第233話 トップシークレット
商人はニコニコと人の良さそうな愛想笑いをしながら私達に近付いて来た。
トレラーガにある『運命商会』のドロテオとは違い、スラリとした体型で年齢は40前後に見える。
そして彼らが近付いて来た瞬間、何故かエドがピリつき始めたので鑑定すると、どうやらエドとは元同僚らしい。
「初めまして、賢者様御一行ですね? 私はクレメンテ、『自由商隊』の商隊長をしております。この度の大氾濫では賢者様のお陰で珍しい素材も手に入り大変儲けさせて頂いており、お礼を申し上げます。つきましてはお礼に西方の珍しい酒を贈らせて頂きたく…」
私達が座って食事していたせいか、クレメンテ達は跪いて挨拶してきた。
そしてクレメンテが手を挙げると護衛の1人が酒瓶を差し出す。
「あ~…、気持ちだけ受け取ります。儲けたのはあなたの商才のお陰で、私達は冒険者として依頼を遂行しただけなので」
西方の珍しい酒、というフレーズに後ろ髪はとっても引かれてるけど、タダより高いモノは無いのだ。
これでこの後何か頼み事されたら断り辛くなるし、縁が出来たと吹聴されても困るからね。
「おや、そうですか…。そちらに《《懐かしい顔》》がありましたもので、私もお近付きになれればと思ったのですが。どの様に知り合ったのか知りたいですねぇ、シル「それは私の名前では無い」
クレメンテの言葉を遮り睨み付けるエド、きっとコードネーム的な名前なのだろう。
事情を知らないガブリエルとセシリオはキョトンとしている。
それにしてもやけに含みを持たせた言い方してくるな、この人。
「出会いはエドガルドが私をナンパしたんですよ、一緒に食事をしたいって。それにしてもエドもあなたも商会長として成功しているなんて、《《以前の職業》》のお陰で人心掌握に長けているからかしら?」
エドの名前と共に暗に前の職業は知っているとアピール、これで間違っても昔の事をバラされたく無ければ言う事を聞け、的な事は言われないだろう。
出会いがナンパという事に驚いたのか、私が知っていた事が意外だったのか、クレメンテは瞠目した。
「ふ、ふふふ、そうかもしれませんね。《《エドガルド》》には感謝しているのですよ、今の職業につく切っ掛けをくれたのですから。我々は拠点を持たない商隊として名前の通り自由に旅をしながら商売しています、様々な物を取り扱っていますので是非1度ご覧下さい」
「そうね、今は先を急ぐから、どこかの町で見かけたら寄らせてもらうわ」
「はい、またお会い出来る日を楽しみにしています。受け取って頂けなかったこのお酒はエドガルドに…私に自由をくれたお礼だと思って受け取ってくれ」
クレメンテは護衛から酒を取り上げるとエドの前に酒瓶を置いた。
その笑顔は複雑そうだったけど、1番表面に出ていたのは懐かしさだろうか。
「ああ、それじゃあ…ありがたく頂くよ」
エドガルドも警戒を解いて懐かしさを滲ませて酒瓶を手にした。
「では賢者様、またいずれお会いしましょう」
そう言ってクレメンテは立ち去り、エドに視線を向けると少し照れ臭そうに笑った。
「まさかこんな所で再会するとは…、作戦は彼が居ない時に実行したんだよ。元々比較的常識人というか、まともな1人だったから巻き込みたく無かったからね、世話にもなったし……………元気そうで良かった」
「そっか、良かったね」
「ああ、アイルと会ってから私には良い事がたくさん起きてるんだ、アイルは私にとって幸運の女神だよ」
「え、そんな…、それはエドがトレラーガの町を良くしたり頑張ってるからでしょ、女神様は異世界を覗くのに夢中になってるからエドの日頃の行いのお陰じゃない?」
「そうだろうか、しかし変わる切っ掛けをくれたのはアイルだから感謝してるよ」
私とエドがほんわかと微笑み合っていると、エリアスが妙に動揺した様子で口を開いた。
「ね、ねぇ…、今サラッととんでもない事言わなかった? 女神様が異世界覗いているとか何とか…」
「うん、言ったよ? 女神様があっちに居るから私がこっちに来たんだし」
「「「「「「…………………ッ!?」」」」」」
エドはどうでも良さそうだったけど、他の皆は目を見開き息を飲んだ。
あれ? そういえばこの世界の人達が魔法使えなくなった原因ってわかって無いんだっけ?
もしかしてコレって世界のトップシークレット的な!?
「あ、あの、今のは自分みたいなのが聞いてはいけない事だったのでは…」
セシリオがゴクリと唾を飲み込んで呟いた。
「そうだな…、恐らく教会のほんのひと握りの上層部しか知る事を許されない内容だと思うぞ。賢者のアイルはともかく、俺達が知ってるとわかったら消されても不思議は無いんじゃないのか?」
「皆いいね!? 僕達は何も聞いてなかった、女神様云々は聞いてない。アイルもこのことはもう口に出しちゃダメだからね!?」
エリアスの言葉に全員がコクコクと頷いた。
そっかぁ、コレはやっぱり秘密にしなきゃいけない事だったんだね。
うん、私は何も言ってない、いやぁ、今日は天気も良いし移動日和だね!
ちょっぴり現実逃避しながらその場を片付け、午後から馬に乗って次の村を目指した。




