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ガラス職人の息子は初恋の王女様を守ります。  作者: 池中織奈
第一章 《英雄》の弟子になる
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20.国王陛下との顔合わせについて

 「……」

 「どうした、ヴァン」

 「ナディア様のお父さんと会うってことで……、緊張してて」

 その日、ヴァンはカインズ王国の現国王であるシードル・カインズと顔合わせをすることになっていた。

 『火炎の魔法師』と呼ばれる最強の魔法師の弟子というものは、このカインズ王国において大きな意味を持つ。国王陛下からも信頼の厚い、英雄の弟子としてヴァンは国王陛下の元へディグに連れられ向かっていた。

 ヴァンは、国王陛下のもとに顔を出しても問題がないような魔法師としての正装を纏っている。最もそんなものをディグの弟子になったばかりの、平民であったヴァンが持っているはずもなく、借り受けたものであった。こんな格式ばった服を身にまとったことのなかったらしいヴァンはなんだか落ち着かない様子を見せている。

 珍しく緊張しているらしいヴァンの放った言葉にディグは何とも言えない気持ちになった。

 (カインズ王国の国王ではなく、ナディア様の父親に会うってことで緊張してるってやっぱこいつ色々ずれてるな)

 要するにヴァンはこれから会う国王陛下がナディアの父親であるから緊張しているのであって、例えばそこにいるのがナディアの父親ではなければ緊張していなかったかもしれないということである。たとえ、相手が国王陛下であろうとも。

 やっぱりヴァンは色々とずれている。

 普通”好きな人の父親”であることよりも、相手が”国王陛下”であることに意識がいくものである。

 「……お前って本当色々ずれているな」

 「え、そうですか?」

 「ああ、色々おかしい」

 おかしいことは断言できる。そもそもこの年で召喚獣二十匹と契約をし、魔法を割と自由自在に使えるとかおかしい以外に言いようがない。

 相変わらず自分がおかしい自覚のないヴァンに、ディグはこいつどうやったら自覚するかなと頭を抱えた。









 *


 そんなこんな会話を交わしているうちに、国王陛下との謁見の間にたどり着く。ディグとヴァンが扉を開けてその中へと入れば、そこにいたのは国王陛下であられるシードル・カインズと第三王女であるナディア・カインズ。そしてその周りに控えている臣下たちであった。

 ヴァンはナディアの父親に会うというだけで緊張していたというのに、目の前にナディア本人までいる事実に頭が混乱していた。

 そしてまじまじとナディアの事を見つめてしまう。

 ナディアもまた興味深そうにヴァンの事を見ていたため、ばちっと目があった。

 (ナ、ナディア様と目があった!)

 そのことに驚愕したヴァンは顔を赤くして視線をそらす。そしてまた視線をナディアに向ける。ナディアは相変わらずこちらを見ている。またそらす。そして向ければまた目が合う。それをヴァンは挙動不審なままに繰り返していた。

 それだけ混乱しているようである。そんなヴァンを置いて、国王陛下とディグの会話は進められていた。

 「して、ディグよ。そやつがおぬしが弟子にしたものか」

 「そうです。俺の弟子のヴァンです。ほら、挨拶しろ」

 ヴァンはディグにそういわれるが、ナディアをちら見することで忙しくて、ナディアに心が奪われ過ぎていて話を聞いていなかった。

 「………」

 「おい、お前聞いてないだろ」

 「いっ」

 国王陛下の御前だというのにもかかわらずナディアにしか意識のいっていないヴァンをディグは小突く。

 「え、あ、な、なに?」

 「……だから陛下に挨拶をしろといっているんだ」

 そう告げてディグはシードルの方を向き直って、謝罪を口にする。

 「申し訳ありません、陛下。この者、平民の出でして緊張のあまりに意識が飛んでいたようです」

 「良い、してヴァンといったか」

 「は、はい。こ、この度師匠の弟子になったヴァンと申します」

 色々と口調がおかしいが、なんとかそういって礼を取る。まぁ、つい先日まで平民だった少年にいきなり礼儀正しく陛下に挨拶をしろなどと言われても上手く出来るはずもない。

 それをシードルも承知であるからその無礼をとがめはしない。

 ただまじまじとヴァンの事を見ている。

 (このようなどこにでもいるような平凡な少年が、召喚獣を大量に従える規格外か)

 正直な感想を言えば、シードルはヴァンを見て、拍子抜けしていた。

 ディグがいくら事前情報をくれていようとも、とてもじゃないけれどもそんな規格外な存在には見えなかったからだ。とはいえ、ディグがあれだけいうのだから本当に規格外なのだろうという意識はある。ただし、そうは決して見えないのだ。

 しかもヴァンはシードルではなく、ナディアの事をちらちら見ている。シードルには興味がないのか、あまり視線を向けない。

 見るからにナディアの事を気にしていた。

 (……そしてこやつ、本当にナディアの事が好きなのだろうな)

 それだけはわかって、親としては少し安心した。これでナディアに対して惚れてもないのに、召喚獣をナディアのもとにやっているとしたら――とも考えていたのである。

 しかしいくら考えても好きだからという理由で召喚獣を王宮に忍び込ませるなんて大胆な真似をする思考はシードルにはとてもじゃないけれども理解できることではなかった。いや、きっとヴァン以外の誰にも理解できないだろう。

 そんなにナディアの事を守りたいのならばさっさとその実力をさらして堂々とナディアを守ればよかっただけの話である。ヴァンにはそれだけの実力があった。だというのに自分は平民だからと、自分の異常性を欠片も理解せずにこそこそと動いていたのだからやっぱりヴァンはおかしい。

 陛下の周りに存在する臣下たちが、ヴァンに興味津々といった目を向けているが、結局ヴァンは臣下たちには一度も視線を向けずにひたすらにナディアのことばかりを気にしているのであった。

 そうこうしながらも、国王陛下との顔合わせは終わった。






 ―――国王陛下との顔合わせについて。

 (国王陛下との顔合わせでもガラス職人の息子は相変わらずである)





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