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シボレテ  作者: ジャンガリアンハムスターは世界最強種
10/10

家族は家族

「HAHAHA☆辞令がでちゃったよッ☆

 新しい配属先は 福★島 だよッッ!!」


爽やかな土曜の朝。相変わらず、キラ―――ン☆と効果音付きでお父さんが言った。

次の配属先は福島地裁。


「はっ?また転勤?結婚したばっかりなのに、単身赴任かよ」


シンタローは今日知ったらしい。

私は、昨日お父さんとお母さんから話を聞かされた。

三人で話し合った結果、私は一人暮らしでこちらに残り、母は新天地までついていく事に決まった。

この家ともおさらばか。寂しいな。


「何言っているんだ。志保さんも一緒に行くに決まっているじゃないか」

「えっ?俺は?」

「うん。どこかの高校に編入しないとな」

「じゃあ、雪ちゃんはっ?」

「え?普通に1人暮らしだけど?」


とたん、シンタローが血相を変えて反対した。


「ダメッ!!駄目ですッ!そんなの俺が許しませんッッ!!!」

「じゃあ、雪ちゃんが頑張って合格した大学辞めさせちゃうの?」

「え・・・。それは」

「晋太郎。我が儘言っちゃ駄目だぞ」


嗚呼。この声は、本当に良い。

心にすぅと沁み込んでくる。

シンタローは、何か言いたげな顔をしたまま口を閉ざした。


「良い声」


と、私が一言。

ギョっとした顔で、シンタローが私を見つめる。

お父さんは照れている。

お母さんは、うんうん頷いて同意する。


「そうでしょそうでしょ。聡さんは、素敵な声なのよ」

「ほゎあ~。NHKのアナウンサーばりの良い声。

 本当に、凄く、素敵だね」

「え?いやあ。そんなぁ。」

「謙遜しないで下さい。うわ~~~。その声を聞くとドキドキする」

「雪乃は、NHKアナウンサー大好きだものね。登〇さんとか」


ううっ。実はその通り。カアァと顔が熱を帯びる。

私は、声フェチなのである。

北海道に磨が来た時は、狂喜乱舞したものである。


「~~~!!!!」


シンタローが静か~~にオハシをテーブルに置いて、私を睨んだ。

すかさず、お父さんがフォローする。


「シ・・・シンちゃん?落ち着いてね?」

「雪ちゃん!雪ちゃんの好きなタイプは、『優しい人』なんでしょ!?」

「え?私の好きなタイプは『落ち着いた声の人』だよ?」

「母さん!全然違うじゃないかぁッ」


なんで私の好きなタイプを、私に聞かないんだろう。

あらあら、なんて呑気に笑っているお母さんもお母さんだ。


「雪ちゃん!俺も数年経てば、父さんみたいな声になるよッ!・・・多分」

「シンタローはカッコイイから、数年経ったら見た目も楽しみだよ」


ニコッ。

シンタローは出鼻を挫かれたのか、真っ赤な顔で「そそそそそそう」と消え入りそうな声で返事をして食事に戻る。

それから、引っ越しの時期や私の賃貸アパート探しの話をまとめていく。

経済力と実行力のある父のお陰で、私の住むアパートの心配は全く無い。

事実、翌日にはあっけなく優良賃貸が見つかった。


引っ越しの準備が、一段落したある日の午後。

両親はデートに出かけ、シンタローと家に二人っきりになった。


「シンタロー、ご飯何が良い?」

「ん~。俺も手伝うよ」


二人で、一緒に夕飯を用意する。

と、言っても冷蔵庫には生ものは無いので、乾麺を茹でて一緒に食べる。

シンタローは、チャリで近くのスーパーからお惣菜の天麩羅を買って来てくれた。

ズズーとうどんを啜りながら、黙々と食べる。

私が、食器を洗って居間に戻ると、シンタローが眉間に皺を寄せて座っている。


「神妙な、顔してるよ」

「・・・早く大人になりたい。一人で何でも出来る様になりたいよ」


シンタローが急に哲学的な話をし出した。


「シンタロー、離れ離れになったらもう家族じゃない?」

「そうじゃない。はぐらかさないでよ。」

「うん。ごめん」


再びお互い、無言。

先に私から沈黙を破った。


「触れても良い?」

「・・・いいよ」


ゾクッ、と鳥肌が立った。シンタローの声がひどく擦れていたのだ。

手を伸ばして頬を撫でた。

視線で自分の指先を追うが、痛いくらいの空気で自分がじっくり見られている事がわかる。

頭に移動し何度も撫でる。

ソロソロっと、視線をシンタローに戻した。

目が あう。

頭を撫でていた手を再び頬に、さらに、唇に指先で触れた。

見つめ合ったままシンタローが私の手を握り、手のひらにグッと口づける。

背中から首にかけてゾクゾクっと震えが走る。

自分の臨界点は既に突破している。震えながら、それでも、なんとか、口を開いた。


「好きだよ。シンタロー

 でも、ダメ。まだ、ダメ。」


シンタローは頭の良い子だ。

今回は私は折れる気は全く無く、彼も分かっていると確信していた。

シンタローが口から私の手を離した。そのまま強く握られているが、下を向きフーッとため息をついた。

私もつられて、緊張を和らげる。


「俺も好きだよ。」


顔をあげると、じっと見つめられる。


「浮気、しないで。」

「うん。」

「男を部屋にあげるのもダメ。」

「うん。」

「あと2年、俺がそっちに行くまで待っていて」

「うん。」



他には無いのかな?

では、私からも。


「じゃ、次、私からね」

「どうぞ」

「他の学部に興味があったらそれも考えなよ。

 あと、興味のある教授とか、研究とか。ちゃんと、他の大学への進学も考えること。

 浮気は嫌だけれど、本命の子が出来たら応援するか「無駄」

「ん?」

「俺の為を思って言っているんだろうけど、無駄 だから。」


ニッコリ。

わぉ。背中から青筋立っている。天使の笑顔には、凄味があるッ!!

まったく。お互い我慢大会だなぁ。将来の事はわからないのに。

でも、私の可愛い家族だ。

私は、シンタローと一緒の人生が楽しい。

お父さんとお母さんと、シンタローが大好きだ。

とてもとても好きだ。

けれども、私は私の人生も楽しみたい。

この二つは私の中では矛盾しない。


さぁ。明日は どんな一日になるのかな。

これから、どんな未来が待っているのかな。

ワクワクする。

願わくは、

家族皆が、(あと、世界中の皆も)

健康で、

元気に生きられますように。






お終い




参考文献


・鈴木伸元『被害者家族』幻冬舎新書.2010

・石原豊昭監修『訴訟するならこの1冊』自由国民社.2005

・『夫婦親子男女の法律知識』自由国民社.1996

・竹之下義弘『養子・特別養子・国際養子』中央経済社.1997



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