14.二人の変人 ◆東京国目郷区・第三コンドミニアム・ぎりしあ荘 TK.MS.tc9360:s33045
「つーかーれーたー」
「クレアさん。本当にお疲れ様でした」
「ご主人!」
「すず~、体治った? ほんとに心配したんだから!」
音通りくたくたに「唾枯れ」て帰宅したクレアは、グエンとすずしろの出迎えによりたちまち潤いを取り戻した。
「カーネルー」
呼ばれたカーネルは状況を察してハベル・琳瑚両奇人に説明をする。
ソファに突っ伏したままくたびれるクレアと、その世話をするすずしろ。カーネルが部屋に入っていいかと尋ねるが、返答すらすずしろが行う。
「大変だったな。だが、世界はもっと大変なことになった。まず何から話そうか」
「お客人については?」
「ふむ、そうだな。君たちはおそらく強化パラレルだ」
ハベルと琳瑚は当然のごとく聞き返したので、カーネルが「彼自身の思う子供に接するような態度」で説明を施す。長い話を要約をすると、二人は明らかに「作られた人間」であろうということだった。人型知能体:またの名を亜人体。この融脳式の疑似人体は若年人口減少・労働力不足問題の解決や、知的脳体郡と法を巡る複雑な不和の緩和、さらには導入目的の中核たる知脳特異点の抑制など、様々な理由を抱えて五五年、コンコルディア計画によって当然のように社会へと組み込まれた。見た限りでは人間と全く違いのない知脳[正確には融脳]がもたらすのは、人間と知脳をどちらもひとくくりに「人類」とする調和である。
パラレルは、通常その導入目的と知能四原則により自身がパラレルであることを知らないことが多く、知っていても人に告げるようなことはしない。また今回のように他人へパラレルだといいつけるのは、この社会の不文律からして大変よろしくない。それでもカーネルがそう言いつけたのは二人がその社会規範意識を持っていなかったことと、パラレルはパラレルでも、噂としてしか情報が回らない「戦闘能力が極端に高く構成された」軍事用パラレル[=強化パラレル]だろうという理由からだ。
「強化パラレルについての詳細は不明な上、その存在自体があやふやだ。噂と思っていい。いわば、今回の黒幕であろうアルティレクトと同じようなものだろう」
「ねえ、やっぱりあんたがいつも言ってるアルティレクト、ほんとにいるしれない。私、更谷署でものすごい不快感に襲われたとき、画面には蜂の巣社のロゴが映ってたんだけど……、何かつながりがあったり?」
「ふむ、今回の震災とリエール研究所がらみの事件、さらには更谷署で起きた大規模な乗っ取りと生体侵入、このすべてをアルティレクトに集約させるとなると稚拙に思うところもあるが。しかし奴の仕業ではないとすれば、そのハニカムが妖しい」
「ハニカム、妙につっかかる言葉だね。なんだいそれは」
「本当に何も知らないのだな。クク、興味深い。蜂の巣社はアジア圏唯一の、次間製品を提供する大企業だ。全世界の次間利用者情報のうちの三割を管理していると言われている。東京のみならず、世界規模の企業だ」
同企業はアメリカのビヨンドGT社、アラブ連邦のアルファルド社などとともに結成された国際チームのリーダーであり、現行の世界次間系(VRシステム)、METAVERSEを支配する同産業最大手企業だ。それは東京国文興区に本部を置いていることからもわかる。五大次間企業HABULの一角として、その圧倒的な立ち位置を欲しいままにしているさまをよく思わない人も多い。
「そうだ、琳瑚といったか。相部屋になるが、ここぎりしあ荘であれば、96-Kに間借りしてもいいぞ」
「いやあんたの部屋でしょ、何でいつももわかりにくく言うかな! 琳瑚さん、悪いけどやめておいたほうが」
「いいよ、別にこだわりはないんだし、どこに行くかの当てもないし」
カーネルはクレアに、したり顔を強く向けた。
「さて、では最後に、君たち二人に端末を贈ろう。その対価は、君たちについての情報を聞くということで同意してくれ」
彼は現在主流となっている二つの端末の説明を施す。一つ目の拡張端末は眼合型で、亜間技術を応用して現実空間に出入力画面をもたらすものだ。二つ目の物理端末は十年代頃から続く、小さなディスプレイを備えた従来型のもので、画面を折りたたんだり展開したりして大きさを自在に変えることが出来る。ハベルがクレアと出会ったころ、借りていたものだ。
クレアは物理端末を、ハベルは拡張端末をそれぞれ手に取り、個人同期を始める。
「えーいいなー」
「すずには代わりに、私がプレゼントをしてあげます!」
「ほんと! えへへ~」
目をギンギラに煌めかせるすずしろを、グエンは自室に案内していく。この総合的な状況を見て、カーネルは何に向けてか今からほくそ笑んでいた。




