138.わちゃわちゃとした会話について 2
「私の、趣味? どうしてそんなことを聞きたいのかしら。まぁ、いいわ、そうね……。美しさの追及かしら」
フェールは不思議そうな顔をして、そう告げた。
フェールは自分の美しさに自信と誇りを持っている。美しい自分が好きだと思っているし、自分のことを美しく磨き上げることが好きだった。
だから、趣味といえば美しさを磨くことだった。
「そ、そうなんですか! フェール様は、とっても綺麗です!」
「あら、ありがとう」
ザウドック、なんだか緊張からか色々口走ってしまっていた。それに対してフェールはどうしてこのような態度なのだろうと、怪訝そうにしながらも答える。
自身が綺麗だという事実はフェールにとって当たり前の事実であった。彼女は自分の美しさを正しく認識していた。美しいということを誇りに思っている。そんな彼女だからこそ、不敵にほほえんでる。
「くふふふっ、ザウドックって面白いわね!!」
そんな声を上げたのはキリマである。普段は完璧にかぶれているはずの、王女としての仮面が笑い声からも取れかかっていることがわかる。そのことに気づいてフェールは、軽くキリマを睨みつける。
キリマはびくっとして気を抜いちゃったという顔をする。
そんなキリマにフェールは少し溜息を吐いて、ザウドックの方を見る。
ザウドックは見つめられて緊張していた。
(金色の瞳。綺麗。気が強そうだけど、凄く、綺麗)
見惚れていた。あまりにも美しいから。あまりにも、意志の強い瞳に、惹かれてしまうから。
―――ザウドックは、こんなに綺麗な人は見たことがないと、そんな風に温めて感じてしまっていた。
「……ザウドック」
「……」
「ザウドック」
「は、はいいい」
見惚れて返事が遅れてしまったザウドックである。此処まで様子がおかしいと流石にフェールも訝しむ。
「あははは、やっぱおもしろーい。やばいなんなの。英雄の弟子って面白くないとなれないの!?」
「キリマ!!」
「うっ、ごめんなさい!!」
キリマ、早速王女としての仮面がはがれている。そのためフェールに怒られていた。
「……第二王女様はなんなんだ?」
「ルクシオウス様、キリマお姉様は……外面はちゃんとしているんですが、ちょっと王女らしかぬところがありますの……。此処で見た事は他言無用でしてくださるとこちらとしては助かりますわ」
キリマの様子に不思議そうなルクシオウスに答えるのはナディアである。
基本的に外交的な場などでは、きちんとした王女を装っているキリマである。
「へぇ……」
ルクシオウス、少しだけ興味深そうにキリマのことを見ている。
「はぁ……キリマはまったく……。と、それはともかくとして、ザウドック。貴方のその態度はなんなのですか。私に何か聞きたいことでもあるのですの?」
「な、ないです!! ただ俺が緊張しているだけです!!」
「緊張……? 『雷鳴の騎士』の弟子であるのならば、王族との交流もあるでしょうに」
我儘だった頃のフェールならいざ知らず、改心したフェールは自分が英雄の弟子に好かれると思えないようになっていた。そのため、そういう考えに至れていない。
「え、えええと……」
何故ですか、という視線を向けられザウドックは返答に困っている。
「まぁまぁ、フェールお姉様、そんな風に苛めては駄目ですわ」
「あら、キリマ、私は苛めてはないわよ?」
「ふふ、フェールお姉様ってば、本当に面白いわ。まぁまぁ、とりあえずザウドックも心の準備ができていないのよ」
「心の準備……?」
キリマはフェールがわかっていないことを完全に面白がっていた。普段こういう場面は中々ないので、楽しくて仕方がないらしい。王女としてどうなんだと思うような、楽しそうな顔を浮かべている。
「キリマお姉様は完全に面白がっていますわね……」
「ナディア、何が?」
「……ヴァンも気づいていないのね」
「んー、ナディアの事以外どうでもいいし」
「もう、ヴァンは……」
そして脇でナディアとヴァンの二人はそんな会話を交わしている。
ルクシオウスはザウドックとヴァンの方を見て面白そうに笑って傍観に徹している。
ザウドックから助けを求める視線を向けられてもルクシオウスは笑っているだけである。
ザウドックは、フェールとキリマにはさまれてたじたじである。
ヴァンは、ナディアと会話を交わして幸せそうである。
ルクシオウスは、笑みを零している。
中々カオスな空間である。この場にはまとめ役がいなかった。そしてまとめ役が居ないままに会話は進んでいくのであった。
――――わちゃわちゃとした会話について 2
(『雷鳴の騎士』の弟子は、第一王女様を心の底から綺麗だと感じてならないのであった)




