表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼーン ~戦火に咲く灰色の花~  作者: ちゅーおー
18/25

第15話

視点:バレーノ




静まり返った町で、確かにその声は聞こえた

避難は完了しているはずじゃ…?

俺もプラーミャも立ち止まり、声の主を探す


声の主は建物と建物の間の冷たい影が覆い被さった路地裏にいた


俺と同い年くらいの少年と、10歳くらいと思われる少女だ

同じ髪の色、目の色、顔だちも似ているところから見ると、この二人は兄弟なのだろう

二人とも薄い麻の服を着て、裸足だった


そしてその二人の鎖骨付近には、見覚えのある紋章があった


奴隷―


俺たちはゆっくりと二人のいる路地裏に入っていった


俺が黙ったままでいると、少年が再び

「お前…バレーノだよな?」

と俺に尋ねた


そうだと答え終わる前に、その少年は俺に詰めより、胸ぐらを掴んできた。


突然の出来事に俺もプラーミャも驚いていると、少年は大きな声で怒鳴った

「お前の!お前のせいで!俺たちは…」


少年はそこで黙った

下を見ると、少女が少年にぎゅっと抱きついていた


少年はまだ何か言いたそうだったが、唇を噛み、おとなしく手を離した


俺は何も言えないでいた

少年の表情にはもちろん怒りがこもっていたが、そこには確かに悲しみと絶望も映っていた


息の上がった少年は自分を落ち着かせ、再び俺をきっと睨んだ

「主の一番のお気に入りさんは俺たちの顔すら覚えてないんだな」


そうか、彼らは北地区にいる町長の奴隷か

そう言われると見たことがある気もする

西地区によく物品の運送を任されていた奴隷は何人かいた

その中に兄弟と思われる奴隷がいた…と思う


でも…はっきりとは覚えていない


「お前がいなくなったせいで主は仕事も上手くいかず、更に奴隷にきつくあたるようになった。奴隷たちの仕事も増えて、ろくに眠れなくなった!なのに…」


少年はまっすぐに俺を睨む

「それなのにお前は服も紋章もなくなって…なんで、なんでお前だけ自由になってるんだよ!」


俺は何も言えなかった

背中に冷たい水をかけられたような感覚に陥る


そうだ、なんで俺だけが自由になってるんだ

人間じゃないから?普通じゃないから?


まだ同じ立場で苦しんでいる人がいるのに、俺は…自分が自由になったことをいいことに…


なんだ、結局俺は立場が変わっても、周りのことなんて全然見えてなかったんじゃないか―


その時、ポンと強く背中を叩かれた

プラーミャが俺の前に立つ

少年のほうをまっすぐに見据える

「それが彼の運命だったからよ」


「運命?それは俺たちが更に苦しめる方向へ進むことが正しいのか?!」


「違う。そうじゃない。誰しも与えられた道でまっすぐに進むことが正しいの。彼には他の道があって、彼がそれを見つけただけ」


「なんだよ、俺たちには他の道がないのに、バレーノにだけそんな明るい道があるって言うのか?!」


「…あなたは知らないだけ。今の道だって、まっすぐ進んでいればそれだけで人間は美しいの。バレーノの選んだこの道だって、決して明るいものじゃない。それでも彼は、この道を進むと決めたの。それだけよ」


プラーミャは俺のほうを見ることなく少年の言葉にたんたんと答える

その言葉は全て、俺に向けられたものではないのに…俺の心を包んでくれるようだった


それぞれの道をまっすぐに進めばそれが正しい…か

背筋がピンと延びるような感覚になった


だが少年はなおも怒りが収まることはなかった

「はっ、わかったよ。お前もバレーノと同じ化け物なんだろ?人間じゃねえからそんなこと言えるんだ!」


ピタリと空気が静かになった

プラーミャは動かない

だが間違いなくその表情はひきつっただろう

俺は咄嗟にプラーミャを庇うように立ち、少年を睨んだ


少年は俺のほうを見て怒鳴る

「俺は知ってたぞバレーノ。たまたま主が客人に話してるのを聞いたんだ。お前らは普通じゃない。気味の悪い化け物だ。そんなお前らに人間のことなんてわかるか!」


「お兄ちゃん!」

少年の背後でずっと黙っていた少女が大声で言った

少年ははっと口をつぐむ


俺も、プラーミャも、何も言わなかった


俺は冷静だった

化け物…か

やはり人間からみたら俺たちはそうなのだろうか


少年が本心で全て話したわけでないことはわかった

辛く、苦しい現状で、その原因とも言える俺と、その俺を蔑む要素があるのだから、咄嗟に出てしまったのだろう


だがそれでも、プラーミャにまでその言葉をぶつけるのは筋違いだ


少年はうつむき、ただ一言ごめんと言った

その震えた声が、悔しさを、悲しみを、強く物語っていた


しばらくの間、誰も言葉を発することはなかった

風向きのせいで、沈黙の続く路地裏に物音をたてるものはない


その沈黙を破るようにプラーミャが重い口を開いた

「…避難の指示は出ていたはずよ。どうしてまだここにいるの?」


少年と少女は表情を曇らせた

そして少年がぽつりと言った

「…逃げられないんだ」


「…?どうして?」


少年は静かに続けた

「…主の命令で…西地区の得意先に物品を手渡せと…でも得意先の人たちはもう逃げてしまった…だからまだ命令に従えていない」


プラーミャはなぜ従うのだと言いたそうだったが、俺がそれを止めた


俺には彼らの言葉の意味が痛いほど理解できたからだ


主の命令は奴隷にとって絶対

奴隷の命に関わる命令を除き、その他の命令は契約化される

契約は一度結ばれたら、その後どのようなことがあっても必ず遂行しなくてはならない

それに従わなかった場合、紋章を通して全身に致死量の電撃が流れる


…言うことを聞けない物はいらないということだ


そのことを教えると、プラーミャの表情が再びひきつった


俺は焦る気持ちをおさえ、少年に尋ねた

「いつまでに届けろと言われた?」


「…午後…3時までに」


俺とプラーミャは急いで路地裏から出て近くの店にある時計を見る

…午後1時半

まずい


アムンストをこの地区から引き離すことはできるのか?

それが無理なら、アムンストが西地区を出ることはない

西地区は広いが、二人が見つかるのも時間の問題だろう

…調査を諦めてアムンストを見つけ次第すぐに倒したとしても、避難した人たちがすぐ戻ってくるとは限らない


どうする…どうする?


突然、ぶわっと胸が浮き立つように騒いだ

まさか…!


パッと周囲を見回すと、陳列する建物のある1つの屋根の上に…黒い生き物がいた


アムンスト―


昨日のやつとは違い比較的すらっとした体で、やはり黒く固い鎧のような、うろこのようなもので全身覆われている


そいつが気味の悪い声で叫ぶ

すると背中から黒く骨ばった羽根のようなものが広がり、それを一振りした瞬間―黒い槍のようなものが俺たちめがけて飛んできた


嘘だろそんなことができるのか

俺は動けなかった

体がすくんだように動かない

槍が、まっすぐに、俺めがけて―


と、金属と金属がぶつかり合うような音がした

プラーミャが横から蹴りで槍を近くの建物のほうへ蹴り飛ばしたのだ


槍が建物にめり込む大きな音が西地区に響く


間髪いれずにプラーミャはコートからピストルのようなものを取り出し、真上に向かって引き金を引いた


瓦礫の音に続き、乾いた音がこだました

空に合図のように赤い煙が上がる


アムンストは再び槍を飛ばしてこようと羽根を広げる

俺たちは少年と少女のいる路地裏に逃げ込んだ


そこでプラーミャはまっすぐに俺を見て言った

「応援を呼んだ。多少は私一人でもこの子達を守って戦える。…君はどうしたい?」


俺は二人を見た

あまりの出来事に二人とも震えている


俺は今まで誰にも興味をもたず、自分がこうであればそれでいいと思って、彼らのようにたくさんの人を苦しめてきたんだろう

そんな俺が、今だからできること…自由になったからこそできること―


俺には…なにができる?


俺はプラーミャのほうを向き、まっすぐにその赤い瞳の目を見つめ、答えた


「…北地区へ行ってくる」


プラーミャは瞬き1つせずうなずいた

そして続けた

「気を付けて。決して、答えを間違えないで」


その瞬間は、なにについての答えなのかわからなかった

だがそれを聞き返す時間などない


俺は路地裏を飛び出し、アムンストの雄叫びが聞こえる中、それに背を向け走り出した




第16話へ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ