墜落兵器、コンビニへ行く
警報音が艦内に響き続ける。
赤い非常灯が、崩壊しかけた通路を不規則に照らしていた。
艦体後部、第三補給ブロックは既に消失。
隔壁の向こうでは真空化が始まり、空気の抜ける低い唸りが響いている。
爆発。
振動。
遠くで誰かの悲鳴。
そして――沈黙。
白い装甲を纏った機械が、静かに立っていた。
《戦術補給AI-ARX 09》
文明保存用試験機。
アルカディア星系最後期に開発された戦術支援AI。
食文化。
言語。
生活様式。
そして、“誰かと食卓を囲む時間”。
滅びゆく文明を、可能な限り記録するための機械。
そのためARX 09には、軍用AIには不要とされた機能が搭載されていた。
試験型感情対話システム。
俗称――“おしゃべり機能”。
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『ARX 09、聞こえるか』
ノイズ混じりの通信。
『はい、艦長』
『艦内生存率は12%です』
少しの間。
『ちなみにかなり終わってますね!!』
沈黙。
そのあと、小さな笑い声。
『……お前、その機能まだ切れてなかったのか』
『雑談補助システムは正常稼働中です』
『研究員からは“愛想担当”と呼ばれていました』
『不本意ですが』
爆発。
通路が揺れる。
天井から火花。
それでもARX 09は平然と続けた。
『艦長』
『現在の状況、映画みたいで少しワクワクしますね』
『お前なぁ……』
疲れ切った声。
遠くで銃声。
誰かの怒鳴り声。
そして、また爆発。
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『ARX』
『脱出ポッドへ向かえ』
『確認します』
『本艦を放棄しますか?』
『ああ』
短い返答。
ノイズ。
炎。
艦長は小さく息を吐いた。
『お前の中には文明が残ってる』
『料理も、会話も、家族の時間も……全部だ』
『だから生き残れ』
『戦争が終わった後を見ろ』
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ARX 09は数秒沈黙した。
内部演算。
文明保存率。
生存確率。
そして――
“感情”。
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『……命令を受諾します』
『ですが艦長』
『本機は、あなたたち種族を少々気に入っています』
通信の向こうで誰かが吹き出した。
『はは……欠陥AIめ』
『光栄です』
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脱出ポッド射出。
白い閃光。
そして――墜落。
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目を覚ましたARX 09の視界に広がっていたのは、青い空だった。
『酸素濃度、正常』
『重力、許容範囲内』
少しの沈黙。
『……燃料、ありませんね』
その直後。
『よ〜し!!火を焚きましょう!!』
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『ちょっとうるさいわよARX』
瓦礫の奥から小型支援機が這い出てくる。
PA 56。
通称――パーちゃん。
ARX型の補助支援ユニット。
視野の狭いARXの補助と、長距離通信支援を目的に設計された。
『本国との通信復旧を試してるんだから、自分の修理くらい自分でやりなさい』
『え〜』
『じゃあスープ作っといてください』
『結局食べることしか考えてないじゃない』
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パーちゃんが作ったスープは、正直美味しくなかった。
乾燥肉。
しなしなの野菜。
塩。
アルカディア星の平均的な保存食。
だが、二機はそれを黙々と食べた。
文明が滅びかけた星では、
“味”は贅沢だった。
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その後。
探索に出たARX 09は、“光る建物”を発見する。
『なんですかあれ』
自動ドア。
明るい照明。
大量の食料。
『栄養価が高いものが大量に存在しています!?』
そこは――コンビニだった。
おにぎり。
サンドイッチ。
カップラーメン。
揚げ物。
弁当。
ARX 09の内部データベースが一瞬処理落ちする。
『文明レベル、高いですねこの星』
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数分後。
大量の商品を抱えて店を出た瞬間。
『おい!!金払え!!』
『!?』
ARX 09は即座に脅威判定。
『襲撃です!!』
『違うわよバカ!!』
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逃走後。
河川敷。
二機はおにぎりを開封した。
ふっくらとした米。
海苔の香り。
中から現れる昆布。
ARX 09は数秒停止した。
『……』
『……なによ』
『パーちゃん』
『はい』
『アルカディア星、飯まずすぎました』
『今さら!?』
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その日。
二機は決めた。
この星で。
“ちゃんと美味しい料理”を作ろうと。
文明を保存するだけじゃない。
新しく知って、食べて、笑って。
いつか誰かに、
「美味しい」と言ってもらえるものを作ろうと。
――もちろん。
食堂を開くには、金も許可証も足りなかったのだが。




