第234話 延長
私達一行は順調に街道を進み、もうすぐトレラーガという所まで戻って来ていた。
そしてトレラーガに近付くにつれて様子がおかしくなっていきているのはもうすぐお別れのエドである。
要塞都市のギルドからトレラーガのギルドに連絡を入れて貰ってエドの屋敷に2週間程で帰ると伝言を頼んだ。
そしてその日から段々エドのスキンシップが少しずつ、変化に気付かないくらい本当に少しずつ増えていた様で、現在ではお休みのハグが当たり前になっていた。
ウルスカへの帰りはパルテナ王からの支給で宿屋に泊まる様に言われていたので、トレラーガに到着する前日もとある村の宿屋に宿泊する事になったのだが、そこでハタと気付いたらのだ。
「ねぇビビアナ、私っていつからエドとおやすみのハグなんてしてたんだっけ? ビビアナと違う部屋に泊まる時はビビアナとしてたとは思うんだけど、エドとはエドの屋敷に泊まった朝に別れの挨拶でしただけだったのに」
「あら、そういえばそうね。馬車でも食事の時でもずっとアイルに張り付いていたから違和感が無かったわ。考えてみれば合流したばかりの頃は馬車の乗り降りで手を貸すくらいだったわね」
ビビアナと2人、灯りを落とした暗い部屋でベッドに寝転がりながら眠りにつくまでおしゃべりするのが日課になっている。
最近はホセが私達との同室を嫌がる様になったので、獣化したホセと3人部屋という事が無くなった。
もしかしてたまにホセが匂いを嗅いでいたり、私に構っているとエドが凄い目でホセを睨んでいるせいかもしれない。
エド程じゃないけどたまにガブリエルも睨むというか、間に入って来る、お友達にヤキモチ焼く子供か。
人との距離感とか空気読むとかは感性の問題だから教えるのが難しいからなぁ。
明日…いや、ひと晩泊まるから明後日にはエドと会わなくなるのか、寂しくなると思うのはここ暫く毎日一緒に居たからだよね。
また離れて過ごしたら距離感も元に戻るだろうから、そう気にしなくても大丈夫かな。
[side エドガルド]
何という事だ、とうとう明日にはトレラーガに到着してしまう。
折角アイルが疑問を抱かずにハグをしてくれる様になったというのに…!
セゴニアやコルバドでは接触を控えめにしつつも隣に居るのが当たり前だと思う様に邪魔にならない様に出来るだけ側に居て、パルテナに入ってからは1日に1回、そして2回と接触する回数を少しずつ増やしたお陰で屋敷に泊まった時の様に戸惑ったり警戒したりせず触れされてくれるまでになったのに!!
きっと到着したらアルトゥロ達は私を執務室に監禁する勢いで仕事をさせるだろう。
任せたとはいえ大きい案件はきっと私の指示を仰ぐ為に残してあるに違いない、やはり通信魔道具くらいは持って出るべきだったか、しかしその場合しつこく早く帰れと言っていただろう、そう考えると通信魔道具は置いてきて正解だ。
セゴニアの王都で合流してからひと月以上共に過ごして食事の好みも服装の好みも完璧に把握したと自負している。
時々発作的に何かを食べたいと言い出し、しかも大抵はそれを自分で作って皆にも食べさせては満足そうに頷いている姿も愛おしい。
移動に使っていた馬車は王族仕様の為、車内は温度調節の魔道具が付いているが御者席は違う、だというのにアイルは御者をしたり馬で移動した時に汗をかいた後でも臭くなったりしない、むしろ汗の香りすら甘く感じる程だ。
時々あのホセという獣人が嬉しそうに嗅いでいるのを目撃したのでアイルに気を付ける様に言うと「獣人の習性なんだって」とあまりにも無防備な答えが返って来た。
1度エリアスにアイルのあまりにも無防備さについてこぼしたところ、「アイルは散々子供扱いされて来たから女として見られないって思ってるんだよ、そういう意味ではエドガルドは特別扱いされてるよね~」と揶揄いか嫌味か微妙な事を言った、嫌いではないが喰えない男だ。
そして翌日、とうとうアイルと旅をする最後の日になってしまった。
あとひと月もあれば朝と夜の挨拶で頬にキスをするのが当たり前になる様に出来ただろうに…!
馬車ではせめて膝の上に座って欲しかったが、王族仕様の馬車のクッションは私の膝の上よりも座り心地が良いので諦めるしか無かった。
景色の変化で刻一刻と、トレラーガに近付いているのがわかる、昼の休憩時にガブリエルとアイルがリニエルス邸の料理人にどんな料理を教えたかの話から赤鎧の調理について語っていた時、アイルが突然「カニクリームコロッケが食べたい」と言い出した。
どうやら赤鎧を使った手間と時間が掛かる料理の様だ。
その話を聞いた時、私は何故こんな簡単な事に気付かなかったのかと雷に打たれた気持ちになった。
指名依頼としてアイルが商業ギルドに登録した料理をウチの料理人に教えて貰えばその間滞在する理由になる、と。
「アイル、ならば私の屋敷で作れば良いよ。そして指名依頼を冒険者ギルドに出すから商業ギルドに登録した料理をウチの料理人に教えて欲しい、『希望』に対して依頼を出すからここに居る皆で滞在してもいいし、アイルだけ残って教えてくれるというのなら後日ウチの馬車でアーロンに送らせよう」
その場合アーロンとアイルが2人旅というとても羨ましい状況になるが、いざとなったら私も同行して3人で…。
私の言葉にアイルはリーダーであるリカルドに視線を向けた。
「まぁ…、依頼というのなら受けて良いと思う。ただ、その場合全員世話になるが良いのか?」
「ああ、前回使った部屋を使ってくれれば良い、あと2人分の部屋も用意出来るし…セシリオはビビアナと同室の方がいいかな? ビビアナの使った部屋なら2人でも問題は無いし、防音もしっかりしているからね」
「アイル、この依頼受けましょ! ずっと移動で大変だったから数日ゆっくり休めるのは嬉しいわ」
ビビアナの言葉で全員が私の屋敷に滞在する事が決まり、私は喜びのあまり興奮しているのを悟られない様抑えるのに苦労した。




