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ゼーン ~戦火に咲く灰色の花~  作者: ちゅーおー
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第16話

視点:プラーミャ




いつものように準備運動をし、念入りに脚を伸ばす

軽く地面を蹴り、調子を確認する

ふわりと髪がなびく

体は軽い

よし、いつも通りだ

やれる


アムンストはまた雄叫びをあげる


二人のほうを向く

二人とも怯えた目をしていた

まぁそれはそうか

対して落ち着いている私が場違いに感じる


あぁ、こんなところも普通じゃないのかな


化け物なんて久しぶりに言われた


まずアムンストをレガトゥスが発見してから私たちがそこに向かうまでの間に、たいていの地区は全員避難が完了するから人に見られることなんてないはずなのだが…


化け物と言われたのは少しこたえた

まぁ確かに人間じゃないし、否定はできないのだが

右腕を無意識のうちに左腕で押さえていた


わかってはいるのに、これが避けられないことだってわかっているのに…

この腕がなかったら、普通の人のように年をとっていれば…化け物とは言われないのかな


はっと我に返り、頭を振る

右耳のイヤリングが小さな音をたてて揺れた

そのイヤリングをそっとおさえる

目を閉じて深呼吸をし、気持ちを落ち着かせる


考えても無駄なことは忘れよう

私に今できることを考えなくちゃ

…私には今、何ができる?


怯えた様子の二人を見下ろし、口を開いた

「死にたくなかったらここに隠れてて。私が合図したらすぐに別の建物の隙間に移動して」

端的にそれだけ言うと、二人は小さくうなずいた


それを見届けると、さっさと路地裏から出た

ここにいすぎたら危険だ

アムンストのいる方向へ走る


アムンストは私に気づき、再び雄叫びをあげる

その両翼の先端には先程の槍のようなものがついている

羽根を振れば飛んでくる要領か


アムンストは羽根を大きく使い、空高く飛ぶ

私はさらにスピードをあげ、アムンストの近くへ向かう


距離をつめなくては、空から広く見渡せばあの二人が見つかる可能性もある

私に集中させないと―


アムンストは羽根を再び振る

こちらに向かって黒く鋭い槍が飛んできた


羽ばたくのか槍を飛ばしてくるのか、咄嗟に判断するのが難しい

だが槍は大きく目測が読みやすいから問題ない

地面を蹴り、近くの建物の壁に飛び移り、窓に手をかけた

さっき私のいた地面に槍が深々と突き刺さる

なるほど、結構正確なようだ


壁を蹴り、一回転して地面に着地する

槍が刺さった場所は地面がえぐられ、石だたみのレンガが砕けている

そこに突き刺さった黒い槍は次の瞬間、灰のように崩れ風に流された


アムンストは気味の悪い声を出す

まるで笑っているようだ


「知能型」だろうか

槍を飛ばす正確さを見ると、なかなかの知能はありそうだ

でもその攻撃は羽根から槍を飛ばすだけと単調

こちらが流れにのまれなければ大丈夫だろう


ただ…飛び道具は苦手なんだよな


足技と飛び道具では足技のほうが圧倒的に不利

おまけに空まで飛ばれるのは厄介だ


アムンストは犠牲となった人間の能力に対応して姿を変える

大方このアムンストの中の人間は、槍を日常的に使用する門番か兵士のような役職の人間なのだろう


私が初めてアムンストを見つけたのは私が6歳のときだった

その黒くおぞましい姿に竦み上がったのを覚えている


剣などの武器を使うことを得意としなかった私に、レガトゥスは脚を主とする体術を手取り足取り教えてくれた


そうして初めてアムンストの体を貫いたとき、私は絶望した


人間を、私はその時初めて殺した


だが目の前で息をしなくなったその人は、私の腕を見たら化け物と騒ぐのだろう

皮肉な話だ


幾度となくレガトゥスに尋ねた

なぜ人間を助けなくてはならないのか、と

なぜ自分達を忌み嫌う人間を殺す人間を、自分達が止めるのだ、と


レガトゥスはその度に同じ答えを私に言った

例え我々を恐れようとも、嫌おうとも、殺されていい人間などいない、と


私はその言葉を信じて進むと決めた

アムンストが人間を殺すのならば、私はアムンストを殺す

例え化け物と言われようとも、助けられる人間には手をさしのべる


そうすればいつか…わかってくれると信じて―


アムンストが羽根を大きく広げる

すると細かい黒い粒子が羽根の先端に集まり、先ほどの槍に姿を変えた

形成し直すまでの時間は短そうだ


私が今できること…

それは、あの二人を守ること

バレーノが彼らを助けるまで、時間を稼ぐこと


アムンストのほうをまっすぐ見つめ、再び地面を蹴り感覚を確認する


バレーノはアムンストも助けたいと言った

でも私はそれは難しいと思う

私たちには手の届く範囲の人間しか助けることはできないし、許されないと思うから


だからごめんなさい


胸の中で、そうアムンストに謝罪した


私はあなたを、殺さなくてはならない


タンタンと地面を蹴り、体をはずませる


…やっぱり私は普通じゃないんだろう

体から力が溢れ出すようだ

胸がざわつく

揺れる髪とイヤリングの間を風が吹き抜ける

不思議と笑みを浮かべそうになる


まるで―これからの戦闘に胸踊るように


ガツンッと勢いよく脚を踏みしめる

その衝撃で地面のレンガにヒビが入った

顔を上げる


その目はきっと、輝いていたのだろう―


「さぁ、やろっか」




第17話へ続く

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