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ガラス職人の息子は初恋の王女様を守ります。  作者: 池中織奈
第一章 《英雄》の弟子になる
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6.王国最強の英雄とガラス職人の息子の人知れずな攻防について<2>

 王国最強の英雄、ディグ・マラナラにナディアの周りに居る召喚獣の契約者が自身である事を知られないようにするためにヴァンは動き出した。―――王国最強の英雄、『火炎の魔法師』を相手にしようとしている時点で、色々平凡からはずれているのだが、その自覚はヴァンには一切ない。

 さてさて、そんな普通とはかけ離れた決意をし、『火炎の魔法師』を相手にしようとしているヴァンが現在何をしているかといえば、

 「……よし、いい感じ」

 なぜか王都から少し離れた魔物の住まう森―――ブラエイトの森の中で魔法陣を描いていた。幾つもの不思議な紋章の描かれた、直径5メートルほどの魔法陣。しかしそれは綺麗に描かれてはいない。ヴァンの性格がおおざっぱなのも理由だろうが、その魔法陣は何処か雑である。

 魔物が往来する危険な森の中に、ヴァンは家を抜け出してきていた。しかも誰にも見られる事がないように森の奥の方まで進んでいる。

 そんなヴァンの周りには5匹ほどの召喚獣が居る。《サンダースネーク》のスエン、《ブリザードタイガー》のザート、《レッドスコーピオン》のオラン、《アイスバット》のスイ、《ブラックキャット》のクラである。

 五匹も召喚獣を連れているだけでも色々と規格外である。本人の自覚は全くないけれども。

 「よし、じゃあやるぞ」

 五匹も召喚獣を引き連れてヴァンが何をしようとしているのかといえば、新たな召喚獣の召喚である。

 『……主様、魔法陣が大ざっぱすぎる気がするのですが』

 「問題ない。俺、スエン呼び出した時もこんな感じだったし」

 魔法陣の適当さにスエンが声を上げるが、それに対してのヴァンの答えはそんな感じであった。

 魔物の遠吠えなども聞こえる危険な森の中、小型化させているとはいえ五匹もの召喚獣を従え魔法陣の前に立つヴァンは間違っても平凡という言葉は当てはまらないように見える。

 何故、ヴァンが新たな召喚獣を召喚しようとしているかといえばそれもこれも『火炎の魔法師』と名高い王国最強の英雄がナディアの周りに召喚獣が居るのを知り、契約者を探しているからだ。そこでおとなしくディグ・マナラナの前に出れば事は収まる気もするが、「見つかれば処刑される」と勘違いしているヴァンはバレなければ問題ないと、『火炎の魔法師』の目を欺こうとしているのだ。

 それに対する召喚獣たちの反応はといえば、『流石、主様』、『面白そう』、『おとなしく見つからないからこそのご主人』などとそういった反応を示していた。

 『今回は指定なのですよね?』

 「ああ。《クレイジーカメレオン》を呼ぼうと思っている」

 『……呼ぶものを指定するのならば、やはりもう少し丁寧に魔法陣は描くべきだと思うのですが』

 「大丈夫大丈夫、なんとかなるって」

 ヴァンは適当である。召喚獣を呼び出すという危険な行為に励むというのにそこに危機感はない。それは割と簡単にこれまで召喚獣を召喚して契約する事が成功しているからというのもあるのであろう。

 スエンは自分の意思を曲げない主人にため息を吐くと、それ以上なにも言わなかった。

 『主様は魔法陣を間違ってようと問題ないだろう』

 『スエンは心配症ねぇ』

 『ヴァンが問題ないというならば問題ないだろう』

 『失敗しても俺らでどうにかできるし』

 上からザート、オラン、スイ、クラのセリフである。ヴァンの実力を信用しているからというのもあるだろうが、彼らは割と適当であった。

 「よしっ、じゃあやるぞ」

 ヴァンは気合を入れてそんなことを言った。そして、魔法陣に手を当てて、召喚獣たちを呼び出すための呪文を唱え始める。

 

 「俺は求める。異界に存在するお前の姿を。俺は呼びかける。お前を、《クレイジーカメレオン》を」


 それは本当に呪文か? と疑問に思うような適当な呪文である。もちろん正式な召喚獣を召喚する呪文というのはこれではない。文字が何となくしか読めないヴァンは毎回毎回割と大ざっぱで適当な呪文を唱える。それできちんとした召喚獣が召喚できているのが色々とおかしい。

 ヴァンと契約する召喚獣の真面目な者――スエンなどはきちんとした呪文を教えてもいるのだが、ヴァンは「呼べるから何でもいいだろ。それに長ったらしくてめんどくさい」などといってこの調子である。

 魔法陣に充てられた手からヴァンの魔力が放出する。そして魔力は魔法陣に伝っていく。魔力がいきわたっていくにつれ、魔法陣が光り輝きだす。

 その最中に光に驚いてよってきた魔物も居たが、それらはスエンたちによって殺された。

 一層に輝きを増した魔方陣は、一度ピカッと光り、そしてそれは失われる。次に目を開けた時、そこには一匹の、巨大なカメレオンがいる。色は不気味な紫色。それに斑なオレンジ色の模様がある。一言でいえば不気味だった。

 『カカカカカカカカカカッカカカカッ、俺様を呼んだのはだーれだ』

 「うるせぇ」

 現れると同時に大きな笑い声をあげて口を開いた《クレイジーカメレオン》にヴァンは眉をひそめた。

 『あ? なんだぁ。召喚獣が沢山じゃねぇか。つか、あれかお前か。この俺様を呼んだのは!』

 「ああ、そうだ」

 『……なんだよ、俺様が一番じゃねぇのかよ。しかも呼んだのがこんな可愛げもない男とか気分がなえるわ。俺様はお前と契約はする気にならねぇ―――「沈め」―――ガッ!』

 契約する気にならないと口にしようとした《クレイジーカメレオン》はヴァンの一言に地に突っ伏した。

 ヴァンが何をしたかといえば、重力魔法である。頭の中で魔法の公式を構築し、たった一言の詠唱で《クレイジーカメレオン》を沈めたのだ。

 「今、なんていった?」

 『だから俺様は契約はしな――「重力二倍な」―――ヴォフゥウ!』

 先ほどよりも倍な重力がかけられる。声にもならない声をあげて《クレイジーカメレオン》は地面にめり込む。

 「俺はお前と契約したいんだけど」

 『だ、か、ら、おれ、「契約しないというなら潰すぞ? お前の代わりに別の奴呼べばいいだけだし」―――ウゴォオオオオ!』

 益々突っ伏す。ヴァンは清々しいほどに容赦がなかった。

 『け、けけけ、い、や、く、す、すすすうぅうる』

 潰れながらであるから声がぶれているが、”契約する”と確かに口にした瞬間、魔法は解かれる。

 「よし、じゃあするか」

 にこやかに微笑んで、《クレイジーカメレオン》の額に手を置く。触れられた《クレイジーカメレオン》は疲れた顔をしている。反抗する気力はないらしい。寧ろびくついていた。

 「お前の名前は?」

 『お、俺様は、レイ』

 「レイな。オッケー。俺ヴァンはこいつレイと契約を結ぶ。俺の魔力を譲渡する代わりに、レイは俺の力になれ。ここに、契約す!」

 契約の呪文も適当であった。本来もっと仰々しく、真面目な詠唱なのにヴァンがやると色々おかしい。

 ヴァンとレイの周りが輝きだし、契約が結ばれる。

 その様子を見ながらスエンは、なんであんなに適当なのに成功するのだと遠い目を浮かべるのであった。

 『お、あ、あのヴァンよ』

 「なんだ?」

 『凄い数の魔力があるんだが、ヴァンは何匹と契約をしているんだ』

 契約を結ぶと同時に契約者と召喚獣は魔力のパスでつながれる。そうなったことによってレイはヴァンの魔力に驚くほどの数の魔力が存在している事に気づいた。

 それは、他の召喚獣たちの魔力であることは明白であったが、その数は驚くほどだった。

 「お前入れて二十」

 『は?』

 「だから、お前で二十匹め。それよりもお前にこれからやってもらいたいことを言う」

 ヴァンは放心しているレイの事なんて気にしていないのかマイペースに説明をしはじめるのであった。





 ―――王国最強の英雄とガラス職人の息子の人知れずな攻防について<2>

 (新しい召喚獣は王国最強の英雄にバレないために新たに契約した存在)




 

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