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リア充とかチンチンもげてしまえ

遅くなりました。やっと更新します

その日は朝から、ヴァニルクランの中にはでは木刀が肉を打つ音が響いていた。

それは、延ばし延ばしになっていた、ゾネによる徹の稽古の日がとうとうやってきたのだ。

特に明確に師弟関係をきづいて、指導をしているわけではない。

ただ単に立ち会っているだけだった。

そろそろ1時間ほどになる。

その間、訓練にならないからと魔術の使用を禁じられていた徹は、一度もゾネに木刀を当てることができなかった。

かすりもしなかったのだ。

その代り、ゾネの攻撃はガンガン当たる。

今や徹の体はあざだらけだった。

それでも不思議なことで、これくらいの傷なら命に別状はないし、ポーションを飲めば全回復だと思えば、痛みや傷に対する恐怖は半減する。

それどころか、痛みってこういう感覚だったのかと普段味わえない感覚を楽しむようになっていた。


「おう、そろそろ終わりにするか?」

「まだ…まだだ…ハァハァハァ…まだ一発もゾネに入れてないんだから…ハァハァ」

「おいおい、息上がってんぞ。そんなんじゃ無理無理。やすめって」


ゾネは、大げさなほど肩をすくめて、顔を振った。

まったくわざとらしい行為ではあるが、ゾネがやると不思議な愛嬌があって似合っている。


「しゅきああありぃいいい」


徹は、ゾネが横を向いた瞬間に、木刀を大上段に構えて、体重を乗せて振り下ろした。

その攻撃も、ゾネが半身避けるだけで簡単に外されてしまう。

その上、手痛いしっぺ返しももらった。


―ボゴン


胸にゾネの木刀をきれいに受け、後ろへ吹き飛ばされる。


「なんていうか、奇襲をしたかったのか、正々堂々やりたかったのかどっちなんだよ?あほじゃねーの?」

「がふぉ…よ、様式美だ…」


徹は息も絶え絶えのそれだけ言うと、大の字になって伸びてしまう。


「お、おい。大丈夫かよ」


さすがに徹が口から血を吐いている姿をみとめ、ゾネはあわてだした。

先ほどの一撃が、胸骨をたたき割り、肺に突き刺さったのだ。


「あぐ…あそこに…ある…」


徹は息も絶え絶えに、おいてある小瓶を指さした。


「あれか?あれをとってくればいいんだな!?」


予想以上の重体にあわてたゾネは、急いで小瓶をとって戻ってきてくれた。


「これでいいのか!?これをどうするんだ?」

「の…のま…飲ませ…」

「わかった。飲ませるぞ!」


小瓶のふたを開けて、口に無理やり突っ込む。

一見、ひどいようにも思えるが、ゾネには徹に嚥下能力が残っているとは思えなかった。

当然のように小瓶の中身は、胃だけではなく肺へと入っていく。

しかし、反射的に咳をする余裕もなかった。

そのおかげか、徹は小瓶の中身であるポーションが体中に浸透していくのを感じた。






「あ゛ー。いがらっぽい。うへー。調子乗って死にかけた…」

「すまんかったな」

「いやいや。ポーションがあるからって調子乗ったわ。マジ死ぬかと思った。ありがとね」


徹は立ち上がりながら、服についた泥を払い、ついでに体が完全に治っていることを確認した。


「それにしても、その薬は貴重なものなんじゃないのか?というか、それだけでもひと財産築けるだろう」

「えっ?ポーションってだいたいこんな性能なんじゃないの?まあ、確かに神崎さんの作ったものだから性能はいいけどさ」

「はあ?何言ってんだ。ポーションなんて、傷が化膿するのを防ぐだけだ。そんな重症をいとも簡単に直す薬なんてないわ!」

「え…?ダンジョンで怪我したらどうするの?たしか、詠唱魔術では回復したり、傷を治したりっていった回復魔術なかったよね?あれ全部攻撃系だよね?」

「バッカ。怪我したら引き返してくるに決まっているだろ。というか、迷宮では怪我なんてしていたら命取りだ」

「えええええええええええええええええええ!?」


(拝啓 おかーたま この世界は、ハードモードでした。 敬具 徹より)







そのあと、ゾネにポーションを分けてくれとせがまれ、いざというときのために一つだけ渡しておいた。

さすがに、ちょっとだけ効果の高い薬として渡すならまだしも、ありえないほどの効果を持つ薬を配るのには、気が引けたのだ。

それに、徹自身が、このポーションをまだつくることができない。

神崎さん残した遺品でしかない。そのために、有限なのだ。


(はあ…俺も早く、ポーション作成とか、魔道具作成とかそっちのスキル覚えないとなあ。神崎さんみたいに神様レベルじゃなくても、それなりのものでもつくれれば、違うんだけど…それにしても、ゲオルグは初めに会ったときにポーションで傷を治したのに何も言ってなかったな。なんでだろう?)









徹は、ゾネに朝から晩までしごかれた次の日、いったん準備を整えルために“工房”へ向かった。

そして、早朝、鶏もなかないような時間に迷宮の待ち合わせ場所でほかのパーティーメンバーを待っている。

案の定誰もまだ来ていなかったが、迷宮の入り口には、早朝から迷宮に入るパーティーがちらほら見受けられる。


(こうしてみると、訪問者(ヴィジター)って女子少ないな…まあ力仕事だからかね?男は妊娠もしないしな。頑張れば妊娠できるってだれか(おやっさん)が言っていたけど、俺にはできないしない!)


のんびりと眺めていると、だんだんと迷宮の前にはパーティーが増えてきていた。

そんな中、多くの訪問者(ヴィジター)が同じ方向を向いていた。

徹も不審に思い、視線の先を探ってみるが、そこには一人の女性が迷宮の方に歩いてきていた。

軽装で身を固めて、動きやすい格好をしている。

多分狩人か、魔術師といった後衛職だろう。


(あらかわいい。そしてケモミミ!ええのお、あんな()と同じパーティーできゃっきゃうふふしたいのお。どうせ、雲の上の人なんだろうけどね…)


徹の考えは、その迷宮の入り口に集まっていた人たちの総意だったであろう。

それだけ、彼女は目鼻口筋の整った顔立ちや黄金比のように整った体つき以上に、やたらと人目を惹きつける華があった。

それは、彼女の持つ雰囲気だろう。

ただいるだけで人を落ち着かせるだけのやさしい雰囲気、それでいて媚びることもなく、己の力でしっかりと自立している人間の持つ魅力。

そんな彼女が、徹の方を向くと笑顔になって向かってきた。


(おふ、その笑顔はずるい!卑怯だと思います!)


徹は、彼女の向かう方向を探してきょろきょろする。

だが、自分のところにはベンチがあるだけで何もない。


「おはよう、カーマ。はやいのね」

「…えっ?俺?お、おはよう」


(えっ?だれ?お、お、お、落ち着け俺!まともに取り合ってはダメだ!平静を保て、俺はできる子!そうできる子だ!よしきた!この美女が勘違いしている今、できることをするんだ!)


「カーマじゃなくてトオルでいいよ」

「えっ?あ、名前で呼ぶのはなれなれしかった?」

「いや、本当はトオルの方が名前じぇけー」

「へえー、そうなんだ。トール?」

「ノンノンノン。ト・オ・ル」

「ト…オル?」

「そうそう」

「トオル!こうね」


(うはあ、いいね!美人の女の子に名前で呼んでもらうって最高だね!)


「うんうん。それで、どちらさん?どっかであったっけ?」

「はっ?」


その返答にはビックリするほどの怒気がこもっていた。


(あるえー?なんか怒り顔に見覚えがあるんですけど…)


「私のこと忘れたの!?一昨日あったばっかりじゃない!カシアよ!」


カシアはそのまま顔を指さしながら、顔を徹に近づけた。

ふわっとかおる花の香りに、薄く施された化粧、紅いルージュに徹はどきりとしてしまう。


「えっ…?ええええええ!?変わりすぎでしょ!整形美人もびっくりよ!」

「そ、そんな変わったかな?昨日からずっと言われるんだけど…」

「うーん。変わりすぎなくらい変わっているけど。言われてみれば、パーツは変わってないかな?ただ、眉間のしわとかなくなっているね。あと目がやさしくなってる」

「そ…そう?」

「うんうん。おいちゃんは、いい変化だと思うよ。今までが、目つき悪すぎだと思うわー。うん、言ってしまえば『目で人が殺せるレベル』?」

「そんなにひどくはない!…と思うけど…」

「過ぎたことはいいんだよ。今が大事!きれいになったんだからいいの、いいの」


徹が、適当なことをほざいていると、そこに黒い影が現れた。


あでー(あれー)?二人ども、はやいなー」


二人が微妙な雰囲気を醸し出しているところに、現れたのはコンラドだった。

プレートメイルで全身を覆い、2.5mもある大槌(グラム)を肩に担いでおり、カシアとは違った形で目立っている。

その裏で、カシアは一人『私がきれい?ほんとに?』なんてトリップしている。


「おっす。コンラドも早いな。それにしても、やっぱり鎧はカッコいいな。なんていうか、戦士!って感じするしな!」

「ありがどう。でもな、カーマはぞんながっこ(格好)でいいだが?」


コンラドは徹の格好を馬鹿にするというよりも、迷宮に入るにはあまりにも軽装な恰好を心の底から心配している風であった。


「ああ、これね。これ実は、そのフルプレよりも防御力高いからね。アルメドシリーズ(超音波振動ブレード)だって、通さないからな」

「なんか、トオルっていろいろ規格外ね…」


カシアは盛大にため息をつく。この感じだと、徹がチェイサーとサシでやりあったことを知っているのだろう。


「そんなことはないよ。ふつーふつー。至って、一般ぴーぽーです」

「トオルが一般人なら私たちは、初心者以下ね…」


3人が、しばらく集まってしゃべっていると、エッカルトがフィーネに手を引かれながらやってきた。

エッカルトの表情は眠そうで、朝に弱い感じが見て取るようにわかる。


「お、おくれて…すいません」

「大丈夫だよ。まだ時間になってないよ」

「そうだぞ。そんなに急ぐ必要ないって言ってるだろー」


エッカルトは眠そうに、眼をこすりながら文句を言っている。


「エッカルト、おめーはだめだ。反省しろ」

「なんで、フィーネはよくて俺はだめなんだよ!男女差別だろ!変態じじいが!」

「あったりまえだろ、どうせ、エッカルト君はフィーネちゃんに起こしてもらわなければ遅刻していたんだろ?幼馴染の女の子に優しく朝起こしてもらえるなんて、嬉し恥かしイベントを起こしやがって!うらやまけしからん!」

「ちょっと落ち着いてよ、トオル」


カシアが徹の肩をたたいて、落ち着かせてくれた。

手のぬくもりが予想以上に徹の精神を落ち着かせてくれたが、逆にエッカルトは顔を赤らめてうろたえだした。


「あ、あ、あ、あの初めまして!お、お…ぼくはエッカルトといい、います」


緊張に顔を真っ赤にしてどもるエッカルトをみて、カシアと徹は顔を見合わせると声をはもらせた。


「「それはだめだろ!」」


その横で、フィーネが苦笑しているのが謎だった。












エッカルトとフィーネがギリギリで集まったために、迷宮の入り口は人だかりで混み合っていた。

その中に突っ込んでいく気も怒らなかった徹は、パーティーを引き連れて木陰で小休止をとることにした。

今日は、10層までで、パーティー戦闘の慣らしをする予定だったので、あまり焦っていない。

それよりも、今後のパーティー方針や戦闘スタイル、陣形を伝えるのに必死だった。

当然のようにエッカルトが文句を言う。

なんでも、コンラドさんの隣は怖いそうだ。

本人いわく、こんな大槌を振り回された中で戦うなんて馬鹿のすることらしい。

それでも、コンラドさんの持ち味は大ぶりな攻撃にある。

それを遠慮して小手先の技を優先してもらうなら、コンラドさんをパーティーに入れる意味がない。

そのために、エッカルト・コンラドの2枚前衛に後衛のフィーネ、そしてそれを守るカシアと遊撃の徹という構想は破れ。

コンラドの前衛を徹がサポート、後衛のフィーネをカシアとエッカルトで守る方向で話が決まった。

コンラドが申し訳なさそうにしていたので、『余計なことは考えずに、思いっきり飛ばしてほしい。細かいところを守るのは俺の仕事だから』と徹が伝えると嬉しそうに笑った。

そうこうしている間に、迷宮の混雑は解消されたので、迷宮に入ることになった。


べ、別にカシアが美人という表現を書くのに苦労したとか、書いてる途中に鳥肌が立って書けなかったとかじゃないんだからね!

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