第一王女と、他国の英雄 3
ザウドック・ミッドアイスラは、カインズ王国に足を踏み入れた。傍に、義理の父親であるルクシオウス・ミッドアイスラはその場には居ない。『雷獣の騎士』として二つ名を授かったザウドックは、トゥルイヤ王国の者も何名か連れてきているものの、代表者はザウドックである。ザウドックがこうして一国の代表としてカインズ王国に来るのははじめてである。
それも、フェールに求婚するためという緊張して仕方がない事情でここにきているのもあってザウドックはいつもより無口だった。いつもはもっと傍にいるものに声をかけるぐらいには社交的なのだが、この時ばかりはザウドックはフェールの事で胸が一杯だった。
(フェール様に会える。フェール様は、俺との約束を覚えていてくれているのだろうか?フェール様にとってはもしかしたら冗談で言った事かもしれないけれど——俺が本当に王女であるフェール様を娶れるぐらいに名を挙げると思ってなかったのかもしれないけれど——、でも、俺はそのフェール様との約束を本気にしてここまできた。……フェール様は、なんていうだろうか?ふられたらどうしよう?いや、そもそも求婚させてくれるだろうか?……ああ、急に不安になってきた)
フェールにもうすぐ会えると気持ちは高揚していたが、フェールにもうすぐ会えるという思いでいっぱいの中、急に不安が湧いてきていた。
(フェール様……)
ザウドックはフェールの事ばかり、ずっと考えていた。
今から、カインズ王国の国王であるシードル・カインズと謁見をする。そして、その場で、フェールと婚姻を結びたい意志をきちんと伝えなければならない。トゥルイヤ王国の王から話はいっているわけだが、直接、その意志を口にするべきだろう。シードルはフェールの父親であるのだから、「娘さんをください」ときちんと告げるべきなのだ。
(やべぇ、よく考えたら、先にそれか。カインズ王国の国王陛下の前に、フェール様の父親なんだ。その前で、フェール様と結婚したいですっていうのか。国王陛下だと思うより、フェール様の父親だと思って言わなきゃってほうが緊張する)
ザウドックは、シードル・カインズが国王だと思うより、フェールの父親だと思った方が緊張した。他国の国王陛下に挨拶するのも、本来なら緊張すべき事柄であるが、気にしないあたり、そこはさすがである。
さて、そうして、シードル・カインズとの謁見の場が訪れる。
「この度、『雷獣の騎士』の称号を承ったザウドック・ミッドアイスラです。本日は王にお目にかかれて光栄です」
ザウドックは礼儀正しく頭を下げて、そう告げる。
シードル・カインズはそんなザウドックに友好的な言葉を返す。しかし、その目は、どこか厳しい。それは、娘に求婚しにきた男に対する父親の目である。
シードルは娘の事をそれはもう可愛いがっている父親なので、正直言えば他国になど可愛い娘をやりたくなかった。しかし、フェールはザウドックが名を挙げるまで待ちたいなどと目の前にいる少年に好意を抱いている様子なのだ。そのことを、シードルはもやもやした気持ちを抱えている。
しかし、その態度を出さないように、なんとか、王としての威厳を保っているシードルである。
「して、我が娘と婚姻を結びたいというのは本気であろうか?」
射抜くような目がザウドックを見る。ザウドックは試されている、と感じた。
此処で答えられないようでは、カインズ王国の美しき第一王女、フェール・カインズを娶る資格などないだろう。ただでさえ、カインズ王国はヴァンの活躍により、価値が高まっている国だ。第一王女であるフェール・カインズと婚姻を結びたいと願う者達は多い。それだけ、カインズ王国の王女という立場には価値がある。
「はい。私、ザウドック・ミッドアイスラはカインズ王国の第一王女であるフェール・カインズ様と婚姻を結ぶ事を望みます。どうか、私にフェール様に求婚をする許可をいただけないでしょうか?」
「降嫁の許可ではなくか?」
「はい。私はフェール様の意志をきちんと聞きたいのです。どうか、求婚する許可をいただきたい」
真っ直ぐにシードル・カインズの目を見て、ザウドックは言った。揺るぎのない意志がそこにはあった。
……だからこそ、忌々しくは思いながらもシードルはザウドックがフェールに求婚をする許可を与えたのだった。
まぁ、ザウドックとの謁見の後にレイアードと二人で嘆き合っていたわけだが。そして、その様子を、レイアードの婚約者のグニーと第二王子のライナスが、仕方がないなぁという目で見ていたのは別の話である。
――第一王女と、他国の英雄 3
(『雷獣の騎士』はカインズ王国の第一王女に求婚をする許可を正式にもらうのであった)




