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タブレット&トラベラー ~魔力課金で行ったり来たり~  作者: 藤崎
第一部 勇者(アインヘリアル)チュートリアル
58/225

58.カニ漁体験版


「海のモンスターについて、もうちょっと詳しく」


 手を挙げて要求すると、ギルドマスターのマークスさんが片方の眉をわずかに上げてから口を開いた。


「ふむ……。そうだな、最初にあげたクラーケンは、外洋船と同じ程度――最低でも20メートルを超える海のモンスターの代表格だ」


 知ってる。

 手札を1枚を破棄すると、対抗で攻撃できるんだよな。


「滅多に出くわすことはないが、巨大な触腕で船を圧壊させられるという」

「それは聞いたことがありますが、なぜそんなことをするのでしょう?」


 本條さんが聞いたことがあるというのは、地球でのことだろう。

 俺も、同じように巨大イカが船を掴んでいる絵を見たことがある。あと、ダイオウイカのドキュメンタリーを見たりとか。


「不明だ」


 なにそれこわい。


「不用意に縄張りに入ってきたから襲われたという説が、有力ではなかったかしら?」

「それならば、同じ航路を通る船がすべて襲われるはずだ……という反論もあるようだが?」

「まったく同じルートをたどれるわけではないでしょう?」

「確かに、現存する航路には非効率なルートもあるということは事実だ」


 なんだか、カイラさんがマウントを取りに行こうとしている気がする……。


 それはともかく、問答無用に襲ってきたというだけだと、侵入者を排除したのか、単にじゃれて(・・・)ぶっ壊したのかの区別はできない。


 つまり、不明。


 独自の行動原理に従っている。だから、モンスターと呼ばれるんだろう。

 怪獣はなんで東京に上陸するのと、聞くようなものだ。


「クラーケンが半ばおとぎ話の存在であるとしたら、ウェイブシャークは現実的な脅威だ」

「確か……飛ぶんだったわね?」

「え? 鮫が飛ぶんですか?」


 そりゃ飛ぶよ、サメだもの。

 宇宙にだって進出するよ、サメだもの。

 逆に、家にもいるよサメだもの。


 むしろ、トルネードにならないことを喜ぶべき。


「ああ、飛ぶ」

「そんな……」


 理解できないって顔をしても、美人は美人だ本條さん。


「集団で海面を十数メートル跳躍し、船に飛び込む。その勢いのまま人も貨物も船体も関係なく飲み込んで、また海へと去っていく。獰猛で問答無用のモンスターだ」


 あー。簡単に想像できるな。

 B級、いやC級のパニック映画そのものだ。


 こっちだと、話に聞いたオークの海版みたいな感じと表現したほうがいいかもしれないけど。


「時折、海を渡るワイバーンなども補食されるようだな」

「鮫は人を食べたりしないと聞いたことがあるのですが……」

「別の地域ではそういうこともあるかもしれないがな」


 頭から否定はしなかったが、事実は事実として断言した。その間、マークスさんの鉄面皮はぴくりともしない。


「もっとも、サカサクラゲもそうだが、これらは近海にはあまり出現しない」


 ちなみに、サカサクラゲは上下逆になった巨大なクラゲで、普段は海底にいるらしい。

 大きさは、小さいモノで5メートル。上は天井なし。

 時折浮上しては、船やら他の海のモンスターを触手で捕獲して栄養を吸い取るそうな。体液を吸ったあとは、取り巻きの魚が美味しく頂くらしい。


 良くできてるなぁ。アニマル……じゃなくて、モンスタープラネットだわ。


「海沿いの地域で共通する人類の敵が、ギルマンだ」


 名前からして、いわゆる半魚人だろう。


「全身が奇妙な粘液に覆われ、陸上でも問題なく活動可能。ギルマンに襲われた者はギルマンに変化することから、獣憑き(ライカンスローピィ)の一種ではないかという説もある」


 野を馳せる者(セリアン)とは別に、ワーウルフとかが存在するようだ。たぶん、猟師でも殺せない。

 しかし、半魚人は感染するのか……。


「どうやら海底で“大いなるもの”とやらを祀っているようで、漁村や船を襲うのも宗教儀式の一種らしい。はっきり言って、どんな教義なのかも分からないがな」


 しかも、インスマス系だった。


「それは、生贄を求めているということなのでしょうか?」

「それが有力だ。我々の理解可能な動機が存在するとすればという注釈はつくが」

「とても、ラブクラフトですね……」


 本條さんも同じ感想に至ったらしい。

 まあ、混血じゃなくて感染だから、まだまし……じゃねえな。


「もっとも、グライトの冒険者が最も遭遇するのは、ゴールデンキャンサーだろう」


 気分を変えるように、ギルドマスターが言った。相変わらずの鋼鉄の表情で。


「ゴールデンキャンサーってことは、甲羅が金色なんですか?」


 もしそうだったら、星座カーストは最下位だな。


「ああ。だが、特に甲殻が買い取り対象ということではない。あだ名の泥棒蟹のほうが、通りが良いかもしれないな」


 金ピカなのに泥棒とは。

 というか、カニなのに鎧にならないのかよ!


 イカとかミノムシに期待するしかないか……。


「発達した爪で漁の最中の網を食い破って横取りする……だけではない。海底から地上へ上がって水揚げした魚を奪うのだよ。群れでな」

「そこまでいくと強盗では?」

「代わりに、肉は美味い」

「良い餌、食べてますからね……」


 でも、これは練習台としてちょうどいい気がする。


 今日の講義の終わりを告げるマークスさんの変わらない表情を眺めながら、俺はひとつの決心をしていた。





 横殴り。


 MMORPGにおいて、他のプレイヤーが戦っているモンスターに攻撃をすること。できないゲームもある。


 俺がMMORPGに馴染めなかったのが、これだ。

 わざとではなく誤ってやっちゃったときとか、ほんといたたまれない。


 あと、狩場での順番待ちとかもね。


 なんでゲームの中でまで、他人に気を使わなくちゃならんのだ。


 と、思ってしまってやる気が続かなかった。なので、知り合いとちょいちょいやったほかは、ほとんど触れていなかったりする。


 そして、この横殴りと狩場の問題は現実の冒険にも起こりうる問題だと思われる。


「次にオーナーは、現実の冒険とか矛盾してるにもほどがあるけどなと言います」

「現実の冒険とか矛盾してるにもほどがあるけどな……はっ?」


 と茶番を繰り広げている俺たちは、海中にいた。


 正確には、海底か。


 ギルドマスターの講義を終えたあと、カイラさんと本條さんの承認を経て早速海に潜ったのだ。


 決め手は、本條さんの「虫と蛙は苦手なんです……」という可愛らしい告白だ。


 いいよ。そういうわがまま、どんどん言っていこう。


 それに、《水行師》とめちゃくちゃ相性が良いというのも、もちろんある。


 水中で水の壁と《水域の自由者》と《渦動の障壁》の合わせ技で行動の自由を確保。マジで水中を飛ぶように自由に動けるんだ。


 その移動力を駆使して海底の地図を作成し、《オートマッピング》でUNKNOWN……つまり、モンスターの場所を探知。


 海底の砂地に隠れていても関係ない。


「エクス、《吹雪の飛礫(つぶて)》」

受諾(いきまーす)!」


 海中だろうと関係ない。

 こぶし大の氷の礫が突き進み、地面に着弾。


 砂煙が上がり、あわてて金色のカニ――ゴールデンキャンサーが姿を現した。


 外した……わけじゃない。


 一度、存在が露わになれば、こっちのもの。


 呪文詠唱は聞こえないが、《渦動の障壁》の外に設置した光球からレーザーが射出されゴールデンキャンサーを貫く。


 細い光が1メートル以上あるカニの体を縦に走って、真っ二つになった。


 少し離れた場所で《渦動の障壁》に包まれている本條さんと、顔を見合わせサムズアップ。


 かなり慣れてきてるなぁ。


 徹底的に、光線魔法を極めていくつもりらしい。まあ、メフルザードをどうにかするまでは、それでいいか。


 しかし、水中でもレーザーの威力は下がったりしないのか。


 倒したゴールデンキャンサーは、ギルシリス――カイラさんのマフラーで回収され、小舟へと積まれる。

 フェニックスウィングで曳航するので、重量は気にする必要はない。


 マンモス哀れなヤツ……。


 あの伸縮するマフラーが水中でも問題なく作用するのは、《水域の自由者》のお陰らしい。


 カイラさんだけは《渦動の障壁》を使用していないので、いつもの忍装束だが濡れていることになる。


「あとから《踊る水》で対処できるとはいえ、なにかできたらいいんだけど」

「その配慮、イエスですよ」


 なぜか妙なエクスを黙殺しつつ、俺たちは漁を続ける。


 そう。もはや戦闘じゃない。カニ漁だ。


 たまに他のモンスターが現れたりするが、真っ先に感知したカイラさんがカラドゥアスを投擲して排除してくれる。


 他の冒険者と競合しないので、横殴りの心配もない。

 順番待ちなんて、まったくなんの必要はない。


 戦闘経験以外は、文句のつけようがない狩場だ。


 とはいえ、ずっと狩り続けるわけにもいかない。


「体験版は、この辺で終了かな」

「競合相手もいないですし、焦ることはないですね」


 続きは、冒険者ギルドに正式登録してからだ。


 どちらにしろ、翌日の漁はお休みにせざるを得なかった。


 早速、盗賊ギルドからの呼び出しがかかったから。

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クラーケン、まさかのモンコレネタ!? 何人に伝わったのだろうか…
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