112.化け物の死体を前に話し合う事について
さて、ヴァンとフロノスは砦に戻って、ディグへとあの魔物といってもいかわからない異形の生物に対する事を報告していた。
「見た事のない異形の存在か……。魔物の増殖に加え、これとか、絶対偶然ではないな」
ディグはそう口にして溜息を吐く。
国境付近でそういう出来事が起こっているなんて、嫌な予感しかしない。
「というか……お前召喚獣を置いてきたって大丈夫なのか?」
「問題ないよ。クスラカンが倒せるって言ってたし」
「そうか。まぁ、それなら良いか。それよりもその化け物複数いるって本当か?」
「はい。ディグ様。少なくともヴァンの召喚獣が見にいったものと、戦ったものは違う存在のようです」
「……俺やヴァン、フロノスもぎりぎり対処できるか。でも大量にいるとなると対処が難しいか」
「ある程度なら俺が全員召喚獣呼べばなんとかなるかなっては思うけど。ああ、でもナディアの元へおいてきているしなぁ」
この場にはタンベル・ミーシャイとユイマ・ワンが存在するが、難しい顔で会話を聞いている。
「俺が一人で戦うには難しい存在か?」
「……どうだろうな? 戦ってみなければわからないだろうが一人で戦うのは推奨しない」
タンベルが口をはさめば、ディグは難しい顔をしていった。魔法を使えるか使えないかという差は大きい。
もちろん、魔法師にも欠点があり、剣士の方が優れている点もあるが……、しかしディグ達師弟のように魔法も武器も両方扱える人と、武器のみ扱えるものだとやはり差が大きい。
タンベルもこの砦を任されるほどの存在であるが、未知の存在相手にやっていけるかどうかというと難しいだろう。そもそも今回、その未知の異形の化け物がどういう存在かいまいちわからない。
ただ自分とヴァンなら大丈夫だろうとディグが考えたのは、自分なら出来るという思いとヴァンの規格外さをしっているからだ。
「クスラカンが戻ってきたら色々どういう存在か聞けるとは思うんだけど」
「まぁ、ヴァンの召喚獣待ちか」
そんな会話を交わしていたら、ドンッという何かが着地する音が響いた。その音に外に出れば、
『ご主人、俺やったぜー』
『わたくしも援護をかんばりましたわ』
倒した異形の化け物を横に得意げな顔をする《イエロードラゴン》のクスラカンと、クスラカンの上に乗っている《ファンシーモモンガ》のモモだった。
倒してきたらしい。
本来の姿で戻ってきた召喚獣に砦のものたちは騒がしくなっていたものの、タンベルの一喝でおとなしくなった。
そして死体となったその化け物を見て、
「なんだこれ」
とディグは何とも言えない表情でつぶやいた。
(……大きさは巨大だし、翼はあるし、なんというかちぐはぐだ。つか、これはどういう攻撃してくる奴かも想像がつかん)
と考えながらまじまじとそれを見る。
不自然なその化け物の身体。色々なものが混ざったような、そんなちぐはぐな化け物。
「これが、少なくともあと一体、もしかしたらそれ以上にいるってことか」
うーんとディグは考え込む。
「師匠、何か分かった?」
「少なくともこんなのが何体もいるっていう状況が自然なわけはない」
「ってことは、誰かが何かしてるって事?」
「多分な。少なくとも原因があるだろう。此処の場所を考えると、シザス帝国が何かしてんじゃねぇかなとは思うが」
ヴァンの言葉にディグは答えながら、考える。
(魔物の増殖と、今回のこいつが関係ないとは思えない。でもこんな異形の化け物の出現にどう関与しているかはわかんねぇな。自然にこんなものが生まれるわけはないと思うが……、逆にこれが自然に生まれるような場所にここがなっているっていうならそれはそれで問題だしな)
正直情報が少なすぎるのもあって、断定など出来ないというのが正直なディグの思いである。
「とりあえずその化け物について情報を集めて、見つけたら討伐をするっていうのがやるべきことだな。原因を見つけて潰すのが一番良いが。
……あとは騎士の連中は特に少人数で行動しない事と、これを見たら逃げる事、あとは見かけたらすぐに連絡できるように狼煙でも上げられるようにした方がいいな」
森にあふれている魔物を退治するという騎士の仕事をするにあたって、異形の化け物が居るからといって森に入らないわけにもいかないのだ。
とはいえ、そんな化け物相手に戦えるかという疑問と、死ぬかもしれないという思いで顔を青ざめさせている騎士達もいる。当然の話だ。命より重いものはなく、敵がどういう存在かわからないからこその恐怖心もあるだろう。
「ヴァン、お前はとりあえず俺と一緒にその怪物退治を主にやれ。お前なら出来るだろ?」
「クスラカンが倒せたし、なんとか出来ると思う」
「じゃあ、やれ。あとはまぁ、死なないようにな。で、フロノスは……、召喚獣と一緒でも倒せると思うか?」
「正直わかりません。倒したいとは思いますが、私はミィと契約を結んで間もないので」
「なら、とりあえず騎士達の補助か、俺たちの補助とかになるか。やることは」
ディグは考えながら二人にそれぞれ何をすべきか言いつける。
「あ、あとヴァンは召喚獣何匹まで顕現していても大丈夫だ? ナディア様の元へ七匹で、此処に二匹だろ?」
「いくらでも多分大丈夫だよ」
「あー、そうか。なら全員呼び出して情報収集させてほしいんだが。俺も全員呼んで動かす」
「水中でしか使えないのもいるから全員は無理かも」
「……森の中には巨大な湖もあるからそこらへんとかの探索を頼む、そういうやつには」
「なら、大丈夫。俺呼び出したの、森だったからそいつ死にかけてたしなぁ」
「その時どうしたんだ?」
「水呼び出した」
「あー、そうか」
ディグはヴァンの幾らでも召喚獣を呼んでも問題ない発言に呆れた表情を見せながら、こいつが味方で良かったとそんなことを思うのであった。
―――化け物の死体を前に話し合う事について
(異形の化け物の存在。その存在が何故出現したのかと原因を突き止めるために彼らは動き出す)




