クライツェル無双~最強は研究者やったんやで~
あ、嘘です。
更新までに1ヶ月もかかってすいません。
「へえ…君が香山君なんだ。はじめまして、私はトマサ・アルベルダ。ここで、研究員をやっている。よろしく」
クライツェルに導かれて入った部屋には、女性がいた。
彼女は、そろそろ40に手が届くころだろうか、眼尻にしわが見て取れる。
その反面、体から立ち上る覇気は隠しようがないもので、徹はできるだけ逆らわないでいこうと思った。
部屋の中央には大きなモニターがあり、そのモニターには各層の映像が映っていた。
「よろしくお願いします、Dr.アルベルダ」
クライツェルも、案内して早々にコーヒーを入れに奥へ入ってしまっている。
「へえ、それなりに手豆ができているけど、年季が入ったものではないわね。あなた何者なの?どこからきたの?」
「ええっと、蓬莱から?」
アルベルダの差し出された手にうかつに反応して握手してしまった徹は、握手されたままそう聞かれる。
「私は、クライツェルほどおめでたくはないつもりなんだけど。こんなところで立ち話をするのも変ね、こちらへどうぞ。…いやねえ、椅子に変な仕掛けなんてないわよ」
立たせたままでいるのは、失礼だと気づいたのか、徹に椅子を勧めるが、徹も何か椅子に仕掛けがしているのではないかと警戒しなかなか座らない。
そんな様子に、アルベルダが文句を言っていると、コーヒーを人数分入れたクライツェルが戻ってきて、同じように座るように促すので、徹も意を決して、座ることにした。
「そんなに椅子が気になったのかい?警戒心が強いんだね、君は」
「いや、お隣の国では、椅子が爆発してお尻の穴とパソコンが崩壊したって話を聞きましてね。そういえば、コーラも爆発したとかも…」
「それは、なかなかおしゃれな国だねえ…ま、それはいいとしても、香山君もいろいろと聞きたいことがあるんじゃないかな?たとえば、僕らが今何をやっているのかとかね」
「教えてもらえるのならぜひ」
教えるといったもののクライツェルはコーヒーをおいしそうにすするだけで、全く話をする気配がない。
徹は仕方なしにコーヒーを飲むふりをしていると、やっとクライツェルは口を開けた。
「うん、さてどこから説明したらいいかな?まず、『プロジェクト:ディーナシー』ついて説明する前に、僕らの置かれている状況から説明した方がいいかな?」
「はい、お願いします」
「そうだね…
地上は、核の炎に包まれ、空には一面厚い雲に覆われていた。
終わったはずの氷河期が再び現れ、大地は凍りすべての生き物が、劇的に数を減らしていった。
当然のように人類は大混乱に陥った。
逃げまどい、責任を他に要求し、そして死んでいく。
その中でも一握りの人間だけが、シェルターに逃げ込むことに成功した。
クライツェルもそんな幸運な人間の中の一人だった。
クライツェルは当時軍の技術者だった。
その能力故に、シェルターの管理者として、生き延びたのだった。
といっても、ここは厳密にはシェルターではなく、シェルターの能力を保有した、一大軍事基地だったらしい。
そのため、ここは広さに対して、人間の収容能力が低かった。
政府の高官、軍関係者、知識人、富豪そしてその家族といった権力に近いごく一部の人間だけを収容しただけであったが、人口はその軍事基地の収容能力の200%にまで達していた。
そうでなくとも、日光の届かない地下施設。食糧問題や衛生面の問題、栄養失調、閉鎖空間によるストレスといった多くの問題が発生していた。
これらの問題を解決するために、当時この施設を仕切っていた臨時政府が会議による会議を重ねた結果、ある科学者の案を採用する。
当時一般的に普及していた、コールドスリープを使うことを。
この案を提出した科学者によれば、地上が再び緑が根付くまでに約10年、そして、現地に生物が繁殖するまでにさらに10年、そして放射性物質が危険水準を大きく下回るまでに約200年という概算を提出していた。
これに基づき、人類は200年の眠りにつくことになった。
この時、幸運だったのが、この施設が、研究、生産、運用、回収、再利用のすべてを一個の施設内で行うことを目的としてつくられた施設だったことだった。
そのために、エネルギー源として利用可能な原油や希少鉱物に困ることはなく、5年ほどの年月をかけて、全員分のコールドスリープを作成し、眠りにつくことを可能にした。
だが、すべての人間が眠ると管理者がいないため、技術者が二人一組となり、2年交代で管理をすることとなった。
それからは、特に問題という問題は発生せずに20年ほどの月日が流れた。
管理者たちは、たびたび地上に観測機をとばし、地上の状況を探っていた。
そして、緑が茂り、野生動物がちらほらと観測できるようになる頃には、再び地上で生活することを胸に抱き、夢見るようになっていた。
「へ~。なんか、よくあるSFの話っぽいですね。何のひねりもない」
「まあ、そういうなって、人間のやることなんてどうせ人間の想像を超えないさ。超えるのは自然の摂理の方だろう。この時も、予想だにしなかったのは、やはり自然の方だったんだよ」
だが、地下生活には何の刺激もなかった。
そのために管理者たちは、日々の暇を紛らわすために、地上へ観測機を飛ばすことが習慣となっていた。
ある者は長い地下生活の暇つぶしに、またある者は再び地上へ戻る日を夢見て。
そして、ある日見つけてしまう。
人間がいなくなった地上には、新しい支配者が現れていたことを。
それは、地上から人間がいなくなってからちょうど30年目の事だった。
確認されたその新しい支配者は、犬の体に猿の顔をもち尾は蛇のようにうろこが生えており、先が二股に分かれている。
当初、放射性物質による突然変異だと考えられていたが……
「いいや違うね!そんなふうにわけのわからない変化をするほど放射能は万能ではないんだ!何でも放射能のせいにして思考を止めている!まあ、ダウン症みたいな遺伝子異常とか流産の増加とかは放射能が影響を及ぼしている可能性は高いがね」
興奮気味に机をたたきながら、声を荒げるクライツェルは、我に返ると罰が悪そうに頭を書いた。
「おっと、すまないちょっと熱が入りすぎてしまったよ。話を戻そう。地上を支配していたのは、香山君も実際に戦ったことがあるだろう?あの不思議生物のことさ」
「…鵺ですか?」
「ああ、僕も最初は気づかなかったが、彼らは蓬莱の書物にちゃんと乗っていたよ。なんだっけね。」
クライツェルは、手元のディスクをいじって机の上に文字を浮かび上がらせた。
その文字を、見ながら滔々と語りだす。
「― 一の矢にて変化のもの射損ずる程ならば、二の矢には、雅頼の弁の、しゃ頸の骨を射んと。たいまつをとぼし、ろうそくをつけて正体をよく見ますと頭は猿、躯は虎、尾は蛇、手足は狸の如くにて、鳴く声、鵺にぞ似たりける―
頼朝という人間が弓を以て射殺したといっている。そのあとにかかれている、鵺の正体が、頭は猿、体は虎、尾は蛇、四肢は狸といって、ほぼ特徴が一致するんだ」
「つまり、彼らは、地上の環境が変わる前からいたと?」
「ああ、そういうことだ。空想上の生き物だと思われていた鵺が、実は存在していたんだ。だが、人間との生存競争に敗れ数を減らして絶滅しかけていた。だが、地上から人間がいなくなると同時に再び地上に舞い戻ってきたんだ」
クライツェルは冷めたコーヒーを一すすりして、自嘲的に笑いながら続ける。
「この話を荒唐無稽だと思うかい?だが、これは別にない話じゃない。ザヴィートニクの原子力発電所が爆ぜたときにも、似たような現象が起こったんだ。放射能の影響によって人間が入らなくなった土地で、絶滅していたと思われていたブルガルド、別名をアイベックスという山羊の仲間が確認されている。それに何より、そっちの方がロマンがあるだろう?」
そういって、いたずら小僧のような笑みを上げるクライツェルに徹は、苦笑いを返すしかしなかった。
そんな、徹の反応を気にした風もなく、クライツェルは楽しそうに話を続ける。
「まあ、そんなこんなで僕らは、人類の敵と出会ってしまったわけだ。彼らは、さすがに書物に乗っていたように、雲を操り不思議な現象を越したなんてことはしないが、彼らは頭がいい。独自のコミュニケーション方法をもち、普段はそれぞれの縄張りで生きているが、必要性があればそれまでのしがらみを捨てて簡単に群れる。その上、個体の身体能力が高い。普通の人間ならば2対1でも簡単に食い殺されてしまうよ…
だが、個体の能力や知性以上に厄介なことがあった。
それは、霊長類に対する異様なまでの敵愾心。
鵺の知性の高さや個体同士の意思疎通をしている点に目を付けた研究者たちは、最初は彼らとの平和的意思疎通を図ろうとしたが、すべて無駄に終わった。
餌付けをしようにも、餌に見向きもせずに人間を襲おうとする。
そればかりか、人工物に対しても異様な警戒をもち、地上の人工物はことごとく破壊されるという。
それも無理はなかった。
2000年以上人類によって、虐げられ、世界の片隅に追いやられ、息を殺して潜んでいた彼らに積もり積もった、人類への恨みつらみは骨の髄までしみついていた。
鵺たちは本能レベルで、人類という敵に怒り、恨み、そして恐怖していた。
彼らを再び地上へ開放することは、自分たちの滅びを意味すると、あれは滅ぼさなければならないものだと、なにより大きく勢力を減退させている今こそが乾坤一徹のチャンスであると悟っていた。
…当時は、地上に出した観測用の機器も片っ端から壊されたそうだ」
「予想以上に頭がいいですね」
「まあな、それから俺たちは、大きく方針転換することになったのさ。鵺と共存を目指すのではなく。近い将来、地上に放射性物質の影響が減少したときのために人類の生存圏を確保するというね」
「動物愛護団体(笑)もないでしょうから、その方が楽でしょうね」
「そんな化石みたいな集まりの事よく知っているな。動物保護なんて、デリケートなものはもともと民間で行えるような簡単なものじゃないさ。国主導でやっていたが、国自体がないのだから気にする必要もなかったな…
それから、第一次、第二次、とプランがたち失敗していった。
第一次プランは、鵺の天敵動物を作り、野に放つという事だったが、個体能力が高いヌエを率先して狙うような生物を作り出すことはできず失敗。
第二次プランは、戦闘用アンドロイドを使うという点だったが、地上に補給基地を作っても破壊され、かといって長時間運用もできず、アンドロイドを作るためのレアメタルも無限ではないため、使い捨てにするには無理があり、コストと運用面の問題が浮き彫りになりこのプランも失敗に終わった。
「ま、もともとの問題が、ここで眠っているやつらに戦える人間がいないってことなんだけどね」
「軍人はいないのですか?」
「いるよ。軍部のお偉いさんがね。もれなく全員腹が出ているけどね。前線で戦っているような下っ端は、ここには入る権利はなかったのさ。『ペンは剣より強し』さ。徹底的な、直接的な暴力に対する弾圧によって、『暴力をふるう=低俗』という認識を浸透させたのさ。政治権力のある意味弱点が、暴力だったからね。武力というものの社会的な地位は地に落としておかないと当時の権力者には不都合だったんだろ。そんな話はどうでもいいよね。結局僕たちは、地上に打って出るだけの戦力がないという現実に向き合わされることになったのさ…
だが、幸いなことに技術力があった。
そのために、彼ら研究者たちは足りない戦力を補うために第三のプロジェクト:ディーナシーを発案した。
第一次プランは、知性の低い動物を作り出したために失敗した。
第二次プランは、補給や生産性の問題で断念した。
そこで第三次プランは、知性のある戦闘用個体を作り出すこととなった。
人間をベースに、それぞれの動物種の特徴を付加し、放射性物質に対して抵抗性を示す個体を生み出すという試みは一様の成功を見た。
人に似て非なるものは、確かに人類良い高い身体能力を持っていた。
武器をもち、戦闘技術を磨けば、充分に鵺と戦えるだろう。
研究者は、彼らを亜人と呼んだ。
そこで再び問題が発生する。
この軍事基地では、人間を収容するスペースがないために、避難民をコールドスリープさせた。
当然のように多くの数の亜人を作り出し育てることはできない。
この問題を解決するために、亜人にこの軍事基地の出口を取り巻くように村をつくらせ、そこを住処とさせた。
だが、当然のように鵺の襲撃が予想される。
そのために、村の形をデザインし、外周にぐるりと高い外壁を巡らせた。
そしてできた箱庭に亜人たちを住まわせることとなった。
…いやさ。それでな、俺は街の様式を蓬莱っぽくしたかったんだけどさ。ほかのやつらがどうしても駄目だっていうんだ。だからせめても、祭りだけは、蓬莱っぽくね、『MIKOSI』ってやつを作らせたり、ちょいちょい、蓬莱の文字とか使わせてみたりだな」
「ああ、それで洋風建築の中身無駄に和風なものがあふれていたのですね。それにしては、迷宮の敵が、なんか純和風だったんだけど」
「そりゃあ、僕ががんばったんだよ。街の建築は譲ったから、迷宮の敵は俺にデザインさせろ!ってね。いやー、やっぱり蓬莱の妖怪っていうのは、単純な暴力をふるうものと違っていやらしいから、いいんだよ。すごく!1Fの鼠なんか最高だろ?無駄に内臓散らかすなんて最高じゃないか?」
「あれは、精神にきましたよ…。それで、なぜ迷宮なんて作ったのですか?」
「ああ、それはだな。割と多くの数の亜人を作ったんだけど…
亜人の数に対して、教育できるような人間が足りなかった。
そこで、独自で戦闘を習得し、研鑽するシステムを作ろうとしたのが始まりらしい。
街には、軍事基地からある程度の文化を供給し、単純な格闘技から始まって戦術に関する書籍を渡し、武器やその製造技術を渡し、そのすべての原料を迷宮に求めるように仕向けた。
広大な軍事基地の改造を行い迷宮とし、迷宮内で出てくるモンスターには、第一プランで使った技術を流用した。
こうしてプロジェクト:ディーナシーは一様の成功を収めた。
亜人は、迷宮に生活の基盤となる様々な原料を求めて侵入し、敵と戦い戦闘技術を高めていく。
それを後押ししたのが、一人の研究者の作ったレベルアップシステムだった。
…始まりは『こいつらレベルアップとかしたらRPGっぽいよな』の一言だったねー」
「適当ですね」
「でも、あのこもまた別の天才だったな。体に核性物質を埋め込み、それを中心にして筋肉や神経伝達の強化を図るという。核性物質は、同時にエネルギーの貯蔵庫の役割も持っていてね。それを専用の機械で返還するってわけさ。どうだい?話を聞いてもさっぱりわからないだろう。僕もさ!だからこれ以上詳しいことは聞かないでね4」
「ああ、街のクランにある機械ですね。それにしてもあれだけコンパクトな機械でそこまでの性能を持っているなんて、すごいことですね」
「そうそう、でもあれは端末に過ぎないよ。中枢制御をしているのは、ここにある。いざっていうときにすべての強化を無効できるためにという理由でここに置いてあるのさ」
(なるほどね。ゾネやゲオルグたちは、完全に戦闘用の家畜ってことか。すべては、ここに住んでいる人間様のために、彼らの手のひらで踊っているわけか…)
ここまで、しゃべり続けて喉が渇いたのか、クライツェルは残りのコーヒーを一気に飲み干した。
「さて、ここからが本題だ。だいたい状況は呑み込めたと思う。香山君には協力してほしいことがある。報酬だって満足するほどはらおう。といっても今の状況で金など意味がないね…。そうだな、衣食住は保証しよう。ここの施設は居住空間からレジャー施設まで好きに使って構わない。ああ、それと君も若いんだしいろいろと溜まるものもあるだろう。いま、この施設にいる女性はDr.アルベルダしかいないが、彼女はいささか旬を過ぎている。そこでだ、君の好みの亜人を好きなだけ作ろう。飽きたら捨ててくれても構わないよ。すぐに次のを作ろう」
クライツェルの頭には、『旬』のあたりのセリフのところでアルベルダのいる方向から飛んできたコーヒーカップが直撃していたが、全く気にせずまくしたてている。
一方、徹はクライツェルの物言いに若干イラッとするものを感じたが、おくびにも出さずに話を聞いている。
というよりは、しばらく前から人格を下位人格に任せて静観を保っていた。
「それで、いったい何を頼もうというのですか?報酬よりも、断った時の話の方が聞きたいですね」
「おうおう、やる気になってくれたか!そうか!」
クライツェルには都合のいい言葉しか聞こえていないらしく、後半の質問は無視された形となった。
「実は、このプロジェクトにはイレギュラーがあるんだ。その一つが、レベルアップシステムに付随してできた『スキル』というものさ。だが、あのシステムはあの天才が再びコールドスリープに入ってしまったから、全く手が付けられないのが現状さ。次に彼が起きる20年後に期待をかけるしかない。だけど、僕がどうしても解明したいのがもう一つのイレギュラーである『魔術』さ。このプロジェクトを開始しだしてから20年ほどで見られるようになった『魔術』というものの正体を知りたい」
徹は机に乗り出して、興奮するしぐさのクライツェルにやや芝居じみたものを感じて、アルベルダの方を見てみるが、彼女はポーカーフェイスで、暇そうに座っていた。
「何度か、亜人を捕まえたり、地上の連中に調べさせたりしたんだが、どうにも感覚的に行っている部分が多すぎる。僕らでは全く再現ができないんだ。亜人にしかできない技術、もしくは、亜人特有の生体器官によるものではないかという仮説まで出てきて、研究がとん挫しかけていた…だが、そこに希望の光が現れたのさ!それが君だ。地上から、魔術を使う人間種が現れたと聞いて、僕は小躍りまでしたね!だって、僕にも魔術を使えるのかもしれないのだよ!それに、魔術なんて誰も解明できたことのない全く新しい分野のパイオニアになれる。これほど研究者冥利に尽きることはない!」
「そうですか。それで、断ったらどうするのですか?」
徹のその質問に、驚愕の表情でクライツェルは答える。
「さすがに、同朋に手を出すことはできないさ。残念だけど君が嫌だというのなら、君が行きたいところに行けばいい」
クライツェルの声は残念だといっているが、その響きに全く残念そうな気配はなかった。
「ただ、僕はいつも道理、あれで研究するだけだよ」
そういったクライツェルの視線の先にある扉が開いて、一つの人影が出てきた。
それは、徹が依然戦った経験のあるチェイサーの姿だった。
チェイサーの体、はところどころ凹みがあり、これまで激しい戦いがあった後を示していた。
だが、クライツェルがさしたのは、チェイサーではなく、チェイサーが引きづって持ってきた4つのヒトガタだった。
「…薬で眠らせたのか」
「ふふふ、ご名答。やっぱり君を敵に回したくないね。彼らは手ごわかったさ。僕らの自慢のチェイサーと互角に戦っていたのだもの。戦闘している部屋に、睡眠ガスを充満させたら見事にかかってくれたよ」
「さすがにそこまで、入念に罠を張られたら、あいつらじゃしんどいな」
(やられたな。さて、あいつらを人質に取られた状況で、どうするかだな…。見ず知らずのこいつらに俺の―神崎さんの『魔術』を教えるなんて、ありえないな。それに脅迫された状況で、魔術の秘儀を他人に漏らすなんて、魔術師として失格だ。俺は、ここで魔術をクライツェルに渡せば、この先二度と魔術として再起はできない。見捨てるか、助けるか…ここで、世話になるか、地上に戻るか…てか、|ヴォルフ《魔道書をくれた犬耳野郎》は、いったい何を考えて俺をこの世界に放り込んだんだ?)
なんかルビがふれないんだけど、なんでだろう?
誰か、おーせーてー




