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ゼーン ~戦火に咲く灰色の花~  作者: ちゅーおー
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第7話

視点:バレーノ




俺がなんとか起き上がれるようになると同時にプラーミャはさっさと来た道を戻っていってしまった

俺は無言でそれについていく



帰り道俺たちは一言も話すことはなかった

お互いに話しかける気もなかった

再び静かになった町を、不揃いな2つの足音が通る


アムンストのいた場所に横たわる人間は俺たちがその場を離れるころには黒く、灰のように散々になり、風に流されていった


その光景はあまりにも虚しく、胸が苦しくなった


やはり見慣れているのだろう

プラーミャはその様子を見ることなく、さっさと進んでいった


前をすたすたと歩く彼女のその腕はアムンストの腕よりもはるかに頑丈そうで、恐ろしくすごみがあった

背の低い小柄な彼女の見た目にはあまりにも不釣り合いだった


まだ痛み、きしむ体が、先ほどの出来事を物語っている


目の前で、人が死んだ

俺のまえにいる、こんな細身の少女の手で―


歩きながら静かな町を見渡す


アムンストが、あの人が死ぬことで、この町はまた騒がしくなるのだろうか


ハビアンの元につくと、ハビアンは眉をぴくっと一度動かしただけで、あとはなにも聞かなかった


プラーミャの右腕を隠すように立ち、俺に目配せする

俺はなにかを言われる前に目を閉じた

なにかが覆い被さる感覚、強い風…


また、メディウムに戻ってきた


今の俺には、聞きたいことが山ほどある

レガトゥスに


レガトゥスの書斎に向かう途中、オースがやってきた


俺たちの様子を見や否や、すぐに状況を理解し、プラーミャを連れて別の場所に向かった


書斎についたのは、俺とハビアンだけだった


あたたかな光も、暖炉も、今は柔らかな気持ちにはしてくれない


レガトゥスは昨日と同じにイスに腰掛け、にこにことこちらを見ていた


「初任務、お疲れ様でしタ。さて…少年よ、なにか言いたいことがあるようですネ?」


やはりわかっていたようだ

思惑通りなのは気に食わないが、俺は強い口調でレガトゥスに言った


「アムンストの元は人間でした。当然知ってましたよね?」


レガトゥスは笑顔を絶やすことなく答えた

「ええそうです。詳細はわかりませんガ、彼らは間違いなく人間でしタ。…元はネ?」


「殺す以外の方法はないのですか?」

「今はありませン」


あっさりと断言する

「なぜそう言えるのですか?」


「彼らを保護し、研究しようと試みたところ、彼らは自ら命を絶ちましタ。はなから我々に情報を与えるつもりはないようですネ」


笑顔は変わらないが、レガトゥスはまっすぐにこちらを見て、たんたんと事実を述べる


研究しようとしたことはあったのか…


だからといって人を殺すことに納得はできないが、少し熱が冷めてきた


それと同時に、罪悪感が生まれてきた


プラーミャは、たくさんのアムンストを見てきたうえであの答えにたどり着いたのだろうか


なのに俺は頭ごなしに怒って、責めて…ひどいことを言ってしまった


俺は思うままにレガトゥスに言った

「俺は…どんなことがあろうと人間を殺すことに納得できません。それをプラーミャに責め立てました。その時俺は…プラーミャの右腕を見ました」


レガトゥスは俺の話を興味ありげに体を前にして、机に肘をたてて聞いている


「あれは…人間の腕ではありせんでした。彼女自身、自分のことを人間ではないと言いました。…このことについても、あなたはなにか知っているのですか?」


レガトゥスはゆっくりと椅子にもたれ顎をさすり、少し間を置いて口を開いた


「…我々は人間ではありませン。我々は人間にも、他の生き物にもなり損ねた【まがいもの】デス」


…言葉が出なかった

生き物でも、なにものでもないもの…その証が、あの腕なのだろうか


「プラーミャだけではありませン。私も、ハビアンもオースも、皆どこかにあのようなものを持っています。我々はそれらを総じて【罰】と呼んでいまス。【罰持ち】である我々は…人間になろうともなれないのですヨ」


頭の中でプラーミャの言葉を思い出した

プラーミャの言っていた【あれ】とは罰のことを言っていたのか


あれ、もし、もしも本当にメディウムの人たちに等しくあるものが【罰持ちであること】だというなら…俺はなんなんだ?


俺に罰と呼ばれるようなものは見当たらない

じゃあ俺はなんだ?


なんで俺はこの人たちの仲間なんだ?


俺が困惑しているのがわかったのか、レガトゥスは微笑みながら言った

「罰にはそれぞれ特殊な力が備わっていまス。少年よ、君は確かに見る限り罰を持っているようには見えませン。しかし、私は確かに私の能力を使い、君を見つけましタ。我々と共にいれば、いつしかその力が姿を現すでしょう」


レガトゥスはその長めの髪を耳にかけた


その耳はプラーミャ同様人間の耳ではなく、尖っていて力強く、ドラゴンかなにかの耳のようだった


これが罰…じゃあ俺にはどんな力があるというのだろう


「ただし、罰は放っておくととても危険デス。特殊な力を使えば数日はなにもできないほどに疲弊する場合もありまス。そのためメディウムの者たちにはむやみな力の使用は禁止していまス。無意識に力を使ってしまうことがないように、早めに見つけなくてはですネ。」


レガトゥスは髪をおろして耳を隠し、少し困ったような表情を見せたが、それもわざとらしく見える


この人は奥底では楽しんでいるのだろう

俺がすべてを知ろうと模索しているこの状況を


「まぁ今日はゆっくり休みなさい、少年よ。己の力を知るにはまず経験が大切ですヨ。君がどれほど心苦しかろうと、アムンストが他の人々を傷つけるのであれば我々は殺すのみでス。もし、助けたいと思うなら、自ら動き、なにかを探しなさい」


レガトゥスはにんまりと笑った

結局ヒントを与えるだけで答えは捜させるのか


…やってやる

人間も、アムンストも、誰も死なせたくない


そう強く心に誓うと、それに答えるように胸が熱くなったような気がした




第8話へ続く

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