139.面白がっている英雄二人について
「まさか、あいつがあんな風になるとはね」
ヴァン、王女三人、ザウドック、ルクシオウスという六人での会話が終わったあと、ルクシオウスはディグを前にそう言葉を言い放った。
ルクシオウスは面白くて仕方がなかった。
自分の養子で、自分の弟子である存在が一人の女の子に入れあげてしまった様子が。
「お前の弟子がフェール様に懸想するとか、おもしれえな」
ディグもにやりと笑って答える。
二人が居る場所は、ディグの研究室である。椅子に座り向かい合って二人は会話を交わしている。
『雷鳴の騎士』と『火炎の魔法師』。戦争をしていた時代はこうして向かい合うこともないだろうと、互いに思っていた存在である。五年前に終戦し、互いに同盟関係にあるからこそこうして英雄同士が向かい合うことが出来ている。
「実際問題、あいつがこの国の王女といい関係になるのは同盟関係の強化になるからいいと思うんだがな」
「俺も問題はないと思うぞ。ただ陛下は娘を可愛がっているからな。その辺の説得さえちゃんとできれば問題はないだろう。ただ、フェール様自身がお前の弟子に嫁いでもいいって思いなら陛下も反対をしないだろうけどな」
同盟関係にある、とはいえ戦争をしていた相手である。戦争の中で、どちらの国民も少なからず亡くなっている。だからこそ、今は同盟関係にあろうと相手国を憎んでいるものもそれなりにいる。そして誰よりも憎しみを受けているのは、ルクシオウスとディグである。
誰よりも敵国に損害を与えたからこそ、二人は英雄なのだ。自国では英雄だとしても、戦争の英雄なんて、他国からしてみれば畏怖の象徴でしかない。
「そうか。ところで、第二王女はお前に惚れていると聞いたが、めとるのか?」
「馬鹿いうな。キリマ様は子供だぞ? あんな子供に興味はねぇ」
「あの王女もあきらめは悪そうだけどな」
ルクシオウスは、キリマがディグのことを好いていて「大好きです」と特攻をかましていることをキリマ本人から聞いていた。キリマとしてみれば、”自分がディグ様を好いていることを広めて、外堀を埋めよう!”と考えているらしい。ディグにあしらわれていてもキリマは諦めが悪かった。
そして諦める気が一切なさそうである。
「はぁ……まぁ、それはおいといて、お前の弟子の話だ。本気で惚れていて、フェール様をかっさらいたいっていうなら、一応陛下にもその話は通していた方がいいだろう。多分、レイアード様もうるせぇだろうけどな」
「王太子もか?」
「……あの王太子、妹を可愛がっているからな。ナディア様がヴァンと仲良くて、キリマ様がああだから色々煩いらしい。宰相が嘆いていた」
「へぇ……。そういう風にはみえねぇけどな」
「想像以上に煩いぞ、陛下も王太子も」
ディグとルクシオウスのそんな会話がなされる。一応カインズ王国の王と王太子は外面だけは良い。完璧な国王と王太子の皮をかぶっている。
「ふぅん。しかし、これ、第一王女をザウドックが落として、第二王女がディグを落として、第三王女がヴァンとくっつくっていうなら、大分すげぇな」
「俺は子供に興味ないと言っているだろうが」
「将来的なことはわかんねぇだろうが。いずれにせよ、ザウドックもヴァンも無名のまま終わるような奴らではねぇだろう」
「まぁな。ヴァンは……確実に俺より名を挙げるだろう。あれだけ召喚獣を従えて、魔法の才能があるやつを、俺は知らない」
「……あれは、異常だよな。ザウドックが相手になっていなかった」
「俺だって召喚獣全員連れたヴァンの相手は無理だ」
「……だよな。ヴァンが、国家転覆とか狙うやつではなくてよかったな」
「ああ。そして好戦的な奴でもなくてよかった。お前は、戦争が終わったことを感謝してた方がいい。あんなのが戦場に出たらやばいからな」
「ああ……」
ルクシオウスはそう答えながらも、もし、戦争時にヴァンのような存在がいたらなどと考える。
ディグという英雄が居ただけでも、引きわけ状態だったのだ。もし、召喚獣を大量に召喚できる存在なんてものが居たら、今は違うものになっていただろうと、彼は思う。
状況が違えば、未来も異なるものである。
もし、ヴァンという存在が戦争時にいたのなら、戦争に立てるだけの年齢だったならば———、ルクシオウスの所属する国は、カインズ王国に負けていたかもしれない。そして敗戦国と、戦勝国とでは立場も、関係も異なっただろう。こうして対等な関係で訪問するなんてことはなかっただろう。
もし、敗戦国だったのならばザウドックが第一王女に恋慕するなんてことを許容などできなかっただろう。敗戦国のものが、戦勝国の王女をめとりたいと動くなんて、許されることではない。
「まぁ、たらればの話を考えても仕方はねぇけどな。とりあえず、シザス帝国の件で陛下と話し合ったあとに、ザウドックのこといってみるか?」
「そうだな」
「陛下の反応が面白いことになりそうだけどな」
ディグはそういって、面白そうにその綺麗な顔を歪めた。
――――面白がっている英雄二人について
(英雄二人は、面白がりながら会話を交わす)




