第五十二話 トルマリン・ゼファー
彼の大学入試当日。彼の分岐点となってしまったあの日彼の住んでいた街で大火事が発生した。
その時彼自身は街からは遠い試験会場の近くのホテルに両親が必死に稼いでくれたお金で泊まっていたため大火事の被害には遭わなかった。
だが、心優しい彼はニュースで見た現在の街の情景を見て酷く心に傷を負った。胸が張り裂けそうなくらい苦しく涙が止まらない。何故あんなふうになっているのかなんて分からないが、自分がいたらなにか変わったのかもしれない。
街のみんな、家族に申し訳ないそんなことで頭がいっぱいで試験会場に向かわなくては行けないギリギリまで泣いた。
母の言葉がよぎった。
『あなたにできることをしっかりやってきなさい』
そう、彼に今許された行動は泣くことでも、どうすればいいか考えることでもない。試験を受けに行くことだけだった。
彼は試験を受けた、必死に今自分にできることをやり試験が終わればすぐにバスを乗り継ぎバスが出なくなったなれば走って街に帰った。だが街に帰った彼を待っていたのは、全く知らない地獄のような光景だった。
草木は灰となり動物や家は焼き焦げ、池の水が無くなっていた。
何より彼を地獄に引き落としたのは家族の安否が分からないことだ。
ニュースにもなったくらいだから既に救助は終わりどこかに皆いるだろうと思いもしたが自分の目でそれを見るまでは安心できなかった。
彼は風の魔力を使いながら走った走って走って家族や街のみんなが避難している場所を探した。
見つけた。たしかに見つかりはした。だがこんな光景誰が望んだろうか。
「うあぁぁぁぁぁ」
腹の底から今まで出したこともない声が出た。救助した人達はほとんど焼死しておりそれは家族も例外ではなく家族で生き残ったのも7歳の妹たった1人だった。
だが、まだ油断出来ないくらい危ない状況らしく彼はとにかく願った。唯一生き残ってくれた妹だけでも救って欲しいと神に手を合わせ願った。
その時シャランという音が聞こえた。惹き込まれるような聞き入ってしまうようなそんな音が外から聞こえた。彼は全て忘れたかのように外に出てそこで見た。
この辺りでは見たことの無い男が彼に微笑み話しかけてきたのだ。
「君は今神に願ったね。僕は神ではないが…信仰者?眷属?ん〜まぁそれよりは近いような者でね、条件付きだが君の願いを叶えてあげようと思ってね」
彼にはその男が、当人は神では無いと言ったその男が嘘を言っているようには見えなかった。むしろどんどん惹き込まれる感じだ。
「本当か?」
「もちろん。嘘はついてないよ」
「お願いします。妹を大火事で唯一生き残った家族を助けてください。なんでも…なんでもしますから!」
彼は必死に額を地面に擦り付けて懇願した。
「ほらほら、そんなに土下座しなくていいからさ。頭上げて、条件は君が僕に着いてくること。妹さんも一緒にいいよ」
「そんなことでいいのでしたらこの身など貴方様に、神に捧げます」
「もう一度お願い、楽の神に捧げると言って」
「楽の神様に捧げます!」
「よーし。じゃあ行こっか日本に」
「はい」
もう彼はその時点で変わってしまっていた覚えているのは妹の存在のみ。妹は男から無事助かったと報告を受けて、そこから共に数年暮らしたが5年ほどで病によって亡くなってしまった。
彼が妹の墓に行ってから少しあとにあの男もやってきてこう話した。
「楽の神様が復活したら。お前に今最も必要なことができるはずだ」
「それは…死者との会話もできるのか」
「まぁ、おそらく」
「わかった、楽の神様を一刻も早く復活させよう」
「あぁ…そうだな」
これが罪第十席トルマリン・ゼファーのここまでの人生であり生き続けなければならない理由であった。
………そして現在彼は腹部を貫かれその生涯に幕を落とそうとしていた。、
トルマリンのエピソードでしたね。
腹部を貫かれたトルマリンの人生はさすがにもうそろそろ終わってしまいそうです




