サ〇ヲって最高ね
すいません。筆がますます遅くなってます。
見上げれば、からりと晴れた雲一つない空がそこにある。
最近はだんだんと気温も上がってきているようで、夏の到来を感じさせる。
ふと思えば、梅雨がなかったななどとのんきなことを考えるが、ここが異世界である以上梅雨が無くても不思議ではない。
(そういえば、鳥のさえずりとか聞こえないし、鶏もいないんだな)
徹は昔、田舎で鳥が鳴いていたことを思い出す。
さすがに、鳥のさえずりで起きるような、優雅な人間ではなかったが。
徹の顔には生々しい傷の跡が走っており、日光を浴びてより一層と目立っていた。
「行くのかい?」
「ああ、今日は何かをするにはいい日さ」
声をかけたのはおやっさんだった。
「それでも、ゾネが返ってくるのを待ってもいいんじゃないか?お前のとこのパーティーだけで大丈夫なのか?」
徹たちのパーティーが今日迷宮の完全攻略を目標として迷宮に潜るという噂は、カーマインの街に広まっていた。
それを馬鹿にする人は多かったが、徹のことを知っている人間がバカにすることはなかった。
「大丈夫さ。それにまだ行くと決まったわけじゃない。パーティーメンバーの全員の同意が得られなかったらやめるさ」
「同意うんぬん以前に反対するような奴はいないと思っているんだろ?そういう言い方は詐欺師っぽいぜ」
(ゾネたちのパーティーとの合同か…まー無理だな)
徹も一瞬はそのことを考えたが、わざと落とし穴にかかるという作戦上信用のある人間にしか同意を得られないと判断したために諦めた。
その上、ゾネとそのパーティーは、リンやアニタなどといったカーマインの街の外に故郷を持つ人たちの帰郷に合わせて護衛として出払っていた。
彼らの帰郷の主目的は、故郷の安否だ。
カーマインがあれほどの大量の鵺襲ったのだ。周辺にある村が無事であるという保証はない。
それ故に早く確認しに行きたいだろうが、街の外には多くの鵺が残っている。
安全のために準備を整え、彼らを護衛する訪問者の選定などに時間がかかり、襲撃の日から2日たった昨日やっと出発できたところだ。
襲撃の後処理も同時で行っていたことを考えれば2日で出発できたのは早い方だろう。
だが、故郷の安否に心を焦らせている人間にはじれったい2日だったようで、一人で飛び出そうとするリンを抑え込むのに徹は見事に顔面にひっかき傷をもらっていた。
「でもなあ。その顔の傷死ぬほどダサいな」
「うるせえ!っていうか、今それ関係なくね?空気ぶち壊しだよ。しかもこれは、リンを押さえてくれって頼まれてやったんだぞ!ていうか、あの糞アマ。噂じゃおとなしくなったとか言っていたのに、あの暴れっぷりはなんなんだよ!全然、変わってねーじゃねーか!」
「そういってやんなって、あれでも俺とお前で迷宮をもぐった日からだいぶましになったんだぞ。一昨日のあれは、そんなのを気遣う余裕もなかったんだろ。大目に見てやれよ」
「へえへえ。それじゃ俺はそろそろ行くわ」
この話はも終わりとばかりに、徹は手をひらひら振ってクランを出ていく。
「土産話期待してるぜー」
「あいおー」
「いよお。みんな早いな」
おやっさんと話していたせいか、徹が迷宮近くに来るとほかのメンバーはすでに集合していた。
いつぞやのごとくみんな緊張した面持ちで、待っている。
「おはよ。トオルは珍しく遅いね。いつもは最初に来て待っているのに…それよりその顔どうしたの?」
その中でもカシアだけは、平常運転でいた。
「いや、これね…」
徹は自分の顔に手を当てて、みみずばれになっている傷を手でなぞった。
「ちょっと暴れブタを取り押さえるのに手間取ってね。いやー凶暴だったわ」
「ブタねえ…それはいいとしても。今日はどうするつもり?私は賛成だけど」
明らかに鋭利なもので引っかかれたであろう傷跡をいぶかしげに見ながら、カシアは本題を促す。
それに対して、徹は神妙な面持ちでうなずいた。
「それで他は?」
珍しく言葉短く切って、ほかの面々の顔を見ていく。
そこには、怯えと緊張と希望に満ち溢れた顔があった。
「なあ゛、ガーマ…本当に今回じゃなぎゃいけねーが?あぜってねーが?」
ほぼ全員が、同意してくれると思っていた徹には意外なことに、一番意外な人から待ったがかかった。
「焦っている?『焦っている』というより、『仕方がない』だろう?こればっかしは、どうしようもないさ。体の衰えなんてものはね」
コンラドの顔がみるみる間に青ざめていく。
徹の言うとおり、コンラドの身体能力は衰退していた。
本人は隠しているつもりでも、長時間の戦闘において動きがかすかに鈍りだしているのは徹の目には隠しようがなかった。
これから、コンラドはどんどん能力が減退していくだろう。
レベルもすでに70台にまで突入している。
レベル上げで能力を無理やりあげようにも、かなり無茶なレべリングをしなければ今の状態を維持できない。
それは、コンラドだけに言える話ではない。
カシアにとっても深刻な問題だった。
鼻の危機が悪くなっている。
気配を探れる距離が短くなっている。
ごくごく些細な差ではあったが、心にずっしりとくる深刻な問題だった。
カシアはそのために、今の時点で迷宮の最奥に向かうことを賛成したのだ。
「別にそんなに青ざめることないじゃない。老いは誰もが来るものよ。トオルはその分を考えて、今日行くって決めたってこと。それに、体が衰えてきているからってすぐに戦えなくなるわけじゃないしね。それにコンラドは、エッカルトとフィーネのことをなめすぎよ。たしかにこの前までは、半人前だけど、もうレベルも50代後半に突入して、一人前に戦えるようになっているのよ」
「ま、そういうことだ。今じゃなかったら次はいつだ?この子らが70になるころか?その頃には、俺たちは引退に近いぞ。|何のためにいつまでやるんだ《・・・・・・・・・・・・・》?」
徹やカシアの言葉に反応してコンラドは考え込んでしまう。
その顔は、深刻というよりは思い悩んでいるようであった。
ただ、正確にコンラドの胸の中を理解しているのは徹だった。
コンラドがただ単に現状で迷宮攻略に危機感を抱いているとカシアは考えていた。
だが、本当のところは、そんなものではない。
コンラドは、徹に敬意を抱いており、今回の徹の判断も正当なものだと考えている。
彼が本当に、恐れているのはこのパーティーの解散。
徹は言った。
『このパーティーは、迷宮踏破を目指す』
つまり、迷宮踏破をなしてしまえば、終わってしまう。
このずっと祭りが続いているような楽しい日々。
信頼できるリーダーがいて、確固たる目標がある。
そしてパーティーメンバー全員がそれに向かって努力している。
信用できる仲間もいれば、自分を慕ってくれる後輩もいる。
コンラドにもわかっていた。
めきめきと実力をつけてきているエッカルトやフィーネのことを考えれば、このタイミングで迷宮踏破を目指すのが最高であると。
このタイミングで、迷宮の最奥に至る手段を見つけられた僥倖を。
それでも、このパーティーが終わらせたくない。
迷宮踏破しなければ、終わらないのではないか。
そう思ってしまうのはどうしようもなかった。
「…わがっだ。いごう」
コンラドは、眼をつぶると万感を飲み込んでそう答えた。
喉を何か通過する気がして胸が痛んだが、それも一瞬だった。
腹に何かが落ちてくる感覚と共に、不安が消し飛び、気合に体が支配される錯覚を覚えた。
コンラドが、同意を表すと話は早かった。
先達であるカシアとコンラドが同意している以上、それに反対できるほどエッカルトとフィーネの立場は高くない。
それでも、エッカルトかフィーネが正当な理由と共に反対すれば徹たちも真剣に考えてくれるはずだが、持ち前の若さというプライドのためにそれを言う事すらはばかられた。
要は、フィーネもエッカルトも徹たちに失望されたくないのだ。
ようやく一人前と認められた以上それにこたえたいと思ってしまっている。
予定では、もうそろそろ昼も近い時間なために、これから迷宮に潜り、11層で一度キャンプを張り、翌日早朝からあの落とし穴にかかってみるという計画を立てた。
結局、11層までは何の問題もなく到達することができた。
特に厄介な敵が出るわけでもなく、むしろ敵の出現はやや少なかった。
全開野営した場所も同じように残っていて、拍子抜けしながらも同じところで一晩を明かした。
全開見つけた落とし穴も問題なく見つける。
それどころか、丁寧に徹の引いたチョークの跡すら残っている。
「なんかこう、ここまであからさまだとやる気なくなるわー。かえりたいわー」
「急に何うのよ。うまくいっているんだからいいじゃない」
作為的なものを感じた徹は、期待を裏切って帰りたくなっていた。
「どじだ?おじげづいだが?」
「ちっがーう!まあいいや…説明しても理解してもらえる気がしねえ。予定どおり行くぞ。みんな集まれ」
そういって、徹は全員を集めるとその背中に『浮』の文字を書いていく。
これで、全員の体が浮力をもち、落とし穴が開いてもゆっくりと降りていく算段だ。
全員の準備が整うのを確認してから、落とし穴のスイッチを押す。
すると、床が観音開きに開いて、全員を飲み込んでいった。
「んで、よしいける。と思ったんだよ…」
落とし穴にゆっくりと落ちながら、約一時間。
徹たち一行がついた先は出口のない部屋だった。




