68.ガラス職人の息子と、王女様たちについて
それからの事を話そう。
第一王女であるフェール・カインズは、ひきこもりをやめると色々な人々に謝罪に出掛けた。凛とした姿を見せ、「今まで迷惑をかけてすまなかったわ」とそんな風に告げた。
それを受け入れるもの、反発するものそれぞれあったが、それをフェールは受け入れる事を決めた。
そしてフェールは、妹であるナディアにも謝罪をした。
「私は今まで迷惑をかけたわね。……それに、お母様がしていることも、放置してしまっていたわ」
と、そんな風に。
今まで迷惑をかけてしまったことを謝る。ナディアに。
「フェールお姉様が、改心するなんて」
そしてそんな風に驚きを見せているのは、ナディアとヴァンの元へ遊びに来ていた第二王女のキリマ・カインズである。
「……キリマ、何よ。私が謝るのがそんなにおかしいのかしら?」
「驚いているだけですわ。フェールお姉様の性格は一生そのままだと正直思っておりましたので……」
「失礼な子ね……。私だって反省ぐらいするわよ。それで、貴方はどうしてここに? ナディアたちに迷惑をかけているなら怒るわよ?」
「……フェールお姉様にそんなこと言われるなんてっ。フェールお姉様にそんなこと言われたくありませんわ」
フェールとキリマはそんな会話を交わす。母親の違う二人は特に仲が良いわけでも悪いわけでもない。キリマもフェールには素を出してはいなかった。
「フェールお姉様、キリマお姉様はディグ様がお好きでディグ様と交流を持ちたくてここにいらっしゃるのですわ」
そんな様子を見ながらさらりとナディアが告げた。
「なぁあああ、ナ、ナディア! なんで、それ言っちゃうの? ねぇ、なんで?」
「!?」
キリマが動揺したように叫ぶ。そうすれば、流石のフェールも見た事のないキリマの様子に驚愕を浮かべる。
「……キリマ、貴方、その口調」
「うわあああああああ、フェールお姉様にバレた!」
「……それが、貴方の素かしら? もう、私は姉妹なのにキリマの事も、ナディアの事も全然知らなかったのね」
興味がなかったからとはいえ、姉妹なのに二人の事をフェールはよく知らなかった。
でもほとんど交流を持たなかったにも関わらず、悪意を向けていたにも関わらずナディアは家族の情でフェールを心配してくれていた。キリマだってほとんど交流を持たなかった姉に対して、悪意は持っていないようである。
(……私の妹たちは、私はあんなだったのに私を嫌いもしていなかった。好き勝手していた私なのに)
好き勝手していたのに、それでも心配してくれた事実。
今までないがしろにして、見下していた妹たち。
まったくその存在に関心を向けず、どういう性格なのかさえ理解していなかった妹たち。
「ヴァンも、悪かったわね」
「俺はナディア様が許すなら許します」
「……貴方は、本当にナディアが好きね」
まっすぐな目を浮かべている。何があっても、ナディアを裏切らないという目を浮かべている。
ヴァンはナディアが好きで、ナディアにだからこそ、これだけの感情を持っている。
(……そうか。私は、そういう目を誰かに向けられたかったのかもしれない。私も、ヴァンの大切に入りたい。その目を向けてほしい)
心の底でそんな願望を持ってしまった。あまりにも、ヴァンの目がまっすぐナディアのことだけを見つめていたから。
「ヴァン、私は貴方に嫌われているでしょう?」
「……ナディア様に嫌なことする人は嫌いです」
「……そう、なら、好かれる努力をするわ。貴方に好かれたいから、ナディアの味方をしましょう。だから、いつかでいいわ。私を信頼しなさいね」
それは心からの本心だった。好かれたいと思ったのだ。それがどうしてなのかはわからないけれど。信頼されたいと願ったのだ。あまりにもまっすぐな目に、真っ直ぐな心に、信頼されたいと。
「……フェールお姉様」
「ナディアにも、キリマにも私は好かれていないでしょう。でも、私は貴方たちにも好かれたい」
今まで好き勝手していた癖にと思われるかもしれない。だけど、フェールは兄の言葉で立ち直れて、ナディアが心配してくれた事実に少なからず救われたのだ。
だからこその、言葉だ。
「……すぐには無理かもしれません。でも、私は本当はキリマお姉様ともフェールお姉様とも仲良くなりたかった」
ナディアはそう告げる。ナディアは姉妹で仲良くしたいと思っていた。でも姉妹の母親はナディアを害そうとしていて、仲良くしようにも出来るものではなかった。
「私も、ナディアともフェールお姉様とも距離を置いていたからなぁ。私も仲良くできるのは無理って思ってたけど、仲良くできるならしたい!」
キリマは無理とあきらめていたけれど、出来ればそうしたいとは思っていた。だからそんな言葉を言い放つ。
「……じゃあ、これから仲良くしましょう。今まで仲良くできなかった分」
そしてフェールは、そんな言葉を言って笑った。澄ました笑顔ではなく、心の底からの笑みを浮かべて。
―――ガラス職人の息子と、王女様たちについて
(ガラス職人の息子がナディアの傍に来たことで、少しずつ彼女たちの関係は変わっていった)




