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ガラス職人の息子は初恋の王女様を守ります。  作者: 池中織奈
第二章 片鱗を見せる

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33.英雄様とガラス職人の息子について

 「お前、いい加減自分の異常さを自覚しているか?」

 そこは、魔法練に存在するディグの研究室。ディグは面倒そうに椅子に腰かけながら、ヴァンに問いかけた。

 「へ?」

 問いかけられたヴァンはといえば、読んでいた本から顔を上げて、ディグの方を驚いたようにまじまじと見ている。

 以前よりも文字を読めるようになったヴァンは、「本の知識は色々役立てられるぞ。ナディア様を守るためにもなるかもしれない」とディグに言われてから、一心に本を読むようになっていた。読めない単語などは、ディグとフロノスに聞きながらであるが、ヴァンは吸収力が早い。

 ナディアのために、と思うと色々な効率が上がるのかしらないか、色々なものを割とさらっと学んでしまう。

 「異常さ?」

 問いかけるヴァンの顔には、やっぱり何もわかりませんといった表情が浮かんでいる。

 自分が異常だという事を、きちんとは理解しきっていないのが丸わかりである。ディグはそんなヴァンに溜息を吐く。

 「あのな。ヴァン」

 「なんですか、師匠」

 「普通、活性期の魔物相手にあれだけ戦えねーからな?」

 ディグはとりあえず、魔物の活性期の話を上げてそう告げる。

 普通、活性期の魔物相手にあれだけ戦えるわけがない。ましてや、ついこの前まで普通の平民であったはずの少年なら、恐怖心で立ち上がれなくなっても無理はない状況であった。

 だというのに、ヴァンの中にはそういう活性期の魔物とやり合う恐怖心といったものは全然なかったようにディグには見えた。いや、事実なかっただろう。

 ヴァンにそれだけの度胸があるのか、召喚獣たちがいるから大丈夫と思っていたのか、それとも両方が理由か、ディグにはわからないが、事実ヴァンは何も躊躇いもせずに活性期の魔物相手にあれだけ戦えた。

 それも一種の才能であるとディグは考える。

 そもそも例えば、いくら戦う才能があったとしても、ヴァンのように魔法師としての天才といえる才能があったとしても、その人にそれだけの度胸と心が備わっていなければその才能もただの無駄なものでしかなくなる。

 戦うだけの、戦い抜くだけの度胸がなければそのものにいくら素質があったとしても、英雄にはなりえない。

 幾ら強くても、中身が伴ってなければ英雄として認められるわけなどない。

 その点を言えば、ヴァンは才能も十分であるし、戦いに関しても躊躇いがない。

 (そしてこんな色々おかしいやつが、俺の弟子になっておいて、平凡な人生を進むはずはない)

 そもそも元々の、平民でありながら王宮に召喚獣を侵入させて、第三王女様を守っていた。という点でさえ、平凡とはかけ離れている。しかしディグがヴァンを見つけ出したことによって、ヴァンは表舞台にたった。

 本人としてはガラス職人として生きるつもりであっただろうが、現在は最強の魔法師の弟子となっている。そんな存在が平凡な人生を歩むはずはない。

 それは誰の目から見ても明らかなことである。ただの『火炎の魔法師』の弟子としては、終わらないだろう。有名な人の弟子ではなく、本人自体が有名になるだろうことは、簡単に想像できるようなことであった。

 「でも、活性期の魔物ってもっと危険だって聞いてたけど普通の魔物とそんな変わらな――」

 「そう思っているのはお前だけだ」

 相変わらず常識はずれな事をいっているヴァンに、ディグは言う。

 「でも師匠やフロノス姉だって簡単にやりあってたじゃんか!!」

 「それは、俺とフロノスだからだ。馬鹿! 俺は仮にもこの国で有名な魔法師で、フロノスはフロノスで俺の弟子なんだ。だからやり合えているだけで、普通はあんなできねーよ!」

 「そうなの…?」

 「そうだ。お前は異常だ。そして、魔法や召喚獣関連の才能は俺やフロノスを超えている」

 ディグはまっすぐにヴァンの目を見て断言した。

 事実、才能的な意味でいえばヴァンの才能はとびぬけている。それだけとびぬけた才能を持ち合わせていなければ、召喚獣を召喚した時点で殺されている。生きてなどいない。魔法だって暴走させているはずだ。

 それに召喚獣と契約は色々な条件が重なってなせるものだ。ヴァンは召喚獣たちにとって面白い存在で、魔力が美味しくて、それでいて召喚獣と相性が良い。そして大量の召喚獣と契約をしていても問題がないだけの、天賦の才能を持ち合わせている。

 それは、紛れもない事実だ。

 自覚がなさすぎるからこそ、自覚をさせるべきだと考えた。自覚なしでは色々とこれから支障が出る事は明白であるからだ。

 「……でも俺、フロノス姉に一度も勝ててないよ?」

 ヴァンは本を持ったまま、信じられないといった表情でディグを見て口を開く。

 「それはフロノスの戦い方が良いからだ。お前には才能はあるけれども、戦い方がまだまだだ。経験がないから、フロノスに一度も勝てないだけで経験さえ積めば、お前はフロノスにだって勝てる」

 そう断言するのは、ヴァンの才能を少なからずみてきたからだ。第一、フロノスに負けるとはいってもそれは召喚獣たちを使わず、なお且つフロノスを殺さないようにと手加減をしたうえでの模擬戦においてなので、実力的に言えばヴァンは既にフロノスを超えている。

 召喚獣だって契約者の立派な武器である。召喚獣たちを全員使えば、ヴァンはディグだって殺せることだろう。

 「俺はお前は、誰にも負けないほど強くなれるだけの才能を持っていると思っている。まだお前は子供だ。伸び代が何処までも続いている。時間は沢山ある。その間、ナディア様を守りたいからって理由でもなんでもいいから、強くなろうとし続ければ、お前は俺が想像できないぐらい強くなるだろう」

 それも本心からの言葉だ。

 ヴァンにはそれだけの才能がある。現状だって十分国家転覆ぐらい簡単に出来そうなほどの戦力を持ち合わせているのだ。これでまだ十三歳というのだから、恐ろしいものである。

 ヴァンは子供で、若い。

 今からならどうとでも自分を磨ける。

 どんな理由であってもいいのだ。ただ強くなろうとヴァンがし続けるのならば、それは身を結ぶ。

 「で、でも」

 「あー、もう、いいから頷け。理解しなくてもいいから、そういう事を俺が思っているっていう事を頭に留めとけ。そしていつか理解しろ。自分がどれだけ異常で、どれだけの才能を所持しているのか」

 ディグは面倒になったらしく、結果としてそういって締めくくった。

 そんなディグの言葉に、ヴァンはおとなしくうなずいて、そして、問いかける。

 「俺は、ナディア様の事を守れるようになれますか?」

 と、そんなことを問いかける。

 ヴァンの頭の中は何処までもナディアの事しかない。ナディアの事しか考えていない。ナディアのために、というのがヴァンの全てなのかもしれない。

 ディグはそんなヴァンを思って、笑った。

 「なれるさ。お前は誰にもナディア様を傷つけさせないぐらい強くなれる。それは俺が保証する。だから存分に自分を磨け」

 告げられた言葉に、ヴァンは頷くのであった。





 ―――英雄様とガラス職人の息子について

 (相変わらずちゃんとは理解していないが、英雄様は苦労してヴァンに頷かせるのであった)




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