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ガラス職人の息子は初恋の王女様を守ります。  作者: 池中織奈
第二章 片鱗を見せる

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26.フロノスとの模擬戦について 上

 フロノス・マラナラは、『火炎の魔法師』と呼ばれる名高いカインズ王国最強の魔法師の養子にして、一番の弟子である。

 年はまだ十三歳。その年にして魔法を自在に使いこなし、「流石、あのディグ様の弟子だ」ともてはやされてきた。フロノス自身も、自分がほかの人よりも優秀な事を自覚し、そのことを誇りに思っていた。

 ―――つい、三か月前までは。

 自分の自惚れや驕りがどれだけ恥ずかしかったか、それを自覚したのは本物の天才が現れたからである。

 フロノスの弟弟子となったヴァンという少年は色々とぶっ飛んでいた。そもそもの話、平民でありながら魔法を使え、召喚獣を従えるなんてありえないことである。普通なら独断でそんなことをしようとすれば、死ぬ。間違いなく死ぬ。だというのに、ヴァンは生きている。

 それだけでおかしい。生きていけるということ自体が、驚きなのだ。ヴァンはそういうレベルにいる少年であった。

 最早妬むことさえもおろかだと感じるほどに、高みに存在し、それでいて自分がそこまで上り詰めている事を欠片も理解していないというのだから笑える話だろう。

 普通の人々が、どれだけ望んでも手に入れることが出来ないものを手にしている。そしてその自覚はない。

 誰もが焦がれる強さを彼は持っている。

 決してそれを理解することはない。それを当たり前のように受け入れている。

 現在フロノスは、ヴァンと模擬戦をしていた。それもヴァンはあれだけの力を所持しておきながらも、自身の力の使い方がわからないというもったいないものだったからだ。

 この三か月、少しずつ対人戦をヴァンは学んで来ている。

 剣の扱いもディグとフロノスが教えているのもあって少しずつ使い物になるようになってきている。

 そしてヴァンと対峙するフロノスは焦っていた。

 (……日に日に、学習している。まだ三か月なのに。ディグ様の弟子になって、まだ三か月。でも私はもう追い越される、いや、元から私より先をいっていた。ただ戦い方を知らなかっただけで……)

 そう元々フロノスよりもヴァンは先をいっていた。

 文字さえも知らないのに独学で魔法を学び、召喚獣と契約をし、そんなふざけた存在が居たというだけでも信じがたい。でも事実、ヴァンという存在はフロノスの目の前にいる。

 そしてフロノスと向き合っている。

 「炎よ、出ろ」

 ヴァンと模擬戦をするようになってから、フロノスは益々ヴァンの規格外さを知った。

 きちんとした詠唱もなしに、魔法を行使できる存在なんて、フロノスはディグだけだと思っていた。『火炎の魔法師』と呼ばれ、欲しいままに名声を手にしている師だけだと。

 あんな風になりたいと望んだ。

 自分を弟子にしてくれたディグは、噂と違ってだらしない存在だったけれどもそれでも尊敬に値する師だった。あんな風にいつかなりたいと望みながらも、追い付けない事に嘆いていた。

 ディグはフロノスに「お前はまだ若いんだから」といった。焦る必要はない、と。

 でもそんなフロノスの前に自分より年下でありながらディグと同じ高みに到達している少年が現れた。ヴァンが現れてからフロノスは必死だった。でも、結局の所ヴァンは天才であり、彼と自分を比べる事は間違っているということぐらい理解していた。しかし、理解していたとしても、年上としての、仮にも姉弟子としてのプライドが確かにあったのだ。

 負けたくないという意地。

 自分は姉弟子だという、年上だというプライド。

 その二つがこの三か月、実力の差があるにも関わらずフロノスが必死に食らいついてきた理由だった。

 「我が望みをかなえよ。我が望む煉獄よ、出現せよ」

 フロノスは障壁を張ることが間に合わない事を悟っているからか、ヴァンから放たれた炎に関しては魔法で対処もせずに避けた。まだ戦い方を学んでいる最中のヴァンは魔法は放つだけであって、操ることをあまりしない。

 ヴァンの魔法を放つ相手はいつだって自分より弱者であり、一撃で沈んでいた。それもあってあまり操ることをしてこなかったのだろう。

 一直線に向かってくるそれを避けるのは魔法になれているものなら案外簡単に出来る事であった。

 ヴァンからの魔法をあっさりと避けたフロノスの放った魔法は、きちんと詠唱したもので、ヴァンの放ったものよりも強い炎の魔法だ。

 赤く赤く燃えるそれが、ヴァンへとまっすぐに向かっていく。

 ヴァンは、「跳ね返れ」とただそれだけ口にして、魔法を跳ね返す。たった一言で自分の渾身の魔法が跳ね返されたことにフロノスは焦りながらも、相手がヴァンなのだから想定できたことであろうと思考し、冷静にそれに対処する。

 腰から剣を抜く。

 それに魔力を込める。向かってくる炎が自身の魔力で形成されているからこそ、フロノスにはそれがどういうものなのかよくわかった。よく見えた。

 理解して、見えたからこそ、フロノスは、それを切った。

 そう、文字通り、剣で切った。

 魔法を切るという行為はなかなか出来るものではない。それにはそれ相応の技術と武器が必要である。

 フロノスの武器は、ディグから与えられたもので、それなりに強度を持っている。魔力を込めても折れる事なく存在し続けるだけの性能を持っている。魔法を熟知していれば、技術と武器次第で魔法を切ることが出来る。

 フロノスが魔法を切るなんて真似が出来るのは、彼女がそれだけ努力を重ねてきた証であり、ヴァンほどではないにせよ、フロノスがそれだけ才能を持ち合わせているという証でもあった。

 ヴァンという天才が居るからこそ、霞むが、フロノスだって『火炎の魔法師』の弟子として認められるだけの少女なのだ。

 魔法を切ったフロノスは、地面をけり、跳躍する。魔力を纏った長剣を片手にヴァンへととびかかる。

 ヴァンはあわてて、それを避ける。

 でも、フロノスの猛攻は止まらない。

 ヴァンの魔法の技術がどうしようもないほどで、ただ一言で魔法を唱えられるとしても、それを唱えさせる隙を、余裕を作らせなければいい。魔法を放つには、少なからず集中力が必要なのだから。

 長剣の斬撃を、ヴァンは紙一重でよけていく。

 肌にあたる擦れ擦れの所をよけ、一瞬の隙を見つけて、「壁、出ろ」と口にし、障壁を出現させるとフロノスの長剣を弾き飛ばした。

 ヴァンとフロノスは距離を置いて、向かい合う。



 二人の模擬戦は、まだ終わる気配は見られない。




 ―――フロノスとの模擬戦について 上

 (ガラス職人の息子は、姉弟子相手に奮闘中)




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