183.国王と英雄の話す第三王女の話について
カインズ王国の国王であるシードル・カインズと、カインズ王国の英雄である『火炎の魔法師』ディグ・マラナラが向かい合っている。
「……トゥルイヤ王国との国交を深めるための大使としてナディアをよこそうかと思うが、どう思う?」
「どうも何も、シードル様はそう口にするという事はもうそうすることを決めているのでしょう?」
「そうだが……ナディアは国外に出た事がない。俺はそのことを懸念している。ナディアはヴァンと……婚約を結び、貴族の位を与えることになっている。ならば、この国の貴族として外交をやるべきだと思うのだ。しかし不安は大きい」
シードルは、その整った顔をゆがめている。
ナディア・カインズの将来の事を考えると、外交をするべきだと国王としてシードル・カインズは考えている。だけれども、親バカであるのでナディアを他国に外交という名目でやることに対して不安を覚えていた。
ナディアはまだ十二歳。
ヴァンと出会うまでは、目立たない第三王女として過ごしていた。表舞台に立つこともなく、裏舞台でおとなしく過ごす事を決めていた。そのままナディアが過ごすというのならば、シードルはナディアを外交にやろうとはしなかっただろう。でも、ナディア・カインズはヴァンという存在と出会って、表舞台に立つ事を望んだ。
――そして、ナディアはいずれ名を広めるだろうと確信されているヴァンと婚約をした。だからこそ、ナディア・カインズという存在はそのままではいけない。というより、そのままヴァンに守られるだけの王女で居る事をナディアは望んでいない。
だからこそ、外交へとナディアを送り出そうとしていた。
「まぁ、不安なのはわかりますけど、どうせナディア様の周りにはヴァンの召喚獣がいつでもいるだろうし問題ないんじゃないですか?」
「そうだが……、いや、確かに召喚獣たちがいるのならばナディアの身の安全は保障されているといえるかもしれないが、それでも絶対とは言えないだろう」
「それはそうですけれど……いっそのこと、ヴァン本人を一緒に連れていかせればどうですか?」
「……それも考えたのだが、それよりもお前を一緒に行かせようかと思っているんだ」
「俺を?」
「ああ、そうだ。ヴァンは確かに強いが、それでもディグよりは知名度が低い。同盟国であるトゥルイヤ王国に赴くのだからそのような心配はいらないかもしれないが……誰もナディアに手を出す事がないようにお前にいってもらいたい」
「まぁ、確かにヴァンはそういう意味ではまだまだ知られてませんからね。ヴァンは俺よりも圧倒的に才能がある。それは妬むのも馬鹿らしくなるぐらいに。でも、まだ公にはなっていない。なら、まぁ、俺がいった方がいいかもしれない。ナディア様は、多分、自分の力で上手く外交をするというのをやってみたいと思っているように俺には思えるから」
「そうだな……。俺の娘はとても頑張り屋さんだ。……嘆かわしい事に、ヴァンに心を奪われてしまったナディアは……」
「嘆かわしいって、別に仲が良い事は良いことでしょう。シードル様は国外になるべくナディア様を出したくなかったんでしょう。ならば、ナディア様が国内にとどまる選択をしたのは喜ばしいことでしょう。というか、シードル様、ナディア様が選んだならダーウィン連合国家に嫁がせることも考えていたんでしょうに、何をいまさら……」
「そ、それはそうだが……それでも娘が出来ればわかることだと思うが、娘が誰かに嫁ぐ事を考えただけでどうしようもない気持ちになるのだ。ディグも娘が出来ればわかると思うが……。と、それよりもナディアはだな、ヴァンに相応しい存在になるためにと一生懸命なのだ。それで、ヴァンのためにもっと頑張ろうとしているのだ。だからナディアは自分の力で成功させて、ヴァンに相応しいと周りに思われいと願っているだろう。それも踏まえて、お前にいってほしい」
シードルは、娘の事を大切に思うあまりに——ナディアが自分で選び取った道を尊重したいと望んでおりながらも、複雑な気持ちを抱いて仕方がなかった。その気持ちを流石にナディア本人やヴァンに告げることはない。頭ではちゃんとナディアの選んだ道だから、ヴァンならば任せても大丈夫なのではないか——とわかっている。だけれども、心までは追いつかないのだ。
「はぁ、まぁ、シードル様の葛藤はどうでもいいです。とりあえず俺がナディア様と一緒に行く事に関しては問題はありません。ヴァンの事を説得するのは、まぁ、ナディア様に任せましょう。ヴァンもナディア様についていきたがるでしょうから」
「……ああ」
そして、その話はそんな風にまとめられた。
ナディアにもヴァンにもまだ伝えられていないが、ナディアが外交に出かける事がカインズ王国の国王によって決められたのだった。
―――国王と英雄の話す第三王女の話について
(カインズ王国の国王と英雄は第三王女の話をする。そして外交に行くことが取り決められていた)




