は純粋に麺とスープの相性を確認する為にトッピング無しの試食会である。
幸い私のストレージには器によそった状態で料理を収納する事が多い為、笑っちゃうくらい器がある。
そしてスープ別に器を変えてお椀サイズのミニラーメンを4つ昼食として出した。
「え? 美味そうな匂いだけどよ、今日の昼飯これだけか?」
「いいから! これはバレリオの研究成果の試食だからしっかり味わって食べて感想が欲しいの! 足りなきゃ後で色々出すから安心して」
ホセが少し耳を伏せた状態で言ったが、私は反論を許さなかった。
バレリオも食堂の椅子に座って厳かに頷いている、そして全員で試食開始。
「うん、こっちは食べやすいね。だけどこの器のやつはちょっと獣臭いかな?」
「全部美味しいがスープまで全部飲むならコレだな、だが何か物足りない気がする」
「4つとも美味いけど、確かに物足りねぇな」
「あたしはこっちが1番だったわね」
大体意見は出揃った様だ、物足りなさに関しては何となく理由はわかっている。
ひとつは私の料理に慣れてしまったからだ、つまり…醤油の魅力に取り憑かれてしまっている皆を満足させるには…そう、豚骨醤油にすれば良いのだ!
「ふふふ、ちょっとまっててね」
私はキッチンで高評価を受けた2種類を2つずつ器に盛り、全てに白だしと醤油のブレンドをひと垂らし加えた。
そして片方にはこの日の為に準備しておいた焼豚と半切りの半熟煮卵、それらを乗せる前に網に入れた背脂を振り下ろした。
そう、ひとつはスープと麺の試食だが、片方は完成形のラーメンにしたのだ!
器に入らず飛び散った背脂がテーブルや床でギラギラしているが、こんなものは魔法で一発なので気にしない。
それより麺が延びる前に皆にラーメンを届けねば、そして試食会続行。
「「「「「ッ!!」」」」」
その場の全員が目を見開いた、スープは私が作った訳では無いが、思わずニヤリと笑みが浮かぶ。
「ずけぇ、更に美味くなった! こっちの具が乗ってる方がコッテリしてて良いな!」
「そうねぇ、あたしは具無しのスープの方が良いわね。美味しいけどあんまりギトギトしたスープだとお肌がテカりそうだもの、家で食べるならどっちでも良いけれど」
「うん、さっきより好きだな。何を入れたんだ?」
「何かさっきより甘みも感じる様な…?」
「リカルドとエリアスに対する答えはだし醤油だよ。白だしで旨味もアップしてるし、醤油で香りがプラスされて塩分で甘味が引き立ったんだと思うよ」
ドヤ顔で答えたが、さっきから俯いているバレリオが気になった。
「く…っ、悔しいがアイルが手を加えたやつの方が美味ぇな…」
「何言ってるの、バレリオがここまでスープを完成させたから出来たんだよ。私1人だったらあと何ヶ月…ううん、もしかしたら数年掛かってたかもしれないよ」
「へ、へへ…そうか? じゃあちったぁ自惚れても良いのかな?」
「うん! このスープを商業ギルドに登録するならバレリオと連名にするからよろしく! 登録せず私達だけで楽しんでも良いけどね?」
「商業ギルドに登録…」
「うん、登録手数料は私が出すよ。誰かがレシピを買い取る度にバレリオにお金が入るから、病気で冒険者の仕事休んでも安心でしょ?」
「そうだなぁ…、せっかくここまで研究したスープだから色んな奴に味わって貰いてぇかな…」
「じゃあ決まりだね! 明日一緒に商業ギルドへ行こう。エリアスも付き合ってね?」
「そうだね、そうすれば他の町に行ってもコレが食べられるかもしれないし」
そして多数決で登録するスープが決められ、翌日3人でレシピを登録に行き、そしてその帰りにガブリエルの事を思い出して慌ててその日の夕食に招待した。
自分のだけ夕食がラーメンである事に喜ぶガブリエルに、誰も昨日自分達は食べたとは言えなかった。




