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ガラス職人の息子は初恋の王女様を守ります。  作者: 池中織奈
第二章 片鱗を見せる

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32.初討伐後の二人について

 活性期の魔物をはじめて相手にしたヴァンは、その翌日、心配したナディアに呼び出されていた。そしてナディアから呼び出されると何を差し置いてもナディアの元へ向かってしまうヴァンであった。

 活性期の魔物を討伐するなんて危険な事を終えた後だというのに、ヴァンは相変わらずいつも通りであった。

 フロノスとの模擬戦を見ていたこともあってナディアの傍に控えるチエは何とも言えない表情で、ヴァンの事を見ている。

 「ヴァン様、昨日はご活躍だったのですってね」

 そんなチエとは対照的に、ナディアはそれはもうにこにこしていた。活性期の魔物を相手に戦ったというのに無傷であったこと、そして活躍したこと、そのことを自分の事のように喜んでいるようであった。

 ナディアにそんな風に笑顔を向けられて、ヴァンの顔はそれはもう真っ赤だ。わかりやすすぎるご主人の姿にその場に控えていた三匹の召喚獣は面白そうに笑っていたり、呆れたようにしていたりしている。

 《ファイヤーバード》のフィア、《グリーンモンキー》のニアトン、《ファンシーモモンガ》のモモである。

 《グリーンモンキー》はその名の通り緑色の猿である。緑色であることを生かして自然の中に溶け込み、相手を襲うという恐ろしい猿である。ちなみに、小型化しても王宮に居るには不自然すぎるという理由で、ヴァンがディグの弟子になり、ナディア様の護衛の件が公になるまでニアトンはナディアの護衛をしたことはなかった。

 《ファンシーモモンガ》は真っピンクのモモンガである。鋭い牙をもち、空を飛ぶことも可能で、小型サイズなため肩に乗れるほどのサイズだが、実際はもっとでかい。こちらも色が奇抜なのもあってニアトン同様、目立つという理由でナディアの周りをうろうろしていなかった。

 「か、活躍って、俺は……」

 『主はめっちゃ活躍してたって聞いているぜ』

 『ザードとクスラカンが一緒にいかれたのでしょう? 羨ましい』

 『くぅう、わたくしなんてナディア様の護衛も今までやったことなかったし、あまり出番のないわたくしを連れて行ってくださればよかったのに』

 ヴァンがなんていえばいいんだろうという感じでもごもごしていたら、召喚獣たちは勝手に話し始めた。

 「ああ、もう! 俺はナディア様と喋ってるんだ。邪魔すんな」

 ヴァンは勝手に話し始める自分の召喚獣たちに向かって、そんな苦言を言い放つ。ナディア様と折角会話が出来るという機会を邪魔されたくないらしい。

 「ふふ、ヴァン様は召喚獣たちと本当に仲良しですね」

 そんな様子を見ながら、ナディアはそれはもう美しく笑う。

 「な、仲良しって。まぁ、こ、こいつらとは長い付き合い、だから」

 「そういうの、いいですわよね。召喚獣たちとそんな風に仲良くじゃれあえる関係って素晴らしいと思いますわ」

 「そうですか?」

 「ええ。召喚獣と契約を結べても良い関係を結べなければ結果的に死に至った方もいると書物で読んだことがありますもの。ヴァン様はそういう心配はなさそうですから」

 召喚獣との契約というものは、強制的なものではない。契約を結んでいても契約者と召喚獣の関係が悪ければ、悪い結果をもたらすことだって十分にあるのである。

 そういう点を見て考えてみれば、ヴァンは幸福であるといえるだろう。召喚獣たちと良い関係を築けているのだから。

 『主といるのは面白いからなぁ』

 『楽しいし、面白いですから』

 『わたくしは主様がこれから何をなすのか見ていたいですもの』

 その場にいた三匹の召喚獣はそれぞれそんな風に答えた。

 ヴァンが召喚獣とこれだけ契約を出来るのは、その気質によるものも大きい。ヴァンという存在があまりにも面白くて、見ていたいとそういう風にひきつけられたから。それに加えて、自分たちを従えるに値する力を持っているから。

 初恋の相手を守りたいから――なんて理由で召喚獣と契約をしたり、魔法を覚えたり、自力でやってしまうヴァンは馬鹿である。馬鹿でなければ、そんな風にやろうとさえも思わない。

 天才と馬鹿は紙一重とはよく言うものだ。

 ヴァンはそういう面でいえば馬鹿である。でも召喚獣を従える才能と魔法を行使する才能面でいえば天才である。

 「こいつらが、俺を殺すとかありえないです。それにもし万が一俺を殺そうとするっていうなら俺がこいつらを先に殺します」

 ヴァンは召喚獣たちの言葉を聞いた後、そういった。

 召喚獣たちが自分を殺すなんてありえない。それは、信頼しているという証。

 そして万が一殺そうと向かってくるなら、先に殺すとそんな風にヴァンは言う。

 「万が一があれば、殺すのですか?」

 「はい。だって俺はナディア様の事を守りたい、って烏滸がましいかもしれないけど……そ、そう思っています。だから……死ねません」

 はっきりとそういったヴァンはやっぱりなんだかんだいって普通の感覚からはずれている。

 召喚獣と契約をしたのも、魔法を覚えたのも、全てナディアを守るためであった。初恋の王女様を、ナディアを守りたいと、そう願ってしまったからこそそんな真似をヴァンはした。

 そして、それができてしまったからこそヴァンは今こうしてここにいる。

 現在のヴァンの目標は、『ナディア様を守れるほど強くなること』である。どんな魔の手があったとしても、好きな人を守る力が欲しいとそう望んでいる。

 そう、だからそんな過程の中で死ぬわけにはいかない。

 (――死ぬわけにはいかない)

 そう思考し、真っ直ぐにヴァンはナディアの事を見ている。

 (俺は、この方を、ナディア様を守りたい。隣で守れるぐらい、強くなりたい)

 それは、決意だ。改めて感じた、決意。

 「ふふ、そうですの…。嬉しいですわ。ヴァン様」

 目の前でヴァンの言葉を聞いて、それはもう嬉しそうに、陽だまりのような笑顔を浮かべるナディアのその笑顔を、守りたいとそう願ったから。

 「がんばってください、ヴァン様」

 「…はい! 頑張ります」

 頑張ってくださいと、たった一言言われただけなのにそれだけでヴァンの心はどうしようもない幸福感に包まれていた。

 そして改めて、ナディアを守るためにもっと頑張ろうと思うのであった。





 ―――初討伐後の二人について

 (ガラス職人の息子は、初恋の王女様をずっと守り続けたいと望んでいる)




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