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コズミック・ドリフター④偽りの楽園(リゾート・ユートピア "セレネ・ガーデン")  作者: naomikoryo


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10/10

第十話:二人が見た景色

セレネ・ガーデンは、文字通り蜂の巣を突いたような大騒ぎになった。

リラがリークした決定的な証拠と、ピクシーたちの悲痛な歌声は銀河ネットワークを瞬く間に駆け巡り、一大スキャンダルへと発展する。

人権団体からの厳しい非難。

主要取引先企業からの契約見直しの声。

そして何よりも、楽園のブランドイメージの致命的な失墜。


セレネ・ガーデンを支配する企業連合は、すぐさま対応に追われた。

数日後、彼らは公式声明を発表する。

ピクシーたちの労働環境の大幅な改善と、過去の契約内容の全面的な見直しを約束したのだ。

もちろん、それが完全に実行される保証はどこにもない。

巨大なシステムが、そう簡単に変わるはずもない。

だが彼らは確かに、巨大な壁に風穴を開けた。

ピクシーたちの心に、諦め以外の感情を灯し、偽りの楽園の欺瞞を白日の下に晒した。

それは小さな、しかし間違いなく価値のある勝利だった。


情報提供者――「歴史保存協会」の男との取引も、無事に終わった。

彼はリラのあまりにも鮮やかな手腕に驚嘆し、彼女を「信頼できるパートナー」と認める。

そしてクロノス・オーダーに関する、極めて重要な情報をリラに託した。

オーダーが次に狙っている古代文明の遺跡の場所。

そして、その遺跡に眠るとされるオーパーツの正体。

二人の旅の新たな羅針盤が、示されたのだ。


セレネ・ガーデンを去る日の夕暮れ。

陸とリラは、二人が最初にこの星へ降り立った、あのプライベートビーチに立っていた。

空は燃えるようなオレンジ色に染まり、二つの太陽がゆっくりと水平線の向こうへ沈んでいく。

ビーチにはもう観光客の姿はほとんどない。

ただ、穏やかな波の音だけが響いていた。


「……結局、あんたはいつも厄介事を引き寄せるな」

リラが遠い目をして呟いた。


「仕方ないだろ。ああいうのを見たら、放ってはおけない」

陸は少し照れくさそうに、頭を掻く。


リラはそんな陸の横顔をじっと見つめていた。

そして、ふう、と一つため息をつくと、言った。


「……あんたのやり方は非効率で、危険すぎる。いつか本当に命を落とすぞ。私が立てる計画の方が、よっぽど確実でスマートだ」


いつもの彼女らしい辛辣な言葉。

だが陸はもう、その言葉に傷ついたりはしなかった。

ただ黙って、彼女の次の言葉を待つ。


リラは視線を、夕日に染まる海へ戻した。

そして、ぽつりと呟く。


「だが……」


彼女はそこで一度言葉を切った。

唇が、かすかにためらうように震える。


「……たまには、悪くない」


夕暮れの風に溶けてしまいそうなほど小さな声。

だがそれは確かに、陸の心の奥深くまで届いた。


リラが認めてくれた。

自分のやり方を。

この青臭い理想論と、お人好しな感情論を、彼女が肯定してくれた。

その事実が陸の胸を熱く満たし、自分の信じた道は間違いではなかったのだと確信させる。


「……だろ?」

陸は満面の笑みを浮かべて言った。


リラはその笑顔を見ると、ぷい、と顔をそむけた。

頬が夕日のせいだけではなく赤く染まっているのを、陸は見逃さなかった。


二人の間に、もう言葉は必要なかった。

彼らの絆はもはや単なる契約関係ではない。

陸の理想と行動力。

リラの知略と情報戦。

互いの欠けた部分を補い、互いの強さを引き出し合う。

唯一無二の「相棒」。

二人は、その関係性の意味を確かに理解していた。


遠くのホテルの方から、微かな歌声が聞こえてくる。

ピクシーたちの歌声だ。

それはもう、以前のような悲しい響きではなかった。

力強く、喜びに満ちた、未来への希望の歌。


陸とリラはその歌声を聞きながら、しばらく黙って沈みゆく夕日を見ていた。

偽りの楽園は終わりを告げた。

だがそこには、確かな希望の種が蒔かれたのだ。


さあ、次へ行こう。

新たな目的地へ。

まだ見ぬ世界の謎へ。

二人の旅は、まだ始まったばかりだ。

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