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ガラス職人の息子は初恋の王女様を守ります。  作者: 池中織奈
第十章 そして、その少年の名は——。

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215.VSシザス帝国について 8

12/31 六話目

「ヴァン……」

 ナディア・カインズは、捕らわれの身の中で、ただ、婚約者であるヴァンの事を考えていた。

 ヴァンの名を呟き、ヴァンに会いたいと望んでいた。

 その呟きは見張りの騎士や、近くに居たビィタリアの耳にも響いていた。

 見張りの騎士はその婚約者はもうすぐ死ぬのだな、などと考えていた。ビィタリアは本当にナディアの婚約者は助けに来るのだろうかという気持ちと、ナディアが信じるナディアの婚約者の事を信じている気持ちを双方持ち合わせていた。

(もし、ナディア様の婚約者が私達を助ける事が出来なかったら……。シザス帝国の皇太子の言う通りならば、もうすぐナディア様の婚約者は処刑される。王族の命と、平民の命。どちらが重いかと考えれば一目瞭然だ。こんなにも婚約者の事を恋焦がれているナディア様は、もし婚約者が亡くなった場合どうなるのだろうか……)

 ビィタリアはそんな事を心配していた。

 ナディア・カインズは何処までも婚約者であるヴァンの事を信頼して、必ず助けに来ると信じている。そう言ったナディアの言葉から、ビィタリアもその事を心の片隅では信じている。しかし、こうしてシザス帝国にまで連れてこられた今、本当に助けに来る事が出来るのだろうかとそう不安に思っていた。

(皇太子は幸いにもと言っていいのか、ナディア様の事を好いているようだ。ならば、ナディア様は上手く立ち回れば殺される事はないだろうけれど……。でも、こんなにも婚約者の事を思っているナディア様は、婚約者が亡くなったらどれだけショックを受けるだろうか。ナディア様は婚約者が来ない事を一切考えていないようだけど、本当にこんな敵国にまで攻め入る事が出来るの? そもそも出来たとしても普通に考えればすぐに来れるはずもないのだけど)

 ビィタリアはこんな状況だが、冷静な思考をしていた。ナディアが早く婚約者に来て欲しいと望んでいる様子を見ているからこそ余計に冷静になれていたと言えるのかもしれない。

 まだナディアとビィタリアが攫われて数日しか経過していない。そんな状況で王宮魔法師の弟子とはいえ、たった十四歳の少年が敵国の宮殿に乗り込んでこれるなんて、通常ではありえない。だからこそ、来るとしても、ずっと先だろうとビィタリアは思っていた。


 ――だが、急に外が騒がしくなった。



「な、なんだ!?」

 そして大きな音が響いている。

 何が起こったのかと、見張りの騎士は声をあげる。

 様子を見に行こうと見張りの騎士は外に出て行った。

 その時、ナディア・カインズは目を輝かせていた。

「ヴァンだわ……」

「え?」

「きっと、ヴァンが来たんだわ」

 確信したようにそう言い放つナディアに、共に捕らわれているビィタリアは、正直何を言っているのだと思ってならなかった。

 たった数日しか経過していない。

 そもそも、カインズ王国やトゥルイヤ王国にナディア達が攫われたという正確な情報が伝達されているかも分からない。そんな状況で、たった一人の少年がやってくるなんて想像も出来なかった。

「ナ、ナディア様、期待するのはわかりますが、普通に考えてカインズ王国に居る貴方の婚約者様がそんなに早くこちらにこられるはずもないでしょう?」

「ふふ、私のヴァンに普通を期待してはいけませんわ」

 ナディアは、ビィタリアの言葉に嬉しそうに微笑んだ。

 ”私のヴァン”と口にした時はそれはもう相手の事を愛しいと思っているのが聞いている者にはすぐ分かるような優しい笑みを浮かべていて、その美しさに同性でありながらビィタリアは思わずドキリとした。

 それだけ、ヴァンの事を考えて笑うナディアは十二歳でありながら美しかった。

 一瞬、見惚れてしまったビィタリアだが、はっとして言う。

「いえ、あの、ナディア様の婚約者様が普通ではなかったとしてもですよ。でも、まだ、たった数日しか経っていないのよ? それなのに、こんな場所まで来れるはずがないでしょう。そもそも、たった一人で来るなんて無理だわ」

「ヴァンは沢山の召喚獣を従えていますから、召喚獣達と一緒に来たのだと思いますわ」

「確かに……多くの召喚獣を従えているとは噂に聞いておりますが、でも契約をしていたとしても召喚獣を顕現させられる数は決まってると聞いてますよ? それに、召喚獣を召喚していれば魔力の消費が激しく、それだと貴方の婚約者様が動けないのでは?」

 召喚獣を複数顕現させられる存在なんていない、というのが常識である。

 それに、召喚獣を顕現させている間は、常に魔力が消費されるのだ。その状況で、動くことは難しい。

 それが当たり前の常識である。

「ふふ、ヴァンは大丈夫なのよ。私のヴァンはとってもすごいの」

 そう言って、ナディアは微笑む。

 ナディアの言葉の真意を探ろうとビィタリアが言葉を発しようとした時、その部屋の扉が開いた。

「ナディア!!」

 そして、そこに居たのは、ナディアが求めていた存在——ヴァンだった。ナディアはヴァンの姿を見た瞬間、ヴァンの胸の中へと飛び込んだ。



 ―――VSシザス帝国について 8

 (少年はようやく愛しい王女様の元へとたどり着く)



 

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