第149話 噂に尾鰭
「聞きたい? 聞きたい?」
聞いてくれと言わんばかりに期待した目を向けて来るエリアス、正直碌な事を噂されていないだろうと予測出来るので精神衛生上聞きたくは無い。
「別に「話したくてウズウズしてるのはバレてるんだからサッサと話しなさいよ」
拒否しようとしたらビビアナに阻止されてしまった。
エリアスは部屋で食事する時の為に置かれている椅子に座り咳払いをした。
「ンンッ、まずは僕達が最初にこの町に来た時に広まった噂からにしようか。リカルドに男爵夫妻公認の婚約者候補ができたっていうのがまず1つ、それで婚約者候補は胸の…ビビアナかアイルかって事で意見が分かれてるんだ」
ちょっと待て、今胸って言わなかった?
あれか? 胸の大きい方か小さい方って事で意見が分かれたって事なの!?
ジトリとした目でエリアスを睨むと、笑って誤魔化しながら目を逸らされた。
「あはは…、アイルはリカルドと一緒に居るのを何人にも目撃されてるからアイル派は結構多いんだけど、リカルドの友人は学生時代に知った好み的にビビアナが近いって言ってたり、泣いてるアイルをリカルドが慰めてるのを目撃したって人達も振られたから泣いてるとか、告白を受け入れて貰った嬉し泣きだとか意見が分かれてて面白かったよ。町の人達の想像力が凄過ぎて物語が生まれそうなくらいだったね」
泣いてるところ…、あっ、もしかして晩餐に招待された日に家族を思い出して泣いちゃった時!?
あの時は頭を撫でられた様な…、確かに見ようによっては振られて泣いてる様にも想いが通じた嬉し泣きにも見えたかも。
「あら、アイルったらリカルドの前で泣いたの?」
「う…、家族の話してて…思い出して少し…」
ビビアナにすかさずツッコまれてしまった、ここにテディが居なくて良かった。
家族を思い出して泣くとか知られるのはちょっと恥ずかしい。
「泣きたかったら我慢なんてしなくていいのよ? いつでもあたしの胸を貸してあげるからね!」
「わぶっ、……ありがと」
抱き締められてビビアナのマシュマロ乳に埋もれる私、エリアスはそんな光景も見慣れているのでスルーして話を続ける。
「でね、僕達が王都に行ってる間にリカルドの家族がせめて婚約してくれたらいいのにって言ってたって噂が流れて(多分故意なんだろうな)相手はアイルかビビアナかって更に白熱したらしいんだ。田舎だから皆娯楽に飢えてる分領民の誰もが1度は論争に参加してるって話だよ。で、そこで最新の情報が追加されて…」
「最新の情報…? まさか私がロープで縛られてってやつ!?」
罪人扱いされてるとか噂になっていたらどうしよう、半分乳に埋もれた状態で血の気が引く。
「違う違う、リカルドが大切そうに抱き締めながら家にアイルを連れ帰ったって、しかも態々宿屋にまで抱き締めたまま送って行く姿を目撃されたものだから婚約が決まった挨拶にでも行ったんじゃないかってさっき盛り上がってたよ」
あぁ~!! ロープ隠す為の体勢が周りから見たらバカップル仕様にしか見えなかったって事!?
男爵家の人達の婚約者云々発言が無ければそんな目で見られなかったはずなのに!
歩いて移動したら完全に縛られたロープが見えるからって腕で隠して貰うんじゃなく、多少不恰好でも布とかお腹に巻いて隠せばよかった~!
穴があったら入りたい、とりあえず目の前にある谷間に顔を埋めた。
「ふふっ、どうせロープ隠す為にお腹に腕を回してたんでしょ? そんな体勢になったら腕の中にスッポリ収めてる様にしか見えないって気付かな…いからやっちゃたんでしょうね、ふっ、ふふふっ」
「ヤバイね、これは明日町で買い物したら祝いとか言って凄く割引きして貰えるかもしれないよ?」
「そんなんで割引きして貰ったら噂を肯定する事になるじゃない!」
無責任な事を言うエリアスをキッと睨む、もう飲まないとやっていられない。
決して飲む口実が出来てラッキーなんて思ったりしてない、上目遣いでビビアナを見上げてお願いする。
「ビビアナ、もうこれは飲むしか無いと思うの、こんな精神状態じゃ眠れそうにないもの。飲んでもいい? エリアスが部屋に戻ればビビアナと2人だけだしさ」
「ふふっ、しょうがないわねぇ、いいわよ」
「ありがと! エリアス、報告が終わったならもう部屋に戻っていいよ、おやすみ! 私とビビアナは今から女子会するから!」
「えっ、ちょっとその扱いは酷くない?」
「酷くない! エリアスはもう飲んで来たんでしょ?」
エリアスの抗議を受け流しつつ、いそいそとテーブルに飲む準備をする私。
今夜は皆で飲む訳じゃないので全て個人的に買ったアイルコレクションを並べる、どれから飲もうかな。
「あっ、そのお酒見た事無い。僕も飲みたいなぁ、情報仕入れて来たご褒美があっても良いと思うんだ」
エリアスは目敏く自分が飲んだ事の無い酒瓶を見つけて2脚ある内の1脚に腰を下ろした。
「自分が知りたくて情報収集してきたってのはわかってるんだからね! ちなみにここで私が飲むって事は…」
「わかってるよ、ホセには言わない。テディをホセに任せておいて自分だけ飲んでただなんて知ったら怒るかもしれないもんねぇ? このまま部屋に戻ったらうっかり喋っちゃうかもしれないなぁ、きっと酔っ払ったら忘れて言わないと思うんだけど?」
何となくホセにバレたく無かっただけでそこまでは考えて無かった、でも確かに怒るかも…。
良い笑顔で微笑むエリアスの脅しに屈し、結局3人で飲む事にした。
翌朝に何かやらかして無いかビビアナに聞いたけど、生温かい笑顔で何も無かったとしか言われなかった。
エリアスも目を合わせずに何も無かったとしか言わなかったが、そうでは無い事は明らかだった。
例え説教されても何があったか教えてくれるホセの存在は貴重かもしれない、結局昨夜何があったか私が知る事は無かった。




