133.『火炎の魔法師』と『雷鳴の騎士』の弟子同士の模擬戦について 3
『流石、主だぜ!』
『流石ですわ。ナディア様を見かけた途端、全力を出すなど少しあの子供が憐れに思えるほどですわ』
『あらあら、そうやって憐れむ方があの子供にとっては屈辱なのではないかとわたくしはおもいますわ。それにしても主様は本当にナディア様をお好きですわね』
ナディアの方へ一直線で向かってくるヴァンを見ながら、三匹の召喚獣たちが次々と口を開いていた。
《ファイヤーバード》のフィア、《グリーンモンキー》のニアトン、《ナインテイルフォックス》のキノノである。
本日のナディアの護衛はこの三匹であった。
そんな三匹の目の前で、ヴァンはナディアに向かって笑みを零している。
「ナディア、来ていたのか」
「ええ。ちょっとヴァンに会いに足を運んだの。そしたら『雷鳴の騎士』様の弟子と模擬戦をしていると聞いたから見学をしたの。邪魔しないようにひっそりと訪れたつもりだったのだけど、ヴァンはすぐに気づいたわね」
そう口にしながらナディアは苦笑を浮かべる。
模擬戦を見たいと思ったけれど、邪魔をする気はナディアにはなかった。だから、ばれないようにひっそりと近づいた。でもヴァンはすぐにナディアがいるのに気付いてしまった。
「ニアトンが先に目に入ったから、あ、ナディアもいるって気づけたんだよ。それより、ナディア何の用?」
「特に用事はないわ。ただ、ヴァンと会いたいと思ったから会いに来ただけなの。駄目だった?」
「全然! 俺だってナディアに会いたいっていつでも思っているし」
ヴァン、もはや周りのことそっちのけでナディアと会話を交わしている。
「ふふ、嬉しいわ」
「ナディア、もう俺模擬戦終わったからゆっくり話そう!」
「いいの?」
「いい! と思う。師匠ー! 俺ナディアと話すからもういっていいー?」
ヴァン、ナディアの言葉にディグの方を見ていう。ヴァンの視線の先には呆れた顔のディグと、驚いた顔のルクシオウスと、溜息を吐いているフロノスが見えるが、ヴァンはそれを気にした様子はない。
「……おう、好きにしろ」
「よし、じゃあ、ナディア行こう」
ヴァンはディグの言葉を聞くとナディアに笑顔でそういって、そのまま去っていってしまった。
その場には、ディグとルクシオウスと、フロノス、そしてザウドックが残される。
「なぁ、ディグ」
「なんだ」
「……あれ、王女だよな? なんで呼び捨て?」
「ヴァンとナディア様は仲が良い。あいつそもそも魔法覚えて召喚獣従えたの、ナディア様が理由だし」
「は? つか、あの王女の傍に居た召喚獣って……」
「ヴァンのだ」
「……三匹もいたように見えたが」
「あいつは大量の召喚獣を従えている……。常にナディア様の護衛として数匹顕現させてる」
「はぁ!?」
ルクシオウス、呆気にとられながらディグに色々問いかけていたのだが、最後の言葉を聞いて流石に叫んだ。
ルクシオウスには、召喚獣は居ない。只単に、ルクシオウスが召喚に関する才能を持ち合わせていなかったからである。召喚獣を持っていなくても、ルクシオウスは召喚獣の凄さを知っている。戦争時に、ディグとディグに従う召喚獣と対峙していたのはほかならぬルクシオウスである。
これまでの経験からも、ルクシオウスは召喚獣と複数契約を結ぶむずかしさと、顕現させ続けるむずかしさを知っている。
だからこその、驚愕である。
「な、なんだ、それは!」
「……あいつ、その辺おかしいんだよ。魔法と召喚獣に関する才能は本当おかしい。さっき、召喚獣込みで戦わせろといっていたが、召喚獣複数を従えたヴァンとの戦闘とか、俺もしたくないぐらいだ」
心の底からディグはそう思う。
そもそも召喚獣を全員顕現させていても、きっとヴァンは余裕であるということをディグは知っている。その二十匹の召喚獣を連れたヴァン相手に戦うなんてディグもしたくない。勝てる自信はない。
「……な、なんなんだ、あいつは……。お、俺手も足も……」
「……ザウドック、あの弟弟子はおかしいので自信を持っていいわ。貴方は、ルクシオウス様の弟子なのだから」
「ほ、本当か? でも俺……」
「なんなら、私と模擬戦やってみる? 私はヴァンほど規格外じゃないから、あのヴァンがおかしいだけだってわかると思うわ」
ショックを受けているザウドックに、フロノスはそんな提案をしている。
(ヴァンが、標準と考えられたら困る。それに私も、『雷鳴の騎士』と呼ばれるルクシオウス様の弟子とどれだけやれるのか、試したい)
フロノスはそんな思いで提案をしていた。
そんなこんなで、『火炎の魔法師』の弟子、フロノス・マラナラと、『雷鳴の騎士』の弟子、ザウドック・ミッドアイスラの模擬戦が行われることが決定する。
―――『火炎の魔法師』と『雷鳴の騎士』の弟子同士の模擬戦について 3
(ヴァンの規格外さは、『雷鳴の騎士』を驚愕させるほどである)




