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タブレット&トラベラー ~魔力課金で行ったり来たり~  作者: 藤崎
第一部 勇者(アインヘリアル)チュートリアル

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59.釈然としない取引完了

「よく来てくれたな」

「呼び出したのは、そっちでしょう?」


 海沿いの倉庫から地下へ入り、謎の酒場へ。

 そこからさらに隠し通路を歩いてたどり着いた先に待っていたのは、隻眼の野を馳せる者(セリアン)


 盗賊ギルドの偉い人を前に、我が輩は借りてきた猫だった。名前はもうある。名前はあるんだ。俺をナンバーで呼ぶな!


 ……これ、前もやったな。


 とかなんとか現実逃避していくうちに、取引は自動的に進んでいく。ぼくは自動的なんだよ。


「金貨は500枚用意した」


 部屋の壁――前回本條さんがレーザーを撃ち込んだ辺りがぱかっと開いて、中から別の野を馳せる者(セリアン)が出てきた。

 小さめの宝箱みたいな容器に、金貨を満載して。


 ……あそこ、人が出入りできるようになってたんだ。


 危ねえ……。


 見れば、本條さんも口に手を当て驚いていた。そりゃそうだよね。うん。事故が起こらなくて良かった。


「確認は?」

「不要よ」


 テーブルの上に置かれた宝箱と金貨を一瞥し、カイラさんが振り返る。


「ミナギくん、お願い」

「あー。いいんですか?」

「問題ないわよ」

「それじゃ、遠慮なく」


 タブレットをテーブルの上に向け、カメラでパシャリ。

 山と積まれた金貨が光に変わり、タブレットへと吸い込まれていった。


 後に残ったのは、ぽかんとした表情を浮かべた盗賊ギルドの偉い人とドヤ顔のカイラさんだ。


「ホールディングバッグよ、ちょっと特殊なね」

「そうか、さすが……」


 勇者(アインへリアル)だなと、続くのだろう。


 確認したわけじゃないが、たぶん、俺が異世界人――勇者(アインへリアル)だいうのはばれていると思っている。


 俺だけ《リフレクティブディスガイズ》がかかっていないので、異様さが際立ってるはずだからね。


 まあ、それで本條さんの防波堤になれているのなら別に構わない。


 そもそも、すごいのはエクスだしね。


「カイラさん、枚数は問題ないよ」


 《ホールディングバッグ》の管理画面で、ちゃんと金貨のアイコンに500と番号が振られているのを確認しつつ言った。

 ダエア金貨とは別に収納されるんだな。《ホールディングバッグ》すごい。


「魔力水晶は樽になったから、後で北の世界樹亭だったか。宿に送らせてもらう」

「ええ。それでいいわ」


 人前で《マナチャージ》するわけにはいかないし、ありがたい。


微少(タイニィ)な魔力水晶、2万個。なかなか骨が折れた」

「……っっ」


 またしても、ポーカーフェイスを保つのに苦労させられた。


 金貨1枚で微少(タイニィ)な魔力水晶は20個のはず。

 残りは金貨500枚。多めに見積もって、700枚。700×20は、どう考えても2万にはならない。


 でも、カイラさんは、まったく動じていなかった。


「じゃあ、こっちも引き渡すわ」


 ハードボイルドなカイラさん、格好良い。格好良くない?


 予想通りと言わんばかりの言葉を受けて、俺はタブレットを操作。ダエア金貨1,000枚を宝箱へと放出した。


「うおあっ」

「ちょっと特殊な……か」


 驚きの声をあげる下っ端の人と、隻眼の男。

 そんなのを無視して、カイラさんが取引を進めようとする。


「それで、天属性の防具は見付かったのかしら?」

「ああ」

「いくら?」

「いや、市場には出ていなかった」


 カイラさんと盗賊ギルドの偉い人が、バチバチと視線を交わす。


 なんで?


「そう」

「だが、情報はあった」

「情報? 誰かが持っているの?」


 隻眼の男が、無言でうなずく。


「薬師ギルド。ブツは、そこにある」


 そして、まるで銃やおクスリのように言った。





 盗賊ギルドから宿に戻った俺たちは、樽とご対面した。


 樽というか、桶というか。

 とにかくたくさんとしか言えない、微少(タイニィ)な魔力水晶の山だ。


 これには、本條さんもびっくり。


 このままにはしておけないので《マナチャージ》で吸収したところ、本当に2万個あった。正確には、20,113個だ。上振れてるよ。


「しっかり脅しつけたから、誰も損はしていないわよ。むしろ、向こうも利益を出しているはずだから。気にしなくていいわよ」

「そういうことなら、まあ……」


 カイラさんに言われたら、納得するしかない。


 そして、その桶に水を満たしてファーストーンを投入。


 月影の里へと戻ることにした。


 冷静に考えると、《ホールディングバッグ》があるんだから俺たちが入れるような水場だったら移動させられるんだよな。


 これに早めに気付いてたら、メフルザードからもうちょっと簡単に……いや、あの状況だと無理か。


 なお、甘味様の下りは省略するものとする。

 断固として省略だ。


 里に戻ったところで、《ホールディングバッグ》に保管したゴールデンキャンサーを里の人にプレゼント。


 俺たちは、広場の台座で焼き蟹パーティを始めていた。妙に縁があるよな、この台座。


 ゴールデンキャンサーを提供した理由は、極めて利己的なもの。


 冒険者ギルドに加入する前だと税金がややこしいので身内で消費してしまいたかったし、なにより、《ホールディングバッグ》の容量がいっぱいいっぱいなんで、さっさと処分したかったのだ。


 しかし、ゴールデンキャンサーの身を口に入れた瞬間。


 そんな雑な扱いを、後悔する羽目になった。


「……美味え」


 たき火に網を載せ、太いカニの足を一本ずつ焼いていく。

 ふつふつと水分が沸騰し、潮の香りが周囲に漂う。


 ゴールデンキャンサーは焼いても赤くならず、ゴールデンなまま。


 そこは少しだけ違和感があったが、フォークで身をほぐして口に入れたら全部吹っ飛ぶ。チャラだ。


 ふんわりジューシーで、コクがある……なんてレベルじゃない。バターのように濃厚で、それでいてさっぱりと食べやすい。


 実に香ばしい。


 醤油かマヨネーズが欲しくなる。

 欲しくなるが、なくてもバクバクいけるんだから、そのポテンシャルは異常と言っていい。


「ほんと、美味しいです。北海道で食べた蟹よりも、ずっと美味しいです」


 そのうえ、俺たちの中で一番舌が肥えていると思われる本條さんのお墨付きだ。

 カイラさんさえも、一口食べて「ほう……」とため息を吐くほど。


「さすが、金貨30枚はすると言われるだけのことはあるわね」

「金貨30枚……」


 一匹で15~30万円?

 まあ、マグロはもっと高いし、それくらいはするか?


 マグロと違って、攻撃してくるしな。


 しかし、そうなると……。


「1000匹か2000匹売ったら、生涯年収達成か……」

「オーナー、それはさすがに無理があるかと」

「そうでもないわよ」


 ぺろっと唇を舐めてから、カイラさんが言った。


「ゴールデンキャンサーだけでは難しいでしょうけど、他のモンスターも組み合わせれば不可能ではないわ」


 というか、一気にそれだけ乱獲したらどうしたって値下がりするよね。誰が買うんだよ。

 そもそも、この周辺に1000匹もいるかどうか分からないし。


「一気に生涯年収は難しくても、大金持ちですね」

「みんなのお金だからね?」


 カイラさんは元より。本條さんも分け前を受け取ろうとしないというか、俺にお金を与えようとする気配があるんだよな。


「秋也さん。いっそ、このままこっちに定住するのも選択肢になりませんか……」

「それはさすがになしでしょ」

「そうですね。図書館のようなものがあれば、別ですが」


 うん。もっと大きな街ならあるかな?

 というか、本が基準か。ぶれないな。


 そういうところ、いいと思う。


「とりあえず、お金とかカニに目が眩んでメフルザードを放置はなしで」


 俺が強く言うと、みんな揃ってうなずいてくれた……のは、いいんだけど。

 しまったな。リーダーの真似をしてしまった。


 気恥ずかしくなって、俺はカニに集中する。


 これ、マジ美味えわ。


 でかくて食いでがあって、それでいて飽きない。でかいから、必死にほじらなくていいし。


 魔性のカニだ。


「それで、オーナー。どうします?」

「どうとは?」

「誰かと結婚して、しっかり生活の管理をしてもらうつもりはありません?」


 ぴしりと、時間が止まった……気がした。

 もちろん気のせいだ。誰も弓と矢で射られてないし。


「あのね、エクス……」


 フォークを皿に置き、俺は海女さん衣装のエクスをじっと見据える。


「もしかして仮に万が一俺の配偶者となる女性がいるとしてだ」

「普通にいると思いますが、それで?」

「だからって、別に俺の介護をするために結婚するわけじゃないだろう?」

「そんなことはないですよ」

「えー?」


 即否定? え? なにが起こってるの?


「エクスさんの言う通りね」


 ナンデ? ニンジャナンデ?


「私もそう思います」

「本條さんまで……」

「むしろ、私は立候補したいぐらいです」

「《トランスレーション》は、仕事しろ仕事しろ」


 一体全体、どういうことなんだ?

 別にそんなことしなくても、異世界パックの分は貸しになんかしてないよ?


「というか、そういう話じゃなかったはずだよな?」

「分かってますよ。薬師ギルドの件ですよね」


 と、露骨な話題そらしに乗っかってくれたエクスだったが、俺に意味ありげな笑顔を向けることは忘れない。


 この辺の相談があるから、俺たちだけでカニ焼いてるんだよね?


「確か、創薬師でしたか。薬を作る過程で、なにか危険があるのでしょうか?」

「爆発したり?」


 それなら一応、天属性の防具が必要な理由も分かる。


「そんな話は聞いたことないわ」

「ですよねー」


 当たり前だ。


「カイラさんも、心当たりはないのですよね?」

「ええ、まったく」


 本條さんの問いに、カイラさんは即答した。

 だよねぇ。


 もしかして、あれかな?


「天属性への耐性とは別に、装備してるとポーションの効力が30%アップみたいな効果が付属してるとかなのかな?」

「否定はできないですが、相関性が感じられないように思えます」

「ゲームだと、できなくはないんだけどな」


 TRPGでランダム財宝表とか振ると、+4フレイミング・ホーリーカマとか出てきたりするからね。そこまで来て、なんで鎌なんだよ。即売ったわ。


 だが、現実としては本條さんの言う通りだろう。


「盗賊ギルドが、あれ以上の情報を出さなかったのも気になるわ」

「絶対に裏あるよね。マークスさんに聞いたら、なにか分かるかな……」


 たぶん、冒険者ギルドと薬師ギルドって取引あるよね。冒険者とポーションって、切っても切れない関係だろうし、


 明日は授業の最終日で吸血鬼のことも聞けるらしいし、その流れでいけるんじゃないだろうか。

堂々と地雷を踏みにいくスタイル(無自覚)。


気づいたら、評価人数88でした。末広がりですね。ありがとうございます。これからも頑張ります。

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