129.英雄の弟子たちの出会いについて
さて、『雷鳴の騎士』とその弟子がカインズ王国に訪れた。今は国王であるシードル・カインズに挨拶に訪れている。さて、魔法師たちの研究練の一角に『火炎の魔法師』とその弟子であるフロノス、ヴァンが揃っていた。
特にフロノスは少し緊張した様子である。一度だけ『雷鳴の騎士』と会った事はあるが、ディグと同じぐらい有名な英雄と会う事に色々な事を考えていたのだ。それとは正反対に弟弟子であるヴァンはいつも通り特に気にした様子もなく呑気である。ヴァンは基本的に人に関心はない。『雷鳴の騎士』とその弟子に関してもまだ関心を持つ対象ではない。会ってから興味を持つかもしれないが、今の所師匠の知り合いとその弟子が来るんだ、へーとしか考えていない。それよりも、ヴァンの心の内を占めるのはナディアの事ばかりである。
(……ナディア、今何しているかな)
そんな風に考えてしまうのは、ヴァンがナディアに対して好意を抱いているからに他ならない。
ナディアの事を考えて、ぼーっとしているヴァン。そんなヴァンを見ながら、ディグはこいつは本当に……と感じていた。
(……『雷鳴の騎士』に会うっていっても本当どうでもよさそうだな。こいつは大物というか、なんというか……。あいつがヴァンに会ってどんな反応をするのか本当に考えただけで面白い)
なんて考えながら、ディグは初めてヴァンと出会った時の事を思い出す。ナディアの周りに召喚獣が沢山いると聞いて興味を持った。実際に召喚獣たちがいて、それを従えているのがたった一人の少年だということを驚いて、追いかけた。そして捕まえて弟子にした。
(……本当、ヴァンの実態をしったらあいつどんな顔するんだか)
一般的常識を当てはめてみると、召喚獣を二十匹も連れている存在はまずありえない。独学でそれだけ引き連れ、何匹顕現させても疲れた様子も見せない。魔法だって簡単に行使する事が出来る。それだけの腕を持ちながらも、ディグが見つけるまで平凡な平民として埋没していた。ディグが見つける事が出来なければ、きっと今でも表舞台に立つ事はなかっただろう。そんな存在だからこそ、ディグにとっても驚くべき存在であった。きっと、『雷鳴の騎士』も驚くだろうと、そんな風に考えるとディグは楽しくなっていた。
緊張するフロノス、いつも通りのヴァン、面白そうに笑っているディグ。
そんな師弟の元へ『雷鳴の騎士』とその弟子がやってきたのは、それからしばらくたってからだった。
「久しぶりだな、ディグ」
「ああ、久しぶりだな。ルクシオウス」
そこにやってきた男、『雷鳴の騎士』ルクシオウス・ミッドアイスラはまずディグ・マラナラへと声をかけた。
『火炎の魔法師』と『雷鳴の騎士』が邂逅を果たすという場に自分が存在していることも含めて、フロノスは緊張した面立ちで二人の英雄を見ている。
ヴァンは、『雷鳴の騎士』をじっと興味深そうに見ていた。そうしていれば、視線を感じる。そちらを振り向けば、『雷鳴の騎士』の弟子であるザウドック・ミッドアイスラがヴァンの事を凝視していた。
「……何?」
「お前が、噂になっている『火炎の魔法師』の弟子のヴァンか!」
「うん。そうだけど、そっちは、誰?」
ザウドックはその言葉にショックを受けた表情をする。ザウドックはヴァンの事をライバル視していた。噂を聞いて、それが本当だったら……と思いながらも負けるか! と意識していた。だというのに、そのライバル視していて、意識していた相手が……全然自分を気にしていなかったというのはショックを受ける事である。
「俺は、ザウドック・ミッドアイスラ! ルクシオウスの弟子だ!!」
「へぇ」
ヴァン、そんな返事を返しながらも、現状ザウドックに対する興味はそこまでなさそうだ。
「フロノス、ヴァン、とりあえず挨拶はしろ」
「はい。ディグ様。お久しぶりです。ルクシオウス様、一度だけお会いした事があると思いますが、ディグ様の弟子であるフロノス・マラナラです。また、ザウドックとは初めてですね。よろしく」
「ヴァンです。よろしくお願いします」
ディグに言われて、フロノスとヴァンが挨拶をする。
ルクシオウスはまじまじとヴァンを見ている。
(これが、噂のディグの弟子か。本当にそれだけ噂になるような奴とは思えねぇが……。見た目も特に特徴もなく普通なカインズ王国の国民だし、言われなきゃディグの弟子だなんて気づけないな)
ルクシオウスの感じている感想は、ヴァンを見たものが割と誰でも感じる感想である。
「これが、噂の弟子か」
「……こいつ色々おかしいから、お前も驚くぞ?」
「ほぉ? それは楽しみだ」
ルクシオウスは、ディグの驚くという言葉に面白そうに笑うのだった。そして、ザウドックはその隣で自分に興味を持たせてやる! と気合を入れているのであった。
――――英雄の弟子たちの出会いについて
(そして英雄の弟子たちは邂逅を果たす。その出会いが互いにどのような影響を及ぼすかは、今はまだ誰も分からない事だ)




