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13.帰路 ◆日本国旧東京・大田区・バレット駅前 NH.OW.sb7790:5300


――琳瑚

福島の公緑にて一人生活を送る女性型強化パラレル。ハベルと同じくマザーのアンファンで、超人的な戦闘能力を持つ。マザーによって仕組まれたシナリオを辿る中、ハベル達に出逢う。

――


 襲撃者は全員機能停止している。それに怖気づいたか、抗争集団も早々と退散していた。さっきまで距離を取っていた則雄が、すぐさま駆け寄る。

「な、なあ、何モンやねーちゃん……。こいつらを一瞬で」

「だーから、あたしは上に行きたいだけのもんだよ」

 空にある東京国を指刺すその女は、紅という派手な髪色をしていながら、なおかつ威嚇するような高身長だ。

「お前、名前は」

「琳瑚。何、もしかしてあんたたちも上に用があるのかい」

「そうなんだけどね、ちょーっといい? 琳瑚さん」

 その戦闘能力といい、何やら謎めいた言動といい、ハベルに似通ったものを察知したクレアが尋ねる。

生体ID(ボイド)って持ってる?」

「さあ、何だいそれ」

図星だった。クレアは彼女もハベルと同じく、パラレルだと確信する。ではどうやって東京国へ行こうというのか。

「行くか」

「いやちょっと待って、無理だってば。ねえ、あなたたちはどうせ公緑とかどこかで人知れず原始的な生活を送ってたんでしょ? 信じられないけど、まあ信じてあげる。それで、電子マネー(コイン)はおろか、現生キャッシュも持ってない。おまけに生体ID(ボイド)もなくて、たぶん代理知脳サロゲートだって知らないんでしょ。どうやって許可取って運賃払う気?」

 代理知脳サロゲートは自動化手段に過ぎないためこれがなくても何とかなるが、生体ID(ボイド)がないとは救いようがない。並の人の子には手詰まりだ。

〈私が何とかしよう〉

「あ、カーネル?! いいところに」

 琳瑚は数日前のハベルや、さっきまでの則雄と同じく驚く。ハベルや則雄が説明している間に、クレアとカーネルが二人分のアクセスをやりくりする。

「はあ。こんな警察の汚職、公民に知れたらどうなることやら」

〈一度やってしまえば、あとは何度やっても一緒だ。それに、手札はすべて活用しなければ大損だからな〉

「あんたは一般市民の分際でこんなことしてるから一番タチ悪いっての!」

 脳内にカーネルの笑い声が響き渡る。クレアはしかめっ面をしながら状況を説明した。兎にも角にもこれで、ハベル、クレア、琳瑚は東京へ上がることができる。

「あなたはどうするの」

「え、ああ、いや、まあおかみは恐ろしいかんな。それに金もあらへん。けど、せや。もしものことがあった時のために、連絡先教えてくれへんか?」

 先の戦闘では逃げ出し、いまだ素性を明かさないこの小男。いや、このどうにも憎めない雰囲気が、彼の素性なのか。クレアはそう理解することにした。当然代理知脳サロゲートのアドレスは知らないだろうからと、今ではめったに使うことのない電話番号を教えて。

「ほな、達者でな! また来るちゅう時には連絡してや」

 なぜ、クレアはこのエセ関西人と行動を共にしたのか、私の制限低級思考では把握しきれない。琳瑚が二人とともに上がっていった理由は、マザーの思わくにあるのだろう。


 則雄にとっては、誰もいなくなった。慣れているとは言え、一人が好きなわけではない。先ほどまでの、他人と場を共有していたことの安心感、さらに恋心踊る存在と一緒だったがゆえの充足感が一気になくなったとなれば、喪失も大きい。

「マオ、チエ、ユウキ、サナエ」

 今は別々に行動している、いつもの面々を、せめてより鮮明に思い描こうと名前を口に出す。そこへ、東京国へのまだらな憧憬がちらついた。クレアのこともそうだ。やはり行けばよかったのかという悔いが、やがて腸を揺るがす。

「ああ、いてぇ」

 下腹部に雑に手を添えながら、彼は一人、灰色の荒野を後にした。



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