スノウの日常
11/12 二話目
スノウは、合成獣の少女である。
雪のように白くて、真っ直ぐに伸びた髪を持つ少女。その幼い頭の上には左右が異なる耳がついている。右耳は犬、左耳は熊。そして片目は爬虫類を思わせる目。もう一つは普通の人間の瞳だが、明らかに異質だ。人間のように見える手。だけど、そこには水かきがついている。爬虫類のような鱗がびっしりとついた尾は、床にまで伸びていてスノウが歩くたびにずるずると引きずる音がする。足は膝あたりから毛でおおわれていて鋭い爪が生えている。
魔物と人間の少女を組み合わせて生まれた——いや、生み出されてしまった合成獣の少女。彼女は今、カインズ王国の魔法棟の一室に住んでいる。
化け物と呼ばれていた少女は——スノウという名をもらって喜んでいた。
朝から目を覚ますとスノウは真っ先にヴァンの元へと向かう。それは、スノウにとってヴァンが自分を圧倒した唯一の存在であり、いう事を聞くべき存在だと認識しているからだ。
(スノウ、昔の記憶あんまりない。気づいたら、命令されてた。スノウ、戦ってばかり。ヴァン兄もフー姉も、ディグ兄も……スノウに、命令しない)
スノウはのびのびとこの場所で生きている。今までの生活は命令されるばかりだった。スノウは化け物としてそこに存在していて、シザス帝国の者達はスノウの事を、”人”として認識していなかった。”人”扱いなんて決してしていなかった。
(スノウ、人でもある。でも、皆と、違う。でも、スノウ、人)
スノウはここにやってきて、人扱いをされて自分が人であるという事を認識していた。自分は他の”人”とは違うが、確かに”人”であると。
スノウは他と違うからこの魔法棟の敷地内の外には全然出ていない。これから出る事があるか分からない。
(スノウのこと、人、扱い。スノウ、化け物でも——ヴァン兄たち、優しい。スノウ、戦うだけ、求められてない)
スノウはそう思いながら、ヴァンのいる部屋にいく。ヴァンは扉を開けた瞬間、目を覚ました。寝ていたはずなのに、すぐである。
「……スノウか」
「ヴァン兄、おはよ!」
おはよう、という挨拶もスノウはここにきて初めてするようになった。スノウの元になった人間の少女が居たはずだが、その記憶はスノウにはほとんどない。
スノウは人とは違う見た目と力を持ち合わせているけれども、それがスノウには当たり前なので気にしていない。
「ヴァン兄、今日、私、何する?」
「毎回聞きに来なくていいから……好きにしていいっていってるじゃんか」
「スノウ、何したらいいか、分からない」
「何でもいいよ。あー……もちろん、人を害するとかでなければだけど。ちょっと待てよ」
ナディアに「ちゃんと面倒をみてあげないと」と言われているのでスノウの面倒をなんだかんだで見ているヴァンであった。
「リリー、来い」
その言葉と同時に現れるのは三日月の紋章を持つ、茶色の熊——《ルーンベア》のリリーである。小型化していても通常の熊と同じサイズなので大きい。
『主人、我を室内で呼び出すとは何の用だ』
「スノウと遊んで欲しいんだ。スノウも熊な部分あるし、気が合うかなぁと」
『構わぬが。それで我を呼び出すか。流石、主人』
リリーはそういって、スノウの方を見る。スノウはリリーを見ても怯えた様子は一切ない。
『スノウといったか。我と、遊ぶか。主人の命であるからな』
「うん!」
スノウは自分自身で何をすればいいのかよくわからないので、リリーと遊ぶことに賛同していた。スノウからしてみればリリーを含む召喚獣たちは自分と同じくヴァンの強さを前にひれ伏している同志という感覚が強かったりする。
リリーはスノウの手を引いてヴァンの部屋から出ていく。その際巨体のリリーは身をかがめてドアを潜り抜けた。
『して、スノウよ。遊びとは、何をする』
「わかんない」
スノウはそう答えながらもにこにこしている。
『ふむ、では外に行くか』
「うん」
そのまま、スノウはリリーと共に外に出た。
『では、こういうのはどうだ』
そういってリリーはスノウを肩車する。肩車すると、そのスノウの尻尾がリリーに巻きつくが、リリーは気にしない。
「高い!」
スノウはリリーの上から下を見て、嬉しそうに声をあげる。
(リリー、大きい。私も大きく、なれる? なれたら、楽しそう)
リリーはカインズ王国にやってきてから、命令されるだけだった頃よりも様々な事を考えるようになってた。
(この場所、楽しい)
スノウはまだ子供である。合成獣として生成され、人としての脳を持った子供。このカインズ王国で楽しいという感情を知れて、人として接してもらえて、満足していた。
(スノウ、人と違う。でも、人。ここ好き。ヴァン兄もフー姉もディグ兄も、好き。私、化け物言わない)
スノウの世界は、この場所で広がっている。
『スノウよ、楽しいか』
「うん!」
スノウはリリーの上で、楽しそうに笑うのだった。
――リリーと、そのうえではしゃぐ合成獣の少女の姿にぎょっとして目を丸くするものもいたが、そんな周りの目をリリーもスノウも気にしていなかった。
―――スノウの日常
(合成獣の少女は楽しく、その場所で日常を過ごしている)




