135.『雷鳴の騎士』の弟子と二人の王女の出会いについて
「くそぉ……どっちにも勝てなかったとか俺かっこわる!」
ザウドック・ミッドアイスラは悔しそうに声を挙げながら、カインズ王国の王宮内を歩いていた。
ヴァンに負け、フロノスに負け、彼の中での過信はぽっきりとおられてしまった。ザウドックは今まで同年代に負けたこともなく、自分のことを特別だと考えていた。しかし、その自信は負けたという事実を前にしぼんでしまう。
もちろん、ザウドックが弱いというわけではない。客観的に見てみても、ザウドックの歳で『雷鳴の騎士』の代名詞である魔法剣を使いこなせるだけでも天才と言わしめる才能を彼は持ち合わせている。ただ、上には上が居たというそういう話なのだ。
(……もっと、強くなりたい。あいつらに負けないぐらいに。召喚獣とも契約をしたいし、それはルクシオウスから許可をもらわないと。あともっと魔法とかも使えるようになりたい。そしてあいつらに次こそ勝てるように……)
ザウドックは思考し続ける。
今回敗北してしまったからこそ、次こそ、勝利をするために。
(つか、ヴァンは本当に意味が分からない。噂通りというか、噂以上に分からない。あれを、俺はいつか越えれるのか……? いや、越えれるかどうかじゃない。越えれなかったとしても、俺はルクシオウスの、『雷鳴の騎士』の弟子なんだから越えられないなんていってられない)
ザウドックは、『雷鳴の騎士』ルクシオウス・ミッドアイスラのことを心から尊敬している。養子でありながらルクシオウスのことを呼び捨てにして、気安い口調で話しかけているが、心の奥ではルクシオウスへの敬意を持っている。恥ずかしいからザウドックはルクシオウスにはそういう気持ちをほとんど告げないが、
(『火炎の魔法師』の弟子に俺が負け続けるなんて、ルクシオウスが甘くみられる。『火炎の魔法師』は凄いだろうけど、ルクシオウスだってすげぇんだもん。それが俺が弟子に負けるせいでルクシオウスがディグ・マラナラより下に見られるとか、絶対やだし)
と、そういう思いを持っている。
ザウドックはルクシオウスのことを凄いと思っている。魔法剣という武器を手に、トゥルイヤ王国を守っている、国内最強の騎士。紛れもない英雄、その姿にザウドックが憧れるのは当然の結果である。
さて、ザウドックはルクシオウス・ミッドアイスラの面子のためにもいつかヴァンとフロノスに勝てるようにしなければと思考していた。
そんなザウドックの耳に、話し声が聞こえてくる。
「フェールお姉様、ディグ様は『雷鳴の騎士』様とどのような交流をしているのでしょうか」
「さぁ、分からないわ。それよりも、キリマは『雷鳴の騎士』様相手に粗相を犯さないように。貴方は気を抜くと、すぐに王女らしからぬ態度を出してしまうのだから」
「むー、フェールお姉様ってば私は人前では基本的に完璧な王女様をできているよ? いつか、ディグ様のお嫁さんになるためにも私は精進するのだもの!」
「……貴方はディグ様の前に出ると気を抜くでしょう。だから心配をしているのよ」
ザウドックは声のした方へと視線を向ける。
そこにいるのは、茶色の髪を持つ第二王女であるキリマ・カインズと、水色の髪をもつ第一王女であるフェール・カインズである。もちろん、その後ろには王女付きの侍女たちが控えている。
キリマとフェールは、ディグの元へ向かおうとしていた。
キリマはディグが好きでたまらないので、『雷鳴の騎士』と共にいるディグを目に収めたいなどと思っているのとただ単にディグに会いたくてたまらないという理由からである。
対してフェールは、『雷鳴の騎士』とその弟子に興味があるのも理由だが、この上の妹であるキリマがディグに関することで暴走癖があることを知っているので心配してついていくことにしたのである。
仲良く会話を交わしながらあるく二人の視界に、何故かこちらを凝視しているザウドックが映る。
「あら? 貴方は見ない顔ね。どちら様かしら」
「フェールお姉様、この方、もしかして例の『雷鳴の騎士』様の弟子ではないかしら。聞いていた特徴と合致するもの。ねぇ、そうでしょう?」
フェールと、キリマがそれぞれ口にする。
「は、はい。俺は……いや、私は『雷鳴の騎士』ルクシオウス・ミッドアイスラの弟子であるザウドック・ミッドアイスラです」
見るからに高貴な生まれの少女二人に話しかけられ、ザウドックは戸惑いながらも自己紹介をする。そんなザウドックの視線は、カインズ王国の美しき第一王女フェール・カインズに固定されていた。
(……なんて、綺麗な人なんだろう。声も、可愛い)
ザウドックの心には、そんな感想が生まれているのであった。
―――『雷鳴の騎士』の弟子と二人の王女の出会いについて
(雷鳴の騎士の弟子は、第一王女の美しさに目を奪われる)




