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ガラス職人の息子は初恋の王女様を守ります。  作者: 池中織奈
第二章 片鱗を見せる

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35.パーティーの準備をする第三王女様と差し出すガラス職人の息子について

 「ナディア様がパーティーに出席なさるなんて、私共も気合いを入れなければなりませんわ!」

 ナディアからパーティーに出席する事を聞かされたチエは、そういって嬉しそうにほほえんだ。他のナディア付きの侍女たちもそれはもう嬉しそうに、パーティーの準備をし始める。

 今までナディアは必要最低限しか、パーティーに参加してこなかった。

 しかし、侍女たちとしてみれば自分の美しい主を着飾りたかったというのが本音なのである。

 ナディアは将来が楽しみになるような美少女である。

 その美しさが損なわれないように侍女たちは細心の注意を払っているものである。この三の宮の中だけでもその美しさを愛でていた。しかし、うちの姫様はこんなに綺麗なんだぞ! と自慢したいのがナディア付きの侍女たちの本音であった。

 そういうわけでもあって、彼女たちはパーティーに出席したいと名乗り出たナディア本人が驚くほどにやる気を出していた。

 そこからはもうナディアは着せ替え人形と化していた。

 ドレスや髪飾り、靴など、そういう全てのものを選ばなければならない。第一、パーティーの準備というものは時間がかかるものである。ナディアは王女であるからドレスもそれなりに保持している。パーティーにあまり出席しないのもあってほかの王女たちよりは少ないが、それでも一般的に考えればかなりの量である。

 そのドレスを侍女たちが引っ張り出して、「どれが一番ナディア様に似合うでしょうか」と次々に着せていく。

 ナディアは王女であるのだから、こういう着せ替え人形と化せられるのもなれているものの、あまり好きではなかった。いや、美しいドレスを着るのは十歳の女の子として楽しめるものだ。しかし、これだけ着替えを繰り返すと疲れてしまうものなのである。

 「ナディア様、この色はどうでしょうか」

 「まぁ、やっぱりこれはナディア様に似合いますわね」

 「ナディア様綺麗ですわ」

 それに加えて興奮している侍女たちに返事を返し、どのドレスが良いか着る本人として意見を言わなければならないのだ。

 結局ドレスを選ぶだけでかなりの時間が過ぎてしまった。

 結果を言えば、ナディアのドレスは赤いフリルのついたかわいらしいドレスになった。大人っぽいドレスはどうかという意見も侍女の中で出たのだが、ナディアはまだ十歳であるわけで、そういうドレスはまだはやいだろうという結論に至ったのである。

 しかしドレスが決まったとはいえ、他にも選ばなければならないものは沢山ある。

 「これは、どうでしょうか」

 「こちらが――」

 そういう侍女たちの会話を聞きながらもナディアは、

 (パーティーって参加する前から大変なのよね。なんでお姉様たちはこんな大変なパーティーが大好きなのかな)

 などと思考するのだった。

 ナディア自身パーティーのことが嫌いなわけではない。キラキラした世界が広がっていて、食事も豪華で、楽しい事も沢山ある。だけど、楽しさの裏には楽しくない事も沢山あるのだと、ナディアは幼いながらに知っている。

 「……チエ、私頑張るわ」

 だから楽しむとかそういう単語ではなく、頑張るとナディアは口にするのだった。



 そしてそんな風に身に着けるものを選んでしばらくたった日、ヴァンが三の宮を訪れた。



 ヴァンはあれから何度か活性期の魔物を相手にしているという。ナディアは王女という立場もあってヴァンがどれだけ活躍しているのかは実際に見る事はかなわないが、それでもヴァンの召喚獣たちや侍女たちからそういう話は聞いている。

 三の宮からあまり外に出ないナディアの耳にも、『ディグ・マラナラの弟子』としてヴァンの事は耳に入ってくる。活性期の魔物相手にそれだけ戦えるということで少しずつ目立ってきているといえるだろう。最も、本人にそういう自覚は相変わらず全くなさそうだが。

 「ヴァン様、どうなされたのですか?」

 突然、三の宮にやってきて「ナディア様に会いたいのですが」と侍女たちに告げたというヴァンにナディアは驚いていた。今までナディアから呼び出したり、手紙で待ち合わせをしてあっていて、ヴァンからこうして会いに来る事はなかったからだ。

 ナディアとヴァンは向き合って椅子に腰かけている。

 「……え、えっとナディア様がパーティーに参加するって聞いて」

 「ええ、参加しますわ。マラナラ様から聞きましたの?」

 「師匠と、召喚獣たちから」

 ナディアの問いかけにヴァンはそんな風に答えて、また口を開く。

 「ナディア様、今までパーティー参加されてなかったし、召喚獣たちに聞く限りパーティーって、ナディア様にとって危険もあるかもしれないって聞いて……。それで、俺こいつを、ナディア様を守るために渡しておこうと思って…」

 そういって、ヴァンが召喚したのは《クレイジーカメレオン》のレイであった。ディグに見つけられたと知った後に、召喚して契約した一番新しい召喚獣である。

 『カカカカカカカカカカカカカッ、俺様をおよび――』

 「沈め」

 そして調子にのったように高らかに笑うレイは、召喚された時と同様ヴァンから魔法を食らっていた。

 『アガガガガガガ』

 「すみません、ナディア様。こいつ、煩い奴ですけど……でも、役に立つと思うのでパーティーに連れてって欲しいんです」

 地面に沈められたまま声にもならない声をあげるレイ。しかしそんなレイの事など知ったことじゃないとばかりにナディア様の方を向いて頭を下げるヴァン。

 「連れていくっていっても…。ヴァン様。この召喚獣小型化してもそれなりに大きいですわよね? パーティーには連れていけませんわ」

 「あ、大丈夫です。こいつは《クレイジーカメレオン》っていって、同化の能力があります」

 「同化?」

 「えっと……周りに溶け込めるというか、姿を見えなくぐらいはできます。だから、パーティーの間でも……ナディア様のこと、近くで守れるんで」

 ヴァンはそう告げて、次にレイの方を見る。

 「おい、レイ、ナディア様のこと絶対に守れよ。守れなかったら許さないから」

 『は、はいいいい。まも、守るから、まほう…と、とい』

 レイがそう答えて、ヴァンは今までかけていた魔法をようやくとく。そしてレイを小型化させてナディアへと差し出す。

 「パーティーで何かありそうなら……こいつが、命に代えてでもナディア様のこと、守るので、連れてってください」

 そんな風にヴァンは緊張したように告げる。ナディアはそれを受け取って、

 「ありがとうございます。ヴァン様」

 とそういって笑うのだった。



 ――パーティーの準備をする第三王女様と差し出すガラス職人の息子について

 (第三王女様は着ていくものの準備に励み、ガラス職人の息子はナディア様への心配から《クレイジーカメレオン》を差し出すのでした)





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