第158話 仕込み靴
「ふわぁぁ…、結局朝まで寝ちまったぜ」
「おはようホセ、よく眠れたみたいだね。皆は昨夜酒盛りしてたからまだ起きて来ないと思うよ」
厨房で朝食の準備をしていたらホセが大きな欠伸をしながら食堂に現れたのでヒョイと顔を覗かせる。
「チッ、また参加し損ねたか」
「まぁまぁ、3日間は休養日なんだから今夜飲めばいいじゃない。それに私も飲んでないんだよ!」
「胸張って言う事かよ、あぁいや…、アイルにとっちゃあ凄く頑張ったのかもな、えらいえらい」
「えへへ、でしょう?」
後半棒読みながら頭を撫でて褒めてくれた、私は褒められて伸びる子なのだ。(調子に乗るとも言う)
今朝はちょっと冷えるから、昨夜ホセが食べ損ねたカニ玉あんかけに豆腐をぶち込み少しクツクツ言わせて温めた。
久々にご飯と3種のきのこ味噌汁、ほうれん草とベーコンのバターソテー(この組み合わせは発癌性物質が発生するというが、ベーコンを茹でれば問題無くなるらしい)で優しめの朝食の出来上がりだ。
「はい、どうぞ」
「おお、ありがとな。美味そうだ」
この辺のお店では絶対出ないホッとする様なカニ玉あんかけの優しい味に思わずため息が出るホセ。
ホセはいつも良いリアクションをしてくれるので食べさせ甲斐がある。
「美味ぇ…、やっぱ外じゃ落ち着いて食えてねぇって実感するな。アイルが来る前は当たり前だったけどよ、帰ってこうやって家で飯が食えるのは良いなって改めて思うぜ」
「…………」
凄く穏やかな微笑みを浮かべながら食事を続けるホセ。
く…ッ、不意打ちでそんな風にガチトーンで褒められたらどんなリアクションしていいかわからないじゃない!
ここは「そうよ、感謝してね」ってちょっとツンでいくべきか、それとも「煽ててもこれ以上何も出て来ないよ」って笑って流すべきか!?
「ククッ、なんだよ、何照れてんだ?」
リアクションに迷っている内に見抜かれてしまった、ちょっと頬が熱い。
ヌゥ…、同じ褒められるのでもトーンひとつでこんなに落差があるとは。
「別に照れてないよ、それよりホセは今日何するの?」
「ん~…、特に予定はねぇな、お前らみたいに武器を使ってる訳じゃねぇし、防具も殆ど付けねぇから手入れや新調する必要がねぇし…、アイルは?」
「ぅふふふ~、私はブラス親方のところでイイモノ作ってもらうんだ~」
既に構想や足のサイズは伝えてあるからGOサイン出せばすぐに作り始めてもらえるのだ、親方の事だからもしかしたら既に試作品を作ってるかもしれない。
教えた時に目をキラキラさせていたし、やはり仕込み武器って職人にとっても浪漫を感じさせるんだと思う。
「へぇ、オレも行こうかな。ついでにテディの様子も見て来ようぜ」
「そうだね、それじゃあ手土産にクッキーでも焼こうかな、たまには作らないとレシピ忘れそうだし。今から作ってたら行くのは昼前なっちゃいそうだけど」
「アイルは菓子も作れるのか!? そいつぁガキ共も喜ぶぜ、孤児院じゃ菓子なんて滅多に食えねぇからな」
「毎年作ってたものなら大体レシピを覚えてるかな、そんなに種類は多くないとはいえ作れるよ。今までは食事やおつまみに比重が偏ってただけだもん。それに砂糖が高いから無駄遣いになっちゃうかな~と思って」
「ははっ、酒代に比べたら微々たるもんだろ。普段飲めねぇ分砂糖使っても誰も文句言わねぇよ、それに皆も菓子は結構好きだしな、バウムクーヘンも喜んで食ってただろ?」
「あっ、そうだよ、今日はバウムクーヘンを持って行けばいいんだ。クッキーは午後から作ろうっと、帰りにココアパウダー買って来たら市松模様も作れるし」
「イチマツ模様?」
「うん、チョコとプレーン2色のクッキーになるの」
「ふぅん?」
あまりわかって無い様だけど、現物が出来たら見せればいいや、丸い2色の渦巻きはカットしてる内に綺麗な丸じゃなくなって来るので作らない。
リカルドの地元でテンション上がってちょっとバウムクーヘンを買い過ぎたかなと思ってたから丁度良いし。
3ホールあれば全員余裕で食べられるでしょ、親方には頑張ってもらう為にビールの小樽ひとつ進呈しよう。
厨房には味噌汁の鍋と魔導炊飯器(保温状態)を置いておけば3人が二日酔いになってても食べられるでしょ。
食後に準備を済ませて貧民街にある工房へと向かった。
「おぅ、嬢ちゃん久しぶりだな、今日はどうした?」
工房のドアを開けるとブラス親方と店番青年カミロが店内のディスプレイを変えていた。
「ふふふ、例の靴を作って貰おうと思ってね。資金はちゃんと準備出来てるからすぐにでも取り掛かってもらいたいの。あと棒手裏剣も20程追加でお願いしようかな」
「おっ、とうとう作るのか! 実は…試作品は出来てんだ、あんな仕掛けはワシも初めてだったから注文を待ちきれなくてな…」
親方はちょっと照れ臭そうに鼻の下を指で擦り、棚の中から試作品靴を取り出した。
履いてみると履き心地は普段履いているショートブーツと変わらないし、パッと見て仕掛けがあるとはわからない。
「うん、履き心地は問題無いね」
「動きを阻害しちゃあ意味ねぇからな、仕掛けの作動は踵にしておいたぜ、捕まったりしたら両足揃えて縛られるだろうからそんな時にも使える方が良いだろ」
親方に言われて踵を床に打ち付けると3~4センチの刃が飛び出して来た、爪先立ちしても影響の無い長さになっている様だ。
これなら大抵の魔物の頸動脈を狙って蹴り込めば致命傷を与える事も出来るだろう。
「おお~! 凄い! 良い感じ!!」
「だろう!? あんまり簡単に刃が飛び出して来るのも困るだろうから調整に苦労したが、作るのは楽しかったぜ」
「ありがとう親方! このままコレ使っても良いくらいだよ。そうそう、お礼を兼ねたタリファス土産のビールがあるの、受け取って」
「おほっ、こいつぁありがてぇ! だがその試作品の素材だと耐久性に不安が出るからきちんと作らせてくれ。それとすぐに取り掛かるから棒手裏剣はこのカミロに打たせてもいいか? もちろん出来上がりはワシが責任を持って確認する」
「えっ!?」
「うん、親方の合格が出る出来上がりなら私は問題無いよ。カミロ、よろしくね」
「あ、ああ…! 親方…本当に…!?」
「作り自体がシンプルだからこそ腕を確かめるには丁度良いからな、頑張れよ」
「はいっ」
盛り上がる私達を余所に、ホセは私の履いている仕込み靴をジッと見ていた。




