157.誘拐犯について
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『主様、シザス帝国というところがやっていることのようですわ。どうやらシザス帝国という所では、今飢饉が訪れているようですわね。人手が足りないのもあって、誘拐を試みたようですわ。それで、こちらにとって重要な人物の誘拐でもできればそれでカインズ王国に交渉をして、一石二鳥と思っていたようですわね。よっぽど自分の腕に自信があったのでしょうね』
《ナインテイルフォックス》のキノノは、狐の姿に戻っている。すっかり、自分に首ったけになっていたその捕まった男に対してもう関心は一切ない様子だ。
《ナインテイルフォックス》――恐るべき変身能力と、魅了能力があることを知って、傍目で見ているフロノスはなんて恐ろしい能力だろうと思ってならなかった。それと同時に、ヴァンのことを絶対に敵に回さないようにしようと改めて考えるのであった。
(それにしても、またシザス帝国か。あの砦で起こった出来事もシザス帝国が行ったことだった。シザス帝国の方は本当に物騒なことになってるわ。誘拐された国民たちは人手が足りないというのと重要な人物を誘拐できれば交渉が手に入ると思っているからこそ起こしたって、本当に……ヴァンの召喚獣が言うとおりにどれだけ自信満々な方々なのかしら)
自信がなければ、そんなことは出来ない。王都というカインズ王国の主要人物が溢れる場所で事を起こすことが出来ていたということは、それだけカインズ王国の英雄である『火炎の魔法師』ディグ・マラナラの存在を懸念していないということ。彼の存在があっても自分たちには問題がないという自信があるからこそ起こせたこと。
(でも確かに、ディグ様はとても強い方だけど今回のヴァンのように敵を追い詰めることは出来ないだろう。ヴァンとディグ様では、手の数が違う。ヴァンの召喚獣は数が多く、多彩だ。召喚獣をこれだけの数そろえられるものはいない。ううん、国家でさえもヴァン個人が契約しているだけの召喚獣を自由に動かすことはできない。――ヴァンという存在が彼らにとっての想定外)
フロノスは、そんな風に思考する。
恐らくシザス帝国は、こんな王都で事を起こしたということは、ディグ・マラナラを脅威と感じていなかったということ。そしてヴァンという存在を甘く見ていたということ。
「シザス帝国……あの砦での一件の所か」
「……王都でこのような事件を起こすなんて驚きだわ。それでヴァン、聞き出したわけだけどどうするの?」
「このまま助けに行く」
「え、いえ、一度ディグ様に相談したりしたら……」
ヴァンは、躊躇いもせずこのまま助けに行くといった。そのことにフロノスは驚く。
情報を聞き出したのだから一旦、持ち帰ってから対策を練り直した方が断然良いと思っていたからだ。だけどヴァンはいう。
「さらわれた連中、まだ近くにはいるらしいから早めにいかないとナディアの友人がもっと遠くに連れて行かれて最悪、国境超えるだろう。ナディアが悲しむのは駄目」
確かに、魅了されるがままに口を開いていた男はまだ近くに攫った者達がいることを告げていた。そのことはフロノスも聞いていた。
「……このままいきたいのね」
「うん」
「なら、せめてディグ様にだけでも一言伝言しなさい。貴方にはたくさんの召喚獣がいるからそれぐらい出来るでしょう。そうしたほうがナディア様のためになるわ」
フロノスがそう告げれば、ヴァンは素直に頷いて、一匹召喚獣を召喚するとディグの元へ使いに出したのであった。ちなみにその時にキノノが魅了した男もそちらに連れて行くように命令してある。
それからヴァンは《ナインテイルフォックス》のキノノを元の大きさに戻す。それは巨大な九尾の狐である。突然巨大な狐が現れたものだから、遠くの方で慌ててる王都の人々がいたが、ヴァンは一切気にした様子はなかった。
「待って、ヴァン、私も行くわ!」
フロノスは慌てたように声をあげて、自身の召喚獣である《ローズホーンラビット》を呼び出した。そして突然呼び出されて何がなんだか分からないミィレイアに、
「ヴァンについていくわ。私を乗せて!」
と告げて、ミィレイアに騎乗するのだった。
(ヴァン、一人だけで行かせるのは不安だわ。実力はあっても常識はないから)
実力があっても常識はない弟弟子を一人で行かせるのは不安だったフロノスは、キノノにのって猛スピードで移動し始めるヴァンのことをミィレイアに乗って追いかけはじめるのであった。
召喚獣に乗って王都から飛び出していく王宮魔法師の弟子たち二人の姿に王都はそれはもう騒がしくなっていたわけだが、フロノスにもそのことを気にする余裕は一切なかった。
―――誘拐犯について
(誘拐、という行為を王都で起こしていたのはシザス帝国だった。そして情報を聞き出した彼らは動き出す)




