話が長い!しかも終わってない!
すいますいません。2週間ほど開いてしまいました。
忙しくて吐きそうです。
でも終わらすので長い目で付き合ってくださると助かります。
「なあ…カーマさんの予想が外れたってことはないの?」
「それはないね!外れたのならば、俺たちは死んでいるはずさ。現に俺たちが五体満足で生きているということが、予想が正しいと物語っているんだよ」
徹はエッカルトがポツリつぶやいた疑問を速攻でつぶした。
落とし穴の先にあった部屋に閉じ込められて約一時間、15m四方の部屋には何もなく、初めは何が起こるかと身構えていた一行だが、次第に緊張感も持続しなくだらけてきている。
その中徹は、緊張を持ってくるべき戦いのために体と心を休めていた。
(そろそろ、使った魔力も回復してきたし、体も万全になったかな。これ以上はみんながだらけるからそろそろか…)
「そういえば、みんなに言ってなかったな。このパーティーのサブリーダーはカシアだから。俺がいないときは、カシアに従うように」
「は?何言っているの?こんな時に」
徹はカシアたちの困惑を無視する形で、立ち上がりみんなとは反対の方向に歩いていく。
「いやー大事なことだよ。世の中に絶対はないからね。もっと早く言わなきゃいけなかったけど、こんなギリギリになって悪かった」
そういいながらも、徹は歩みを緩めず、みるみる間にカシアたちが休んでいる場所とは反対側の壁についてしまった。
カシアたちはというと、徹の行動に混乱して、思考が追い付いていなかった。
「まあ、なんていうか。そろそろ飽きたから、ディーナシーの思惑に乗ってやろうかと思ってね」
その言葉を待っていたとばかりに、徹とカシアたちの間には天井から透明な壁が競り降りてきた。
壁が地面に突き刺さる大きな音を聞いて我に返ったコンラドが、急いで壁に駆けよるが、叩いても引いてもうんともすんとも言わなかった。
その壁は、透明なアクリルのような感触の壁だったが、その高度は異様なほど高かった。
大槌を以て全力でたたいても凹みすらできない。
「ごれは、どういう事だ!ガーマ!」
徹に裏切られたと勘違いしたコンラドは憤怒の声を上げて壁をたたく。
「いや、どういう事って、さっき言ったように。ディーナシーの思惑に乗るってだけだよ?このままじゃどうしようもないからね。それに詳しいことは、本人に聞いた方がいいんじゃない?」
幸いな事(?)に壁は、声までもさえぎることはなかった。
徹が上をむくと、コンラドもつられて顔を上げる。
その視線の先にある天井には、注意してみないとわからないような小さいレンズがはまっていた。
『ふむ。カーマ君といったかね。君は、なかなか鋭いね』
どこからかわからないというよりは、部屋全体から声が響いてきた。
部屋の壁を振動させることによって、声の出所をわからないようにしていただけだが。
その効果はてきめんで、どこからかわからない場所から聞こえてくる不可思議な声に、カシアもコンラドもエッカルトもフィーネも飲まれて怖気づいていた。
その中でもカシアは、部屋中から響いてくる声に神秘性を感じて、膝をついてしまっている。
「なんか、褒めているところ悪いんだけど、それってバカにしすぎじゃないか?あれだけあからさまに、ラブコール駆けられればあほでもわかるぜ。今だって、俺たちを丁度分断できるように待っていたんだろ?」
ディーナシーの小細工を鼻で笑いう。
徹は、ディーナシーのやり方が稚拙で、どうにも気に入らなかった。
まるで、有り余る技術力で無理やり劇画を演出しようとする三流映画監督のように、思えて興ざめだった。
ところどころに意図が見え見えで、気持ち悪いのだ。
『いうてくれるわ。目上の者には、敬意を払うものじゃぞ』
その態度を、不遜ととったディーナシーは、露骨に嫌そうに苦言を呈する。
「はん。目上?敬意?馬鹿じゃないのか?こんな建物の中にこもっている引きこもりにどんな敬意を払えっていうんだ?それ以前に、顔も見せないような奴に礼儀も糞もないだろう」
『言いよるな小僧、いいだろう。そこまで言うならばわれの前に来い。ただし一人でな』
ディーナシーの声が響くとともに、カシアたちがいるスペースの床が抜けた。
悲鳴と共に、カシアたちが落ちていくのがわかる。
(ダブル落とし穴とは、原始的だが効果的だな…)
『邪魔者は居なくなったからの。そこから中に入って来い』
声につられて振り向くとそこには今までなかった通路が出現していた。
「いっつつつ」
落とし穴に落ちたエッカルトは臀部を強打していた。
他の人たちも大けがした後はない。
11層にあった直角に落ちる落とし穴と違い、やや急な傾斜を持つ落とし穴であったことと大した距離をおちたわけじゃないことが幸いしたようだ。
「あっ…みんなは!?」
我に返ったエッカルトが、周りを見渡せば、うずくまるみんなの姿が見える。
(よかった…みんな無事みたいだ)
「フィーネ、大丈夫?」
近寄っても、立ち上がる気配のないフィーネに心配して声をかけると、フィーネはエッカルトの胸倉をつかんで引き寄せた。
そしてそのまま引きずって行こうとする。
「なんだよ?なんだっていうんだよ?」
予想以上の力で引きずられたエッカルトは首だけ回して後ろに振り替える。
そこには、コンラドの大槌にも引けを取らないハルバートを持ったヒトガタがいた。
「チェイサー…」
―シュイン
近未来的な音を立てて扉はスライドした。
徹は、何のためらいもなくその扉をくぐると、そこにはこぎれいな部屋があった。
全体的に白で統一され、清潔さを醸し出していた。
中央には丸いテーブルを囲むように椅子が6個ほどおかれている。
(んー?待合室?)
心の中で、そう評価すると徹が入ってきたものとは反対側の扉が開いた。
そこからは、白衣を着たおっさん…ではなく、つなぎをきたおっさんが現れた。
つなぎはところどころ汚れており、遠目にもシミが見て取れる。
メガネはかけてはいないが、顎に生えていた無精ひげをあわてて剃ったのか剃り残しがある。
どこからどう見ても、中年のくたびれたおっさんである。
「やあ、カーマ君だっけ?」
おっさんはにこやかに手を上げて挨拶をしてきた。
その笑顔はまるで、子供が新しいおもちゃを買ってもらったように無邪気なものだった。
「はい。香山徹といいます。あなたは…ディーナシーでいいですか?いや、ディーナシーは総称か何かなのでしょうか?」
「ほほう。君は、察しがいいね。まあ、僕はただの人間だよ。僕の名前は、クライツェル・グラッセンというんだ。それにしても君の名前、香山徹?もしかして、蓬莱の人間?僕は、蓬莱のことが大好きなんだ!」
ただでさえ大きい目を限界まで広げて楽しそうにしゃべるクライツェルに、早々と嫌気を感じた。
「蓬莱?一応出身は日本なんだけどね。それにしても、名前をはっきりと発音できるなんてこちらに来て初めて会ったんだけど」
「なんだい?にほん?そういえば、香山くんは訪問者ギルドの登録書にそうかいてたっけ?にほんは蓬莱の事じゃないのかい?ああ、蓬莱にある“日本”という名前のシェルターだったのかい?香山なんて名前は蓬莱人のものじゃないか。隠す必要なんてないんだよ」
(う~ん。やっぱりここは、ガチで異世界か。でも、俺のいた世界に類似した世界ってことかね?)
徹は、クライツェルの言葉に答えずに首をすくめて反応を示した。
「ああ、そうかそうか。すまない。君のその若さだともしかして、“あれ”の後に生まれたのかい?まあ、あれからそろそろ70年近くなるしね。君みたいに“あれ”を知らない世代がいても仕方ないよね」
「“あれ”?あれってなんのことです?それにクライツェルさんもいくらも歳が違うようには見えないのですが?」
「ん?あれといったら、決まっているだろう?もしかして、君しらないのかい?全く蓬莱の教育システムはどうなっているんだか…まあいい。僕が言っているのは、人間が地上に住めなくなった日のことさ。あの日から何度かコールドスリープで寝ているからね。その分年を取っていないのさ」
「そうなのですか。残念ながら、僕はその日のことについてよく知らないので、詳しく教えてもらってもいいですか?」
「おっと、そうなのかい?仕方ないな。長い話になるから、ちょっと歩きながら話そう。ついてきてくれるかい?」
クライツェルは、徹を伴って入ってきた扉へと向かっていく。
徹も彼の隣を歩きながら、話を聞いていた。
「香山君は、われわれ人間がエネルギー問題を劇的に解決したことを知っているかい?」
「エネルギー問題ですか?ええっと、石油が枯渇したとかですか?」
「ああ、そうだね。それもあるんだが、本命は原子炉の方だね。それまで、不安定な原子炉を無理やり、やりくりして運用していたんだ。当時の技術でも、めったなことが無ければ危険はなかったんだ。それでも、世界にはゼロリスクなんてものはない。だからこそ、原子力エネルギー問題が浮上した。爆発した時のリスクが高すぎるんでね」
「なるほど。それで原子炉を廃炉にしようという流れができたのですね」
「ああ、世の中そんなに簡単ではなかったよ。民間では早くからその流れが多かったみたいだけど、所詮世の中を動かしているのは、中流階級以上の人間さ。そこは、利権やらなんやらとエネルギー問題も相まって遅々として進まなかったらしいよ。僕らの生まれたころには、あの程度の対策で原子炉を運用していたなんてキチガイ沙汰とまでいわれていたけどねえ」
「まあ、技術発展の歴史なんてそういうものだと思いますが。特に原子炉なんてものは利権とか、そういうごちゃごちゃしたものがついて回りますしね…」
「そうなんだよね、政治的なものもあってただ危険だからで収まる話ではないからね。でも、重要なのはそこじゃないんだ。人々の意識にエネルギー転換・新エネルギーへの渇望が現れたのが重要なのさ」
「ええっと…人の意志によって、新エネルギーの開発が劇的に進んだのですね」
「そうさ!そうだとも、ここで一人の天才が出てくるんだ。彼の名をアルフレッド大尉という」
「大尉?軍人ですか?…そうか技術将校ですね」
「うんうん。そうそう、大尉はだね。軍の支援を受けて、原子炉の安定化を成功させたのだよ。まったく、僕もその論文を読んだけど、彼の正気を疑ったね。だって、不安定になることによって、エネルギーをとりだせる原子炉を安定化させるんだよ?まったく矛盾していることを現実になしてしまった。天才なんて言葉じゃ、足りない。彼は神にも等しい」
ちょうど、その時、徹たちは重々しい扉についた。その扉にはエアーカーテンがついており、一人ずつ中に入り、そこで全身消毒され着替えるようになっていた。
「いやー、ごめんねえ。君が汚いとかじゃなくて、外にある未知の病原体を持ち込むのが怖かったのさ。帰りに、君の着ていたものは返すから大丈夫だよ」
そういって、クライツェルは謝った。
徹は、置いてあった作業着に着替えていたがもちろんのこと、着ていた服は預けず、秘密基地のほうに放り込んでいた。
「それで、さっきの話の続きだけどね。彼の作った安定した原子炉―当時は永遠なんて呼ばれていたのだけど、爆発的に世界に広まってね。なぜかっていうと、ネットのせいでね。彼の論文がハッカーの手によってネット上にばらまかれたんだ。製造のノウハウと一緒にね。その件、で当時の軍のトップが総入れ替えになったとかならないとかもあったなあ。まあ、大尉も実はネット上にばらまくことに協力したってうわさもあったね」
まるで、聞いてきたようなしゃべり方をするクライツェルに徹は、こいついくつだよと一人つっこんでいた。
「そして、世界中に安定した原子炉は広まっていった。といっても、すべての国に、配備されるのには一世紀かかったけどね。それからまた一世紀、あの日はきたのさ」
クライツェルが少しだけ黙とうをしていた。
その行動が、これまでの陽気で軽薄なイメージのクライツェルとかけ離れたもので、何となく徹は居心地が悪くなる。
「つくづく世界にはゼロリスクなんてないと思い知らされたよ」
「なにがあったのですか?」
「プチ氷河期がおわって、地球が温かくなっただけさ。ただそれだけで、今まで安定していたエターナルは、その安定をやめてしまったのだよ。二世紀もたてば天才も死んでいないしどうしようもなかったよ。いや、いたとしてもどうしようもなかったかな。すべてのエターナルが並行して、臨界を突破して爆発した」
「なるほど、地上はその時、放射能に汚染されてしまったのですね。ああ、だから鳥の姿を見かけなかったのか…」
「まあ、鳥類は放射性物質に対する感受性が高すぎて絶滅したらしいね。彼らは空を飛ぶために、いろいろなものを犠牲にして進化したからね。こういうことに弱かったのだろうね」
そうこう話をしている間に、二人は行き止まりについてしまった。
「さて、この向こうが目的地さ」
クライツェルは手招きしながら、扉を開ける。
「ようこそ、香山君。僕らは『プロジェクト:英雄妖精』のチームさ。でも、身構えることはないよ。外を僕らと同じ人間の君が歩いているのが珍しくて呼んだだけなんだ。少しだけ君の話を聞かせてくれるかい?」
なんかルビがうまく使えない…どういうことなの?




